サリン事件15年 あのテロは世界も変えた

朝日新聞 2010年03月20日

サリン事件15年 あのテロは世界も変えた

地下鉄サリン事件から、きょうで15年になる。犠牲になった人々の遺族や負傷者の苦しみ、悲しみはこの歳月で消えるはずもない。

奇怪なカルト集団による非道な行為。その衝撃は世界的なものだった。大量破壊兵器(WMD)のひとつである化学兵器を使って大都市で大量殺人を試みた世界史上初の無差別テロだったからだ。

WMDには化学兵器のほか、生物兵器、核兵器が含まれる。冷戦後、WMDの拡散防止が安全保障や国際社会の安定にとって重要課題となっていた。だが、対策が整わないうちに、あの事件が起きた。

大規模にWMDを使うテロが広まれば、世界はどうなるのか――。米国議会上院の小委員会で1995年秋、事件の教訓をまとめた文書が公表された。そこにはこう記されている。

米国の情報当局は主に国家への拡散は懸念していたが、犯罪組織によるWMDテロは起きそうにないとの慢心があった。事件は、米国への強烈な「目覚まし」となった。

同じ年の主要国首脳会議も、テロなどの国際組織犯罪に関する専門家会合の設置を決めた。

事件は世界の動きを変えるテロだったのだ。

その後、2001年に9・11テロが起き、米国の安全保障政策は対テロ戦略へとさらに重点を移す。極度にWMDテロを警戒するようになり、フセイン政権がWMDを隠し持っている恐れがあると、イラク戦争にうって出た。

WMDと言っても、核兵器の方が生物・化学兵器より殺傷力が巨大だ。ひとくくりにすることへの違和感もある。ただ、一度に大量の無差別被害をもたらす点では共通している。

04年になって、米国主導で国連安全保障理事会決議1540号が採択された。テロ集団によるWMD製造などを禁止する法律の制定・執行、密貿易を防ぐための輸出管理強化などを、国連加盟国に求めている。

WMDについてはすでに、核不拡散条約、生物兵器・化学兵器禁止条約がある。だが、テロを防ぐには各条約に加えて、この決議を生かし、WMD関連の犯罪行為をいち早く摘発していくことが肝要だ。

オバマ米大統領は4月に、核テロ防止を主眼に核保安首脳会議を主催する。課題のひとつは、この決議の効果的な実行だ。対策の遅れがちな途上国を支援し、国際社会が足並みをそろえれば、核テロに限らずWMDテロ全体を抑える手立てとなる。

日本は、WMDに触手を伸ばすテロ組織を抑えるため、多国間協力を強く促すべきである。国内で、化学兵器テロの恐怖を目の当たりにした国の大事な使命でもある。

産経新聞 2010年03月21日

地下鉄サリン15年 テロ防止に万全の対策を

多数の犠牲者を出した地下鉄サリン事件から、20日で15年がたった。オウム真理教(アレフに改称)によるわが国初の本格的テロ事件である。

しかし、年月がたつにつれて国民の危機意識は薄れがちだ。テロはいつどこで起きても不思議ではない。常に万全のテロ対策を進め、事件を風化させてはならないことを改めて肝に銘じたい。

平成7年3月20日の午前8時ごろ、東京都心を走る地下鉄日比谷線など5本の電車内で、カルト集団のオウム真理教の幹部らが一斉に猛毒のサリンを散布した。教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚の指示で、同教団に対する捜査の阻止などを狙った無差別殺傷テロだった。

麻原死刑囚ら教団の元幹部ら14人が起訴され、死刑7人、無期懲役4人が確定したが、まだ3人が上告中だ。死傷者数も警察庁の最近の調査では、死者13人を含む約6300人にのぼり、いまだに後遺症に苦しむ人が多い。

同教団の組織は内部対立から分裂したが、麻原死刑囚を崇拝する信者が今も多い。捜査当局には今後も厳しい監視の目を怠らないよう求めたい。

テロの未然防止には、さまざまな情報を広く収集し、的確で迅速に分析することが求められる。そのためにも、テロ対策にあたる警察庁、法務省入国管理局、防衛省・自衛隊などの捜査・治安機関は情報を共有することが第一だ。

海外の捜査・情報機関との協力体制も欠かせない。とくに米国をはじめとして世界各地でテロ活動を活発化させている国際テロ組織「アルカーイダ」の動向などは、外国情報機関の情報がなければ把握が困難であり、テロ防止は不可能といっていい。

アルカーイダは「日本を標的にする」と名指ししたことがある。国際手配中のアルカーイダ関係者が偽造旅券で入出国を繰り返していたのも古い話ではない。外国の情報機関から指摘されるまでわからず、警察と入管局との連携の重要性を再認識させられた。

テロ対策では、北朝鮮による日本人拉致や日本赤軍の問題も忘れてはならない。北の工作員らの取り締まりと監視を強化するには、入管法の罰則強化や国家機密法制定などを含む対応が不可欠だ。

節目の年を契機に、テロを防ぐためにあらゆる手立てをとらなければなるまい。

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