川内停止要請 三反園知事は拳をどう下ろす

朝日新聞 2016年08月27日

川内原発 九電は懸念と向き合え

鹿児島県の三反園訓(みたぞのさとし)知事が九州電力に対し、全国の原発で唯一、営業運転中の川内原発(鹿児島県)1、2号機をいったん停止し、機器を点検しつつ自治体の避難計画への支援を強化するよう申し入れた。

4月の熊本地震の後、住民の間で原発への不安が広がったことを受けての行動だ。

稼働中の原発を止める権限は知事にはない。しかし、三反園氏は7月の知事選で川内原発の一時停止を主張し、再稼働を認めた現職を破って当選した経緯がある。

九電は、知事が示した懸念を正面から受け止めるべきだ。

申し入れでは、機器の点検で原子炉の圧力容器・格納容器など重点7項目を記したほか、原発周辺の活断層の調査や、県民の不信を招かないための適時かつ正確な情報発信を求めた。避難計画については、知事自ら原発周辺の道路や医療・福祉施設を視察した際に寄せられた声をまじえつつ、支援体制を強化するよう訴えた。

いずれも、事故を防ぎ、あるいは事故が起きた場合に被害を最小限に食い止めるために必要なことだろう。

申し入れを受けた九電は「内容をしっかり確認して対応したい」としつつも、原子力規制委員会の審査を経て再稼働した川内原発の安全性に問題はないとの立場だ。しかし、熊本地震では震度7の大地震が連続して起きるという想定外の事態に直面した。それが住民の不安や知事の判断のきっかけとなったことを忘れてはなるまい。

具体的な権限がないとはいえ、原発を抱える自治体のトップが稼働中の原発に真っ向から異を唱えたことに、政府や電力業界は警戒を強めている。九電は一時停止の要求には応じず、稼働中の2基が10月と12月に相次いで迎える定期検査までは動かし続けるとの見方が有力だ。

しかし、点検後に再び稼働させようとする際、知事が九電の対応に満足できなければ、その反対を押し切って動かすことは現実には難しかろう。九電は結局、三反園氏が今回示した課題に対し、納得できる回答を示すしかないのではないか。

東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に対しては、新潟県の泉田裕彦知事がかねて厳しい姿勢をとっている。再稼働したばかりの関西電力高浜原発(福井県)の運転を大津地裁が仮処分で差し止めたことも記憶に新しい。

行政や司法から相次ぐ異議申し立てに対し、電力業界は誠実に向き合うのか。九電の姿勢が大きな試金石になる。

読売新聞 2016年08月27日

川内停止要請 三反園知事は拳をどう下ろす

国の規制基準に沿い、問題なく運転している原子力発電所を停止させる根拠はあるのか。明確な説明が求められよう。

鹿児島県の三反園訓知事が、国内で唯一、営業運転している九州電力川内原発1、2号機の即時停止を求めた。

九電の瓜生道明社長を県庁に呼び、「県民の不安の声に応えてほしい」と要請書を手渡した。

川内原発周辺の活断層調査や施設の点検・検証を要求している。4月に発生した熊本地震を受けての対応だという。

理解に苦しむのは、三反園氏が具体的な危険性を示していないことだ。検証を要請した項目は、原子力規制委員会の審査で確認済みのものばかりである。

熊本地震の際に、川内原発の敷地内で観測された揺れは、耐震性能の評価時の想定よりはるかに小さかった。九電の直後の点検でも機器や設備に異常はなかった。

即時停止は、電力の安定供給を損なう。知事には、県民の生活や経済活動を守る責務がある。

そもそも知事は、原発を止める法的権限を有しない。

川内原発が立地する薩摩川内市の岩切秀雄市長も、今月初めの記者会見で「現状では、知事も、市長も、原発を停止させることはできない」と明言している。

昨年の川内原発再稼働については、伊藤祐一郎前知事、鹿児島県議会、薩摩川内市が同意した。それをひっくり返す以上、「不安」を言い立てるだけでいいのか。

7月の知事選の際、三反園氏は、反原発を掲げる候補が出馬を取りやめることを前提に、「原発停止の申し入れ」などで政策合意をした経緯がある。

川内原発の現地視察もしていない中での停止要請である。支援を受けた反原発派向けのパフォーマンスの側面もあるだろう。

事故時の住民避難対策を確認するため、三反園氏は今月、薩摩川内市などを訪れた。避難計画を見直す方針も表明している。

万一の際の備えを不断に強化することに異論はない。だが、原発を停止させずとも可能である。

九電が即時停止を受け入れなくても、川内原発は10月以降、13か月に1度の定期検査のために停止せざるを得ない。

問題は、約2か月間の検査終了後の運転再開である。知事に再開を止める権限はないが、現状では再び摩擦が生じよう。三反園知事は原発の安全性や必要性を冷静に検討し、振り上げた拳をどう下ろすか、探るべきではないか。

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