予算成立 首相の地力問われる時

朝日新聞 2010年03月25日

予算成立 公約の見直しに踏み出せ

2010年度予算が、きのう成立した。国会審議は攻守ところを変えたとはいえ、かなりの時間が政治とカネの問題に費やされたのにはうんざりだ。しかし変わった点もある。連日、政権公約(マニフェスト)のあり方が論争の的になったことである。

大方は、自民党をはじめとする野党からの民主党批判だった。

民主党はマニフェストに、無駄遣いの根絶で9.1兆円を賄うと記したのに、事業仕分けなどで削れたのは1兆円程度。ガソリン税の暫定税率廃止もできなかった。公約違反ではないか、といった具合である。

マニフェストには政策の実現時期を示す工程表はあっても、財源捻出(ねんしゅつ)の工程表がないという指摘もあった。

政権攻撃が狙いではあっても、予算案審議でこれほどマニフェストが論じられたことは過去にない。与野党が衆院選で公約を競い合い、政権交代が実現したからこそ起こった変化である。

政策をないがしろにして政局にかまけることは許されない時代になった。日本の民主主義の一歩前進である。

一方、民主党公約が抱える問題は、日本のマニフェスト政治がまだまだ未熟な段階にある現実も示している。

マニフェストはどう取り扱うべきなのか。どのくらいなら変えることが許されるのか。この夏の参院選に向け、もう一度考え直す必要がある。

政権選択を賭けた衆院選でのマニフェストは簡単に変えるべきではない、変えれば政治不信を深めることになる、という議論がある。

民主党の小沢一郎幹事長も、参院選マニフェストは「衆院選のと大きく変わるはずはない」と、小幅修正にとどめたい意向を示唆している。

だが、それで済むだろうか。財源不足ははっきりしている。あれもこれも、というわけにはいかない。総額を圧縮し、政策の優先順位を明確にする。地に足のついた内容に改めることこそ、責任ある態度ではないか。

中身に無理があるとわかった以上、十分に説明したうえで手直しするなら、有権者は理解するだろう。

マニフェストをどのようにつくるのか。その手順も併せて考え直したい。

一握りの幹部が密室で決めるのではなく、党内外で幅広く議論し、合意形成を図る。最終的な責任は政策を実行する首相や閣僚が負う。透明性と責任の所在の明確化がポイントである。

自民党にも同じことが求められる。民主公約の「いい加減さ」を追及してきた以上、確かなものをつくれなければ話にならない。消費増税を含む財源論が問われる。

有権者へのサービスを並べたカタログではなく、めざす社会の将来像とそれを実現する方策を示したマニフェストへ。さらに一歩、進化させたい。

毎日新聞 2010年03月25日

予算成立 首相の地力問われる時

これからがまさに政権の地力が問われる場面となる。

総額92兆円の2010年度予算が成立した。まずは、戦後5番目のスピード成立を良しとしたい。月1万3000円の子ども手当や高校授業料無償化など、昨年8月の衆院選で民主党が国民に約束したマニフェストの多くが新年度から実施に移される。模様眺めの景気にとってはマイナスにはならないだろう。

その一方で、予算をめぐる一連の審議には大きな不満が残った。

第一に、「政治とカネ」をめぐる調査、審議が深まらなかった。鳩山由紀夫首相の偽装献金事件、小沢一郎幹事長秘書の政治資金規正法違反事件を国会が国政調査権を使ってどう裁くのか。国民の政治不信を解消するためにも、東京地検特捜部の捜査では届かない道義的責任や事実関係の解明が注目されたが、国会は国民の期待に応え切れなかった。

もちろん、質疑の大半は政治とカネに費やされたが、国会が長年の経験で積み上げてきた政治倫理審査会、参考人招致、証人喚問といった国政調査権を制度的に担保する場に両氏を呼ぶことができなかった。野党・自民党は与党ぼけで政権を追い込む技量、執念を欠き、与党・民主党は野党慣れで政権政党としての懐の広さを見せることができなかった、といえようか。

第二に、審議こそスムーズに進んだものの、我々が望んできた国政重要課題にかかわる「熟議」を聞くことができなかった。党首討論に不熱心だった民主党にはガッカリしたが、戦後ほぼ一貫して政権を担当してきた自民党の過去の経験を生かした大向こうをうならせるような質疑がほとんどなかったことも残念だ。

さて、後半国会に対する注文である。何よりも民主党らしさを出すために、国家戦略室を「局」に格上げする政治主導確立法案や、省庁の幹部人事を内閣に一元化する国家公務員法改正案などの成立を急いでほしい。「政治とカネ」問題の最終決着として企業・団体献金禁止を本気で実現してみてはいかがだろうか。

首相にとっては、自らが5月決着を約束した米軍普天間飛行場移設問題という高い峰が控えている。かつてなく傷んだ財政と6月に策定予定の新成長戦略をどうやってリンクさせるか、という難題もある。日米同盟の維持運営と新しい経済財政政策の立案。そして、もう一つ北海道教職員組合の違法献金事件が加わった「政治とカネ」問題の局面転換。

夏の参院選を前にして首相の正念場はむしろこれから始まると見るべきだ。しかもこれらは首相しか解決できない問題でもある。意地と踏ん張りを見せてほしい。

読売新聞 2010年03月25日

10年度予算成立 マニフェストの抜本見直しを

2010年度予算が成立した。

極めて問題の多い予算なのに、与党ペースで掘り下げた議論もせず、政府案通り成立に至ったのは遺憾である。

10年度予算は、民主党の政権公約(マニフェスト)に基づき、費用のかさむ政策が数多く盛り込まれたことで、一般会計総額が92兆円と大きく膨らんだ。

予算の大枠を定める概算要求基準が撤廃されたことも、歳出増の要因となったのは明らかだ。

一方、税収は37兆円余りに落ち込むため、当初予算としては過去最大となる44兆円もの国債を発行してしのぐ有り様だ。当初予算で国債発行額が税収を上回るのは、戦後初という異常事態である。

10年度予算が成立したばかりだが、「このままでは11年度予算はまともに組めない」との指摘が、早くも各方面から出ている。

税収増が期待できない中、政府が11年度も歳出拡大を続ける構えでいるからだ。これでは国債依存度がさらに高まり、日本経済に対する信用が失墜しかねない。

実際、海外の格付け機関は、日本の国債の格付けを引き下げる可能性を示唆している。

鳩山内閣は、財政事情の厳しさを再認識し、マニフェストへのこだわりを捨てて、財政健全化に努めなければならない。

10年度予算で最大の歳出項目は社会保障費である。約27兆円と一般歳出の半分以上を占める。この社会保障費は、11年度でも最大の歳出拡大要因となろう。

中でも、子ども手当の取り扱いが焦点だ。今年6月から実施される月1万3000円の半額支給ですら、10年度は2・3兆円かかる。11年度からの満額支給なら、5・3兆円の財源が要る。

これに、基礎年金の国庫負担引き上げ分(2・5兆円)や少子高齢化に伴う自然増分などを合わせると、社会保障費だけで6兆円もの財源を確保せねばならない。

にもかかわらず、10年度予算に計上された10兆円の税外収入は、埋蔵金の枯渇で、もはや当てに出来なくなった。

昨年の事業仕分けで削減されたのは7000億円に過ぎないことを考えれば、無駄減らしによる財源捻出(ねんしゅつ)は絵に描いた餅である。

歳入が足りず、無駄にも切り込めないとなれば、マニフェストによるバラマキ政策を大幅に見直すしかあるまい。

消費税率引き上げなどによる中期的な財政健全化の道も、早急に示す必要があろう。

産経新聞 2010年03月25日

来年度予算成立 ごまかし財政では国滅ぶ ばらまき公約を正直に見直せ

来年度予算が成立した。鳩山由紀夫政権による初の予算だが、財源なき政権公約の実施などで財政悪化は目を覆うべき水準に達し、このままでは再来年度は予算が組めない状況になったといえる。

一方で「政治とカネ」をめぐる国民の不信は極度に高まっている。予算成立で国会運営のヤマを越した以上、この問題に早急に決着をつけたうえ、明確な財政健全化目標を示すことが、国民に対する最低限の責任である。

来年度予算の最大の特徴は、44兆円の国債発行額が37兆円の税収を上回ったことにある。当初予算ベースでの逆転現象は実質的に戦後初めてであり、そのギャップの異常さにも驚かざるを得まい。

◆明確な財政再建目標を

世界同時不況で税収見込みが大幅減少するにもかかわらず、社会保障費を中心に歳出規模を過去最大の92兆円強に膨らませたからだ。とりわけ、子ども手当や高校授業料無償化など政権公約の部分実施を組み込んだのが大きい。

これらの財源は事業仕分けによる無駄削減や所得控除見直しで捻出(ねんしゅつ)するとしていたが、目標には遠く及ばず財源の裏付けのなさを証明した。不足分は財政投融資特別会計積立金などいわゆる埋蔵金10兆円から手当てし、国債も何とか44兆円に抑えたのである。

つまり、ごまかしの財政手法を使ったわけだが、埋蔵金はほぼ底を突いたから、もうこの手法は通じない。財務省試算によると、来年度分の政権公約を再来年度予算でも実施した場合、財源不足額は51兆円に上る。仮に公約完全実施となれば、さらに10兆円が不足するとみられている。

これを歳出削減で埋めるのは誰がみても不可能だ。すべてを国債に頼れば、すでに残高が他の先進国とは比較にならない国内総生産(GDP)比で134%に達している財政は破綻(はたん)するしかない。

にもかかわらず、鳩山首相は任期中は消費税を上げないという。菅直人財務相も消費税の議論開始を宣言しただけで、まだ入り口にも立っていない。これでは政府が参院選前の6月に策定する中長期の財政健全化目標も中身が伴ったものにはなるまい。

せめて財源なき公約の撤回か大幅見直しを断行しないと、国民の将来不安はさらに高まろう。例えば子ども手当にしろ、少子化対策か景気対策か政策目的が分からないこともさることながら、どちらにしても効果は薄い。多くは貯蓄に回ってしまうからだ。

このまま大衆迎合の財源なき公約を実施していけば、取り返しがつかなくなる。将来の増税は絶望的な幅になり成長も阻害するからだ。鳩山政権と民主党は夏の参院選に向け破綻状態に近い財政の実情と増税の必要性、さらに正直な政権公約を国民に示すことだ。

◆小沢氏はけじめつけよ

「政治とカネ」の問題は、執行部批判を展開した民主党の生方幸夫副幹事長の解任騒動に発展した。処分を撤回した小沢一郎幹事長は「世論調査が判断材料になったのではない」と強調したが、世論の厳しい反発に抗しきれなかったのが実情といえよう。

政府と与党の最高責任者2人が政治資金規正法違反でそれぞれの元秘書らが起訴されたにもかかわらず、政治・道義的責任を認めず、開き直ったことが、内閣や党への支持を失わせた。明白な過ちを認め、国政調査権に基づく証人喚問に応じるなど、自浄作用の第一歩を進めるしかない。

小沢氏の元秘書、石川知裕衆院議員と北海道教職員組合から不正な資金を受けた小林千代美衆院議員の辞職についても、議員本人や地方組織に判断を委ねる話ではあるまい。首相や小沢氏の責任問題に波及させないところに政治不信の根幹がある。

骨太の国家ビジョンが打ち出せないことも問題だ。政策決定システムにかかわる法案審議は遅れている。国家戦略室を「局」に格上げする政治主導確立法案は審議入りが遅れ、副大臣や政務官を増員する議員立法は提出されていない。このため、4月1日からの実施はできない。政治主導体制の始動がずれ込む危機感が希薄すぎる。しかも、戦略局が正式に始動してもいかなる国家像を示すのか議論もされていない。

一方、参院選公約の策定に向けた「マニフェスト企画委員会」が党に置かれた。政府側から仙谷由人国家戦略相が参加する。党利党略を離れ、国民の利益を実現できる政策づくりができるかどうか、鼎(かなえ)の軽重を問われている。

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