「共謀罪」法案 政権の手法が問われる

朝日新聞 2016年08月29日

「共謀罪」法案 政権の手法が問われる

またぞろ、というべきか。

安倍内閣が、人々の強い反対でこれまでに3度廃案になった「共謀罪」法案を、「テロ等組織犯罪準備罪」法案に仕立てなおして、国会に提出することを検討しているという。

ついこの間おこなわれた参院選ではそのような方針はおくびにも出さず、選挙が終わるやいなや、市民の自由や権利を脅かしかねない政策を推し進める。特定秘密保護法や安全保障法の制定でもみせた、この政権のふるまいである。

いや、自民党は治安・テロ対策を選挙公約に掲げたうえで多くの支持を得ている。政府はそう反論するかもしれない。

しかしそこに書かれていたのは「国内の組織・法制のあり方について研究・検討を不断に進め、『世界一安全な国、日本』を実現します」という、著しく具体性を欠く一文だ。連立与党を組む公明党は、公約でこの問題にいっさい触れていない。

そんな状況で本当に法案を提出するつもりなのか。内容以前に、政権の体質そのものがあらためて問われよう。

実際に行動に移さなくても、何人かで犯罪をおこす合意をするだけで処罰する。それが共謀罪だ。マフィアなどの国際犯罪組織を取り締まる条約を結ぶために、日本にも創設することがかねて議論されてきた。

しかし小泉内閣が提出した法案には、▽共謀罪が適用される組織の範囲があいまいで、ふつうの労働団体や市民団体、企業の活動が制約されるおそれがある▽共謀だけで罪となる行為が600以上に及び、処罰の網が広くかかりすぎる▽犯罪が行われてはじめて刑罰を科すという刑法の大原則がゆらぐ――といった批判が寄せられた。

今回の案では、当時の国会審議や与野党協議の到達点を踏まえ、組織の定義などについて相応の修正がなされるようだ。

だが対象罪種は前のままで、引き続き600を超すという。数を絞り込む方向で積み重ねてきた、これまでの議論はどうなったのか。この間も捜査のいきすぎや不祥事は後を絶たず、そんな当局に新たな力を付与することに疑問をもつ人は少なくない。さらなる見直しが必要だ。

東京五輪をひかえ、テロ対策や国際協力の看板をかければ、多少の懸念があっても大方の理解は得られると、政権が踏んでいるのは容易に想像できる。

もちろんテロの抑止は社会の願いだ。だからこそ権力をもつ側はよくよく自制し、人権の擁護と治安というふたつの要請の均衡に意を砕かねばならない。

読売新聞 2016年08月31日

「共謀罪」法案 テロの未然防止に不可欠だ

世界中でテロの脅威が増大している。日本も抑止につながる対策を講じることが欠かせない。

政府が、組織的な重大犯罪を計画した段階で処罰できる組織犯罪処罰法改正案をまとめた。9月の臨時国会に提出する方向で検討している。

過去に3度廃案となった「共謀罪」創設に関する法案を基に、適用対象を絞り込み、新たな構成要件を加えたのが改正案だ。共謀罪の名称は、「テロ等組織犯罪準備罪」に変更する。

2020年に東京五輪の開催を控える。テロ組織の犯罪を未然に防ぐために、必要な法整備を進めることは重要である。

共謀罪を巡っては、「労働組合や市民団体まで対象になる」「居酒屋で上司を殴ろうと意気投合しただけで罰せられる」といった批判があった。対象となる団体の定義や、どんな場合が共謀になるかが不明確だったことが要因だ。

改正案では、適用対象を単なる団体ではなく、組織的な犯罪集団に限定した。構成要件についても、犯行の合意だけでは足りず、化学テロに使う薬品を購入するなど、計画した犯罪の具体的な準備行為が必要になる。

国民の懸念を払拭するためにも、捜査当局の恣意しい的な解釈で適用範囲が広がることがないような仕組みにしなければならない。

共謀罪の創設が議論されたきっかけは、00年の国連総会で、テロやマフィアなどの組織犯罪撲滅を目指す「国際組織犯罪防止条約」が採択されたことだ。条約は犯罪防止に効果的な共謀罪を設けるよう、参加国に義務づけた。

これまでに187か国・地域が条約を締結したが、日本は未締結だ。現状のままだと、テロ集団などに対する国際包囲網に加わらない弱みにつけ込まれ、日本が狙われる可能性は否定できまい。

国境を超えたテロや麻薬密売、人身売買は後を絶たない。法整備によって、国際連携の枠組みに参加し、要注意人物などに関する情報の交換を緊密にできるようになる意義は大きい。

テロの封じ込めには、端緒の迅速な察知も求められる。

5月に成立した改正通信傍受法により、傍受時の通信事業者の立ち会いが不要になった。

ただ、日本では、特定の犯罪捜査を目的に、裁判所の令状に基づいて実施する「司法傍受」のみが認められている。

欧州ではテロに関する情報収集としての「行政傍受」も行われている。この導入も検討課題だ。

産経新聞 2016年08月31日

テロ準備罪の創設 国際連携の「弱い環」脱せ

政府は過去に3回廃案となっている「共謀罪」について、罪名を「テロ等組織犯罪準備罪」と変更する組織犯罪処罰法の改正案をまとめ、9月に召集される臨時国会への提出を検討している。

世界各地で悲惨な大規模テロ事件が頻発し、2020年には東京五輪の開催を控えている。国際社会と手を携えてテロと対峙(たいじ)するために、必要な法律である。今度こそ成立を急ぎ、関連法案の整備を進めてほしい。

国連は00年の総会で、国際組織犯罪防止条約を採択した。国際テロやマフィアなど国境を越える犯罪に対処するための条約で、各国に共謀罪を設けることを求めて批准の条件とした。すでに世界180以上の国・地域が条約を締結しているが、主要7カ国(G7)では日本だけが締結に至っていない。共謀罪を持たないためだ。

このため、小泉純一郎政権時代に共謀罪創設のための法案が3回提出されたが、民主党(当時)など野党の反対や、政府与党の腰砕けで廃案となってきた。結果として日本は、テロと戦う国際連携の「弱い環(わ)」となっている。

過去の反対論には「居酒屋で上司を殴ると相談しただけで処罰される」といった言いがかり的なものや、市民運動の弾圧に適用されないかなどの声があった。

こうした曲解を避けるため従来の法案で「団体」としていた適用対象は「組織的犯罪集団」に限定し、犯罪の合意だけではなく資金集めや使用する道具を用意するなど犯罪実行のための「準備行為」も構成要件に加えた。

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