来年度予算が成立した。鳩山由紀夫政権による初の予算だが、財源なき政権公約の実施などで財政悪化は目を覆うべき水準に達し、このままでは再来年度は予算が組めない状況になったといえる。
一方で「政治とカネ」をめぐる国民の不信は極度に高まっている。予算成立で国会運営のヤマを越した以上、この問題に早急に決着をつけたうえ、明確な財政健全化目標を示すことが、国民に対する最低限の責任である。
来年度予算の最大の特徴は、44兆円の国債発行額が37兆円の税収を上回ったことにある。当初予算ベースでの逆転現象は実質的に戦後初めてであり、そのギャップの異常さにも驚かざるを得まい。
◆明確な財政再建目標を
世界同時不況で税収見込みが大幅減少するにもかかわらず、社会保障費を中心に歳出規模を過去最大の92兆円強に膨らませたからだ。とりわけ、子ども手当や高校授業料無償化など政権公約の部分実施を組み込んだのが大きい。
これらの財源は事業仕分けによる無駄削減や所得控除見直しで捻出(ねんしゅつ)するとしていたが、目標には遠く及ばず財源の裏付けのなさを証明した。不足分は財政投融資特別会計積立金などいわゆる埋蔵金10兆円から手当てし、国債も何とか44兆円に抑えたのである。
つまり、ごまかしの財政手法を使ったわけだが、埋蔵金はほぼ底を突いたから、もうこの手法は通じない。財務省試算によると、来年度分の政権公約を再来年度予算でも実施した場合、財源不足額は51兆円に上る。仮に公約完全実施となれば、さらに10兆円が不足するとみられている。
これを歳出削減で埋めるのは誰がみても不可能だ。すべてを国債に頼れば、すでに残高が他の先進国とは比較にならない国内総生産(GDP)比で134%に達している財政は破綻(はたん)するしかない。
にもかかわらず、鳩山首相は任期中は消費税を上げないという。菅直人財務相も消費税の議論開始を宣言しただけで、まだ入り口にも立っていない。これでは政府が参院選前の6月に策定する中長期の財政健全化目標も中身が伴ったものにはなるまい。
せめて財源なき公約の撤回か大幅見直しを断行しないと、国民の将来不安はさらに高まろう。例えば子ども手当にしろ、少子化対策か景気対策か政策目的が分からないこともさることながら、どちらにしても効果は薄い。多くは貯蓄に回ってしまうからだ。
このまま大衆迎合の財源なき公約を実施していけば、取り返しがつかなくなる。将来の増税は絶望的な幅になり成長も阻害するからだ。鳩山政権と民主党は夏の参院選に向け破綻状態に近い財政の実情と増税の必要性、さらに正直な政権公約を国民に示すことだ。
◆小沢氏はけじめつけよ
「政治とカネ」の問題は、執行部批判を展開した民主党の生方幸夫副幹事長の解任騒動に発展した。処分を撤回した小沢一郎幹事長は「世論調査が判断材料になったのではない」と強調したが、世論の厳しい反発に抗しきれなかったのが実情といえよう。
政府と与党の最高責任者2人が政治資金規正法違反でそれぞれの元秘書らが起訴されたにもかかわらず、政治・道義的責任を認めず、開き直ったことが、内閣や党への支持を失わせた。明白な過ちを認め、国政調査権に基づく証人喚問に応じるなど、自浄作用の第一歩を進めるしかない。
小沢氏の元秘書、石川知裕衆院議員と北海道教職員組合から不正な資金を受けた小林千代美衆院議員の辞職についても、議員本人や地方組織に判断を委ねる話ではあるまい。首相や小沢氏の責任問題に波及させないところに政治不信の根幹がある。
骨太の国家ビジョンが打ち出せないことも問題だ。政策決定システムにかかわる法案審議は遅れている。国家戦略室を「局」に格上げする政治主導確立法案は審議入りが遅れ、副大臣や政務官を増員する議員立法は提出されていない。このため、4月1日からの実施はできない。政治主導体制の始動がずれ込む危機感が希薄すぎる。しかも、戦略局が正式に始動してもいかなる国家像を示すのか議論もされていない。
一方、参院選公約の策定に向けた「マニフェスト企画委員会」が党に置かれた。政府側から仙谷由人国家戦略相が参加する。党利党略を離れ、国民の利益を実現できる政策づくりができるかどうか、鼎(かなえ)の軽重を問われている。
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