国の規制基準に沿い、問題なく運転している原子力発電所を停止させる根拠はあるのか。明確な説明が求められよう。
鹿児島県の三反園訓知事が、国内で唯一、営業運転している九州電力川内原発1、2号機の即時停止を求めた。
九電の瓜生道明社長を県庁に呼び、「県民の不安の声に応えてほしい」と要請書を手渡した。
川内原発周辺の活断層調査や施設の点検・検証を要求している。4月に発生した熊本地震を受けての対応だという。
理解に苦しむのは、三反園氏が具体的な危険性を示していないことだ。検証を要請した項目は、原子力規制委員会の審査で確認済みのものばかりである。
熊本地震の際に、川内原発の敷地内で観測された揺れは、耐震性能の評価時の想定より遥かに小さかった。九電の直後の点検でも機器や設備に異常はなかった。
即時停止は、電力の安定供給を損なう。知事には、県民の生活や経済活動を守る責務がある。
そもそも知事は、原発を止める法的権限を有しない。
川内原発が立地する薩摩川内市の岩切秀雄市長も、今月初めの記者会見で「現状では、知事も、市長も、原発を停止させることはできない」と明言している。
昨年の川内原発再稼働については、伊藤祐一郎前知事、鹿児島県議会、薩摩川内市が同意した。それをひっくり返す以上、「不安」を言い立てるだけでいいのか。
7月の知事選の際、三反園氏は、反原発を掲げる候補が出馬を取りやめることを前提に、「原発停止の申し入れ」などで政策合意をした経緯がある。
川内原発の現地視察もしていない中での停止要請である。支援を受けた反原発派向けのパフォーマンスの側面もあるだろう。
事故時の住民避難対策を確認するため、三反園氏は今月、薩摩川内市などを訪れた。避難計画を見直す方針も表明している。
万一の際の備えを不断に強化することに異論はない。だが、原発を停止させずとも可能である。
九電が即時停止を受け入れなくても、川内原発は10月以降、13か月に1度の定期検査のために停止せざるを得ない。
問題は、約2か月間の検査終了後の運転再開である。知事に再開を止める権限はないが、現状では再び摩擦が生じよう。三反園知事は原発の安全性や必要性を冷静に検討し、振り上げた拳をどう下ろすか、探るべきではないか。
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