副幹事長解任 自浄努力を封じる愚かさ

朝日新聞 2010年03月21日

生方氏解任 幹事長室に風は通らない

愚挙としか言いようがない。

民主党が、生方幸夫副幹事長の解任を決めた。産経新聞に掲載されたインタビューで、生方氏が小沢一郎幹事長らを批判したからだという。しかし、解任までしなければならないような発言内容とは考えられない。

生方氏は、小沢氏の政治資金の問題について「しかるべき場所できちんと説明するのが第一。それで国民の納得が得られなければ自ら進退を考えるしかない」と述べた。当然の見識だ。

「民主党の運営はまさに中央集権です。今の民主党は権限と財源をどなたか一人が握っている」とも語った。

皮肉まじりの辛口発言ではあるが、的外れな言いがかりではない。

小沢氏が選挙の公認権と政党交付金などの配分権を握っているのは紛れもない事実だ。元秘書ら3人が逮捕・起訴されても、党内から小沢氏批判の声はなかなか上がらない。陰では「小沢独裁」への不満が高じているのにだ。

解任の理由は、発言の中身というよりも、副幹事長職にありながら党外で執行部を批判した点にあるらしい。そこにいささかの傷を認めるにしても、処分の重さはいかにも均衡を欠く。

生方氏はかねて幹事長室への権限集中に異を唱えてきた。小沢氏が廃止した政策調査会の復活をめざす会も立ち上げ、鳩山由紀夫首相や小沢氏に直接訴えてきた。

それが気に障るから今回の挙に出たのだとすれば、常軌を逸している。「言論封殺」との批判を免れまい。

首相も解任に同調しているようだ。内部からの批判を許容しない体質に、実は首相も染まっていたのだろうか。見識を疑う。

生方氏解任を主導したのは、小沢氏に近い高嶋良充筆頭副幹事長だった。小沢氏は高嶋氏に「円満に解決できないのか」と語ったが、結局は「任せる」と応じたという。

上に立つ者が考えを示さなくても、下の者がその意向を忖度(そんたく)し、成り代わって行動する。意に沿おうと思うあまり、度を越すことも多い。抜きんでた権力者と、その取り巻きがしばしば見せる典型的な「側近政治」である。

それによって昨今の民主党は、風通しが悪く、暗い印象が強まるばかりだ。自由闊達(かったつ)を旨とする「民主党らしさ」はすっかり色あせた。

かつて自民党全盛時代の幹事長室は多くの来客が自由に出入りし、「歩行者天国」と言われることすらあった。自民党でも幹事長をつとめた小沢氏がそれを知らないはずはない。しかし、いまさら氏に改心は期待できまい。

党風を刷新するなら、内側からマグマが噴き上げてこなければならない。もう待ったなしのタイミングである。それができなければ、さしもの民主党への追い風もやむことだろう。

毎日新聞 2010年03月20日

民主・生方氏解任 党を暗く閉ざすのか

これが鳩山由紀夫首相が言うところの「民主党らしさ」とは、とても言えまい。民主党は小沢一郎幹事長の党運営などをめぐり批判を展開していた生方幸夫副幹事長の解任を決めた。

鳩山内閣の支持率が急落する中、党のあり方をめぐりさまざまな議論が党内で起きることは、むしろ自然とすら言える。生方氏をいきなり解任する行動はあまりに強権的で、議員の自由な発言すら封殺しかねない愚挙と言わざるを得ない。

何とも異様である。解任の直接の原因とみられるのは産経新聞が掲載したインタビューだ。この中で生方氏は「民主党の運営は中央集権。権限と財源をどなたか一人が握っている」と事実上、小沢氏による党支配を批判、首相に小沢氏を注意するよう促した。これに反応したのが小沢氏に近い高嶋良充筆頭副幹事長だ。「外部に向かっての批判は問題」と生方氏に辞任を迫り、副幹事長会議で解任方針を確認した。小沢氏も「残念だ」とこれを了承したという。

唐突な解任には伏線がある。生方氏は小沢氏が廃止した党政調の復活を求めるグループの中核的存在で、小沢氏に対する不満の受け皿だった。このまま生方氏を放置すれば「政治とカネ」をめぐる小沢氏の幹事長辞任論が拡大しかねない、との思惑が働いたのだろう。

だからといって、いきなり排除する手法はまったく理解できない。小沢氏の資金管理団体を舞台とする事件や党の運営をめぐり党内で自由な意見があまり聞かれない党の閉鎖性や体質にこそ国民はむしろ、不信を強めているのではないか。

国会議員は有権者の代表として自らの所見を語る責任があり、メディアへの発信もその一環だ。政党幹部の言動として問題があると執行部が判断したのであれば十分に事情を聴き、必要に応じ注意をするなど、対応は他にいくらでもあるはずだ。そもそも生方氏は役員会や常任幹事会のメンバーでもなく、党内で意見を言う場もほとんどない。問答無用とばかりの解任は、小沢氏批判を含む自由な議論を封じるための威嚇とみられても仕方あるまい。

生方氏は反発を強めており、党内対立は深まりそうだ。閣僚にも解任を疑問視する声が出ているが、今回の事態は国民の民主党への強い失望を招きかねず、深刻だ。従来の政治にない清新さを期待し政権交代を選択した有権者の目に、古い体質の締め付けはどう映るだろう。

党のイメージを決定づけかねない局面にもかかわらず、首相は「外でさまざまな声を上げれば、党内の規律が守れない」と解任を支持した。これでは見識が問われる。

読売新聞 2010年03月22日

副幹事長解任 言論封じた民主の強権体質

民主党の生方幸夫・副幹事長が、党執行部批判を理由に解任されることになった。

たとえ執行部の一員であれ、党のあり方についての批判的言論が一切許されないというのでは、民主的な政党とは言えない。いきなり解任というのも、強引すぎる。

民主党長老の渡部恒三衆院議員は、自民党時代を含む長い議員生活の中で、こうした執行部批判による解任は「聞いたことがない」と批判している。

発端は、生方氏への産経新聞のインタビュー記事である。

生方氏は、この中で党運営を集権的と批判し、小沢幹事長に対しては「政治とカネ」の問題について、「しかるべき場所できちんと説明するのが第一。それで国民の納得が得られなければ自ら進退を考えるしかない」と語った。

筋の通った指摘だ。

これに対して高嶋良充・筆頭副幹事長は、「外部に向かって批判するのは副幹事長の職責から言って問題がある」として辞任するよう求めた。言論封殺に等しい。

生方氏が、「秘書らが3人逮捕されている幹事長の責任はどうなるのか」と反発し、辞職を拒んだのも、当然のことだ。

今回の事態に発展したのは、小沢氏周辺が、これを契機に小沢氏批判が高まるのを警戒し、芽をつもうとしたためだろう。

小沢氏は解任を了承し、鳩山首相も「党内規律が守れない」として容認した。二人とも「政治とカネ」をめぐる自らの責任問題への波及を恐れた、保身ゆえの判断とみられても仕方があるまい。

生方氏解任には伏線がある。

民主党内には、小沢氏が、選挙至上主義の下、地元活動を優先させ、政策決定の内閣一元化を名目に、党側の自由な論議を抑えることへの不満がくすぶっている。

生方氏は、党内に政策調査会の設置を目指す議員の会を発足させるなど、政調を廃止した小沢氏の党運営に批判を強めていた。

そうした生方氏の「反小沢」ととれる動きが、解任の一因になったともみられている。

小沢幹事長の政治手法は「独裁的」「強権的」と評されている。今回の解任劇は、小沢氏率いる党の体質と、ブレーキをかけられない首相の限界を露呈した。

生方氏は、街頭演説で「多くの議員が声を上げないといけない。『処分されるかも』と口をつぐめば、民主党に未来はない」と訴えた。民主党議員は、しっかりと受け止める必要がある。

産経新聞 2010年03月20日

副幹事長解任 自浄努力を封じる愚かさ

自由闊達(かったつ)な党内の意見交換を封殺するような政党になり下がってしまったのだろうか。

産経新聞社のインタビューで、小沢一郎民主党幹事長を批判した生方幸夫副幹事長が解任された。執行部にとって耳の痛い話も聞き、おかしなところを是正するのが民主主義社会における政党の姿である。それを認めることなく、排斥してしまうのを「独裁」という。

自浄努力の芽を摘み取ってしまうことは、民主主義の否定につながる。「異様な政党」と言わざるを得ない。

「小沢氏はしかるべき場所で説明し、それで国民の納得を得られなければ進退を考えるしかない」というのが生方氏の主張だ。

小沢氏が求められている課題そのものではないか。国民の大多数もこの意見に同感だろう。だが執行部は、党の機関で主張せず、外部に対して発言することは許されないとして解任を決めた。

資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件に伴う小沢氏の進退をめぐる党内論議は、事実上、封じ込められてきた。

その意味で、生方氏の発言は民主党が自浄作用を発揮する契機になり得ただけに、きわめて残念な対応である。

疑惑解明に着手するとともに、「小沢独裁」の是非を考えるきっかけとすべきだろう。

生方氏の解任は、高嶋良充筆頭副幹事長が主導し、小沢氏自身は積極的ではなかったともいう。仮にそうだとしても、副幹事長人事は幹事長権限であり、異論を封じるために解任したという批判を小沢氏は免れない。

また、小沢氏をおもんぱかって執行部が解任を急いだのであれば、独裁的体質が党組織に蔓延(まんえん)している証左だ。

気になるのは、生方氏の解任について鳩山由紀夫首相が「党の中では一切話さず、メディアに向かって話すのは潔い話ではない」と解任理由を容認したことだ。

党の機関でまず発言すべきだという考えは理解できなくはないが、すでに執行部内には批判を許さない状況が生まれているところに問題がある。

一方で、野田佳彦財務副大臣が「耳に痛い話をした人が辞表を迫られるのはきわめてよろしくない」と述べるなど、執行部批判が続いている。自浄能力を示す絶好の機会ではないのか。

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