地下鉄サリン事件から、きょうで15年になる。犠牲になった人々の遺族や負傷者の苦しみ、悲しみはこの歳月で消えるはずもない。
奇怪なカルト集団による非道な行為。その衝撃は世界的なものだった。大量破壊兵器(WMD)のひとつである化学兵器を使って大都市で大量殺人を試みた世界史上初の無差別テロだったからだ。
WMDには化学兵器のほか、生物兵器、核兵器が含まれる。冷戦後、WMDの拡散防止が安全保障や国際社会の安定にとって重要課題となっていた。だが、対策が整わないうちに、あの事件が起きた。
大規模にWMDを使うテロが広まれば、世界はどうなるのか――。米国議会上院の小委員会で1995年秋、事件の教訓をまとめた文書が公表された。そこにはこう記されている。
米国の情報当局は主に国家への拡散は懸念していたが、犯罪組織によるWMDテロは起きそうにないとの慢心があった。事件は、米国への強烈な「目覚まし」となった。
同じ年の主要国首脳会議も、テロなどの国際組織犯罪に関する専門家会合の設置を決めた。
事件は世界の動きを変えるテロだったのだ。
その後、2001年に9・11テロが起き、米国の安全保障政策は対テロ戦略へとさらに重点を移す。極度にWMDテロを警戒するようになり、フセイン政権がWMDを隠し持っている恐れがあると、イラク戦争にうって出た。
WMDと言っても、核兵器の方が生物・化学兵器より殺傷力が巨大だ。ひとくくりにすることへの違和感もある。ただ、一度に大量の無差別被害をもたらす点では共通している。
04年になって、米国主導で国連安全保障理事会決議1540号が採択された。テロ集団によるWMD製造などを禁止する法律の制定・執行、密貿易を防ぐための輸出管理強化などを、国連加盟国に求めている。
WMDについてはすでに、核不拡散条約、生物兵器・化学兵器禁止条約がある。だが、テロを防ぐには各条約に加えて、この決議を生かし、WMD関連の犯罪行為をいち早く摘発していくことが肝要だ。
オバマ米大統領は4月に、核テロ防止を主眼に核保安首脳会議を主催する。課題のひとつは、この決議の効果的な実行だ。対策の遅れがちな途上国を支援し、国際社会が足並みをそろえれば、核テロに限らずWMDテロ全体を抑える手立てとなる。
日本は、WMDに触手を伸ばすテロ組織を抑えるため、多国間協力を強く促すべきである。国内で、化学兵器テロの恐怖を目の当たりにした国の大事な使命でもある。
この記事へのコメントはありません。