郵政改革案 逆戻り以上の後退だ

朝日新聞 2010年03月25日

郵政改革案 肥大化の弊害を恐れる

巨大なゆうちょ銀行がさらに肥大化することの危うさを、鳩山政権はなぜ真剣に考えようとしないのだろうか。郵政改革見直しの強引な内容に、首をかしげるほかはない。

ゆうちょ銀行への預け入れと、かんぽ生命保険の保障の上限を政令でざっと2倍にするという。

郵便事業の先行きが厳しいなか、金融子会社の収益拡大で日本郵政グループの活路を開こうとの意図だ。旧特定郵便局長の意向を受けてのことか、郵便局はなんとしても残すとの執念がにじむ。だが、今でも大きすぎる郵貯・簡保が肥大化の道を突き進めば、日本の金融システムはさらにゆがむ。

融資の審査能力が乏しく、運用が国債保有に偏っている郵貯が膨張すれば、企業の設備投資などに向かうべき資金の効率的運用が損なわれ、経済や社会の活力を奪う危険がある。

日本経済の将来を考えれば、郵貯と簡保の限度額は見直すべきでない。

一連の郵政見直しでは、郵便局を全国一律の金融サービスの担い手とする公益性重視の考えが強く打ち出された。それを背景に、日本郵政を経由したゆうちょ銀行などへの政府の間接出資も残ることになった。

このため、預金保護の上限が民間金融機関と同じ1千万円であっても、預金者に与える安心感でゆうちょ銀行が優位に立つ。特に、地方の活力を担うべき中小金融機関との公平な競争は保てないのではないか。

日本郵政からゆうちょ銀行、かんぽ生命保険への出資をなくし、政府との資本関係を切るべきだ。そうしても、両社のサービス網が郵便局に依存する限り、業務提携は続けられる。

政府が肥大化路線を正当化する口実のひとつに、郵便局しか金融サービスの担い手がない過疎地域での国民サービス対策がある。しかし、金融過疎で困っている地域を特定したうえで、他の金融機関を含めて解決策を考えればいいことだ。

全国一律サービスを維持するのに必要なコストをまかなうため、グループ内取引にかかる消費税500億円を免除する案も政権内には浮上している。これも筋違いだ。経営努力が先決であり、それでも足りず国民の追加負担を求めるというのなら、別の目に見える形をとるべきだ。

亀井静香郵政改革相は、郵政グループの非正規雇用10万人を正社員化する方針を打ち出してもいる。正社員を極力増やすことは大事だ。格差是正の努力それ自体は歓迎したい。だが、実現すると人件費は数千億円増え、収益圧迫で株式売却も難しくなる。

経営努力の裏付けがない公約をひとり歩きさせるなら「雇用のバラマキで参院選対策か」と批判されても仕方がない。もっと誠実な改革を求めたい。

毎日新聞 2010年03月25日

郵政改革案 逆戻り以上の後退だ

郵政改革はいったいどんな形に落ち着くのだろうか。政府案として発表された郵政改革見直しの内容に、閣内から異が唱えられ、鳩山由紀夫首相も「これから議論する必要がある」と述べた。

民主党はもともと郵政の金融業務について縮小を主張していた。発表された案は、経営形態が逆戻りするだけにとどまらず、規模のさらなる拡大も図る内容だ。

貯金と保険の限度額拡大について「閣内での議論を」と述べた仙谷由人国家戦略担当相の指摘自体は当然だが、政府案として発表された後に、どうしてそのような動きが出てくるのか、理解に苦しむ。

その政府案の中身は、ゆうちょ銀行への預け入れ限度額を、現行の1000万円から2000万円とし、かんぽ生命の保険金限度額も1300万円から2500万円へと大幅に引き上げるというものだった。がん保険など新規事業にも取り組む。

現在ある持ち株会社と郵便事業会社、郵便局会社を統合した親会社の傘下に、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の金融2社を置くが、政府は親会社の株式だけでなく、親会社を通じて金融2社の株式も間接的に保有し、拒否権を行使できるようにする。

縮小が避けられない郵便事業を、金融業務の拡大で支えるというのが、基本的な構図だ。ただし、金融事業の拡大といっても、運用ノウハウが蓄積されていないため、集められた資金は利ざやの薄い国債で運用するしかない。

しかも、約10万人の非正規従業員を正社員にするという。正社員化自体は、悪いことではない。しかし、そのコスト増を吸収できるほどの収益を、将来にわたってあげ続けることができるのだろうか。

だから、規模を拡大するということなのだろう。しかし、暗黙の政府保証が付いたゆうちょやかんぽの拡大は、中小の民間金融機関にとっては大きな脅威となっている。民業圧迫の結果、経営に窮した民間金融機関を国が支えるということになれば、郵政のために税金を使うのと変わらない。

民主党は、こうしたことにも配慮し、郵政改革にあたっては金融業務の縮小を主張していた。ところが、政権交代後、郵政担当相となった国民新党の亀井静香代表に見直しの主導権を握られてしまった。郵政改革について民主党は、日本郵政の社長人事に続き、今回も亀井氏に押し切られようとしているように映る。

そうした段階で、鳩山首相や仙谷氏がさらなる議論を求めた。民業圧迫とならず、将来にわたって国民負担も生じないよう、鳩山首相の責任で議論をまとめてほしい。

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