追加金融緩和 政府が民需を促す番だ

朝日新聞 2010年03月18日

追加金融緩和 政府が民需を促す番だ

将来のインフレやバブルの危険が気にならないはずはない。それでも、いまはデフレからの脱却を優先するしかない。日本銀行が「広い意味での量的緩和」と呼ぶ金融政策に一段と踏み込んだ。その判断を買いたい。

昨年末に始めた新型オペレーションによる資金供給の金額を10兆円から20兆円に倍増した。政府に背中を押された面はあれ、妥当なところだ。

この新型オペは国債や社債などを担保にして市中の銀行に年0.1%の固定金利で現金を貸し出す。これにより、市場全体の金利水準が0.1%に向けて下がる。銀行融資の拡大も期待できるという。

景気は緩やかながら回復に向かっている。政府は今月の月例経済報告で基調判断をやや上方修正した。それでも日銀が追加策に踏み切ったのは、昨年から続けてきた企業の資金繰り支援のためのオペが今月末で終わるという事情があるからだ。

企業支援オペの残高は6兆円近くあり、打ち切れば市中に供給される資金量が大きく減る。それを相殺し、強力な金融緩和の状態を維持・拡大することが欠かせないと判断した。

デフレはなお続く。消費者物価指数はマイナス幅が小さくなってはいるが、縮小ペースは遅い。デフレ心理を和らげるためにも、日銀は常に新たな政策の可能性を追求する姿勢を市場に示すことが重要だ。

デフレ対策に手詰まり感のある鳩山政権は、日銀の対応を強く促してきた。菅直人財務相は「年内に物価上昇率をプラスに」「物価上昇率は1%が望ましい」と繰り返す。

政府と日銀がデフレ克服に向けて緊密に連携するのは当然のことだ。だが政府が日銀に漫然と金融緩和を迫るだけでは経済再生への最終回答にはならないことは、いうまでもない。むしろ、日銀にもたれかかり、対策の比重を必要以上に重く金融政策に置けば、将来に禍根を残しかねない。

日銀の政策が発しているメッセージは、「設備投資などの需要さえあれば資金はいくらでも付ける」ということであり、今度は政府側が民間の投資や消費といった需要を奮い立たせるような政策の立案に知恵を絞らなければならないだろう。

新年度予算は年度内成立が確実になったが、教育分野への投資や、医薬品など将来の市場拡大が期待される内需関連産業に絡む規制緩和、アジア需要を取り込む通商政策など、打つ手はまだまだあるはずだ。

政府は民間の声をよく聞いて、実効ある政策を打ち出してほしい。日銀の金融緩和と政府の需要刺激がキャッチボールのように好循環を続ければ、企業も個人も明るい展望を持ち、経済の自律回復が軌道に乗るに違いない。

読売新聞 2010年03月19日

日銀金融緩和 次は成長戦略の具体化だ

日銀が、量的金融緩和の拡大を決めた。政府に背中を押された面はあるにせよ、まずは妥当な判断である。

昨年12月に導入した新型オペ(公開市場操作)という資金供給策を拡大することだ。

年0・1%の超低利で期間3か月の資金を金融機関に貸し出す仕組みで、上限は10兆円だった。供給額が上限すれすれの9・6兆円に達したため、20兆円に倍増することにした。

新型オペは、金融機関の資金繰りや短期金利の低下に一定の効果を上げたと言っていいだろう。

政府が景気判断を上方修正するなど、明るさの出てきた時期にあえて、「経済、物価の改善を確かにする」(白川日銀総裁)として追加策に踏み切ったことは、デフレ脱却にかける、日銀の強い決意を印象づけた。

一方で、日銀は企業向け金融を支援する別の資金供給策を今月末で打ち切り、市場の資金が約6兆円近くも減る。追加緩和は、これを穴埋めする意味もある。

つまり、外見は10兆円の追加供給だが、正味の効果は4~5兆円にとどまる計算だ。

消費者物価指数は依然として下落が続き、デフレ圧力は根強い。今回の追加だけで十分かどうか注意する必要はあろう。

景気や物価の動向によっては、長期国債の買い入れ増額や、日銀当座預金の残高を目標に掲げる全面的な量的緩和など、さらに強力な措置も検討すべきだ。

菅財務相はじめ、政府サイドは、金融緩和要求を繰り返してきた。だが、日銀がさらに金利を低下させる余地は少ない。

むしろ、デフレ不況の最大の原因は、総額30兆円にのぼる日本経済の需要不足にある。金融政策だけでは解決できまい。

アジア向け輸出など外需の力で企業収益は改善してきたが、設備投資や雇用増加につながるほど、企業心理は好転していない。

堅調だった公共工事も減速が始まり、自動車販売も頭打ちだ。前政権による景気対策の“貯金”は、使い果たしつつある。

財政出動には限界もあるが、打つ手がないわけではない。

政府は、子ども手当や高校授業料無償化など、ばらまき的な「家計支援」ばかりでなく、法人税実効税率の引き下げなどで、企業活動を後押しすべきではないか。

省エネなど先端産業のてこ入れや、医療・介護などを有望な市場に育てる規制緩和など、将来をにらんだ成長戦略も重要だ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/262/