グーグル撤退 中国ネット検閲は行き過ぎだ

朝日新聞 2010年03月24日

グーグル撤退 ネットに長城は築けない

ネット空間に、人々の自由を制限するために国境を設けようとするのは、時代に逆行することである。

「検閲」で情報の出入りを制限しようとする中国政府と、「自由」を掲げる米グーグル社による交渉は、双方とも譲らず物別れとなった。グーグルは中国本土でのネット検索サービス事業からの「撤退」を決めた。

中国当局がネット規制にこだわるのは、天安門事件やチベット騒乱など自らの統治に都合の悪い情報や映像が流れるのを恐れているからだろう。中国最高人民検察院(最高検)のトップは最近、国家の安全を脅かす犯罪のひとつとして「ネット利用」をあげた。

だが、ネット社会の発展に逆らうような検閲をいつまでも実施できると考えているとすれば、中国共産党・政府指導部の認識は誤りだ。

グーグルは今年1月、中国版検索サイトへの検閲が続いていることや、サイバー攻撃が激しくなっていることを理由にあげて、中国版検索サイトや現地法人を閉鎖する可能性があると発表。中国側と交渉を続けてきた。

しかし、検閲について交渉の余地がないことが明らかになり、ネット検索サービスの停止に至ったという。

中国でネットを管理する国務院新聞弁公室は逆に、グーグルが中国市場に参入する際に検閲を受け入れたことを指摘し、グーグル側に不満と憤りを表明する談話を発表した。

中国はすでに4億近い利用者「網民(ワンミン)」のいる最大のネット国だ。ネットは様々な情報や意見が流れる、中国の人々の暮らしに欠かせない血管となっている。そもそも胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席自身、「時間をつくってネットを見ている。網民の関心を知るためだ」と語り、その必要性を肯定している。

自由な情報の流れを阻害すれば、いずれ経済発展にも足かせになろう。

中国当局がネットに神経をとがらせる理由には、長期的なIT戦略もある。米企業に過度に依存すれば、安全保障にも影響しかねない。グーグルに対しては、世界からかき集めた利用者情報を独占する「情報支配」への警戒感も強いようだ。とはいえ、世界第2の経済大国になろうという中国が、今後の世界でのITの重要性に背を向けることはできまい。

グーグルは中国本土からの検索事業撤退にあわせて、大陸の利用者が中国版サイトにアクセスすると自動的に自己検閲のない香港版サイトに転送することにした。ただ、当局に管理されるプロバイダーが遮断するのは容易だ。

とはいえ、国境のないネットの世界。当局の規制をくぐり抜けて、ネットに巧妙にアクセスする利用者も増え続けている。

ネット上に「侵略」を防ぐ万里の長城は築けまい。

毎日新聞 2010年03月26日

グーグル撤退 ネット攻撃への警鐘も

検閲への協力とメールシステムへの攻撃をめぐって中国政府に改善を求めていた米検索大手のグーグルが、中国での検索サービスから撤退する措置をとった。

撤退といっても、グーグルが設けた中国国内用の検索サイトに接続しようとすると、香港にあるグーグルのサイトに自動的につながり、検索ができるようにするというものだ。広告募集などの営業や、開発の拠点は、そのまま中国に残すという。

中国当局が対策をとり、グーグル香港につながらないようにすることも当然見越して対応している。

グーグル香港への中国からの接続状況について、ネット上で公開を始めた。アクセスが集中した結果という可能性もあるが、すでに動画閲覧やブログなどのサービスに中国からアクセスできなくなっている。

接続についての状況を世界に公開することにより、国民の知る権利を制限している中国の実態を明らかにし、圧力をかけようということなのだろう。

今回、グーグルの措置には、検閲への協力の拒否を明確にする以外に、システムに対する攻撃に抗議するという目的も込められている。

グーグルの電子メールシステムに中国から攻撃が仕掛けられ、中国人人権活動家に関する情報を取得しようとしたという。高度な技術が使われ、組織的な関与がうかがえることをグーグルは明らかにしている。

攻撃の手法について解析し、どこから攻撃を受けたかをグーグルは特定しているとみられる。しかし、その詳細を明らかにすると、手の内をさらすことになる。

ネットワークを通じた攻撃と防御は、安全保障上も重視されている点だ。サイバーテロによって、発電所が制御不能に陥るなどの事態が起これば、社会は大混乱するだろう。

米中両国とも、サイバーテロについて、攻撃と防御の研究をしているはずで、グーグルについては、米国家安全保障局(NSA)など政府機関との関係も指摘されている。

グーグルは世界中から膨大な情報を蓄積している。そのシステムに関する機密を中国としては知りたいだろう。中国からの攻撃、そしてグーグルの中国でのサービス停止は、情報戦の一環とみることもできる。

ネットワークをめぐる攻防にはそうした側面があることも念頭においておかねばならない。

しかし、世界と自由な通商を行い、それによって大国に成長した中国が、検閲への協力を、外国企業にもいつまでも強い続けるというのは異様だ。表現の自由と通信の秘密は、近代社会の基本的なルールで、中国もそれを尊重すべきだ。

読売新聞 2010年03月24日

グーグル撤退 中国ネット検閲は行き過ぎだ

インターネット検索で世界最大手の米グーグルが、自主的な検閲の実施を要求する中国政府に、ノーを突き付けた。

中国本土のネット検索事業から撤退すると、グーグルが22日、発表した。

2006年に本格進出して以来、中国政府の要請に沿って、反政府活動家などの情報を削除してきたが、方針を転換した。

グーグルは、サイバー攻撃を中国から受けたことなどをきっかけに、今年1月から自主検閲なしでの検索サービスの提供を求め、中国と交渉してきた。

しかし、ネットへの監視を強める中国と、自由な情報検索を売り物にするグーグルは、結局、折り合うことが出来なかった。交渉決裂は、残念な結果である。

利用者が約4億人に上る中国は世界最大のネット市場で、今後も成長が見込まれる。

その中国の検索市場では、国内資本で最大手の「百度(バイドゥ)」がシェアの6割を占め、3割のグーグルとの差は大きい。

グーグルは、事業を維持・拡大したかったはずだが、自主検閲をやめ、ネット利用者の信頼獲得を優先したのだろう。

クリントン米国務長官は、中国の検閲を「世界人権宣言に違反する行為」と批判していた。こうした米国政府の厳しい姿勢も、グーグルの決断を促した形だ。

グーグルは次善の策として、中国本土からの検索アクセスを香港のサイトに自動的に転送し、利用できるようにした。中国での研究開発や営業拠点も維持する。

中国市場の将来性を考えて、全面撤退は避け、足がかりを残したい思惑がうかがえる。

中国の姿勢は強硬だ。グーグルの決定に反発しており、香港での検索についても、「天安門事件」などの一部情報が検索できない状況が生じている。

グーグルは当初、香港経由ならば、検閲を受けずにサービスの提供が可能だと判断したようだ。

だが、中国では、海外と国内をつなぐインターネットの基幹網を政府が事実上管理しており、中国本土の利用者が自由に検索サイトに接続できないよう、現在も制限している可能性がある。

懸念されるのは、米中間の軋轢(あつれき)が強まることだ。米政府は、米企業への不公正な扱いとして、この問題を世界貿易機関(WTO)に提訴する方針を示唆している。

中国は、事態の深刻化を避けるためにも、ネット検閲をやめるべきである。

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