駆けつけ警護 もっとPKOの議論を

朝日新聞 2016年08月25日

駆けつけ警護 もっとPKOの議論を

安全保障関連法に基づく自衛隊の新任務の訓練が順次、始まる。政府がきのう発表した。

まず行われるのは、南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に、11月に派遣される予定の陸上自衛隊部隊に対する「駆けつけ警護」の訓練だ。

道路補修などにあたる施設部隊だが、駆けつけ警護は、離れた場所で武装勢力に襲われた国連、NGO職員らを武器を持って助けにいく任務だ。自らの部隊を守るだけでなく、外に出て多くは丸腰の人を守ることになる。隊員のリスクが高まることは避けられない。

この任務を付与するか否かは今後、現地の治安情勢などを踏まえて政府が判断する。国会での徹底した議論が欠かせない。

南スーダンの人道危機にいかに歯止めをかけ、国造りを支えていくか。自衛隊を含むPKOの役割は大きい。

一方で、その実態が変質したのも確かだ。かつて「敵のいない軍隊」と呼ばれたPKOは、紛争の当事者にならない、中立性を重んじるものだった。だが近年は、人道危機から住民を保護するために武力を積極的に用いる活動が常態化している。

紛争地の状況は刻々と変化していく。実際に駆けつけ警護に踏み込むとすれば、現地の部隊も、東京の政府も極めて難しい判断を迫られるだろう。

ところが、その根拠となる安保関連法について、国会での議論は尽くされていない。11本の法案を2本にまとめ、焦点はPKOのあり方ではなく、集団的自衛権をめぐる憲法問題などに当たった。7月の参院選でも大きな争点にならなかった。

この間、南スーダンの情勢は大きく変わった。自衛隊が活動する首都ジュバで7月に大統領派と副大統領派の武力衝突が起き、国連安全保障理事会は、より強い武力行使の権限を持つPKO部隊の増派を決めた。これに対し、南スーダンの代表は「主要な紛争当事者の同意というPKO原則に反している」と反発している。

自衛隊が憲法と国内法の範囲内で活動するのは当然だ。受け入れ国の同意が維持されることが派遣の前提であり、現地の動きを注視する必要がある。

南スーダンの国造りにより良く貢献するためにも、一方で、行き過ぎた軍事行動に陥らないためにも、自衛隊が何をして、何はしないのか、より具体的で幅広い検討が求められる。

秋の臨時国会をその場にすべきだ。政府はできる限り情報を開示し、与野党で現地の実情を踏まえて議論してほしい。

読売新聞 2016年08月26日

駆けつけ警護 リスク極小化へ訓練を重ねよ

国際平和協力活動に従事する自衛隊部隊が応分の責務を果たすうえで、重要な一歩である。

稲田防衛相が、3月施行の安全保障関連法で可能になった自衛隊の新任務の訓練を開始する方針を発表した。

11月に南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に派遣される陸上自衛隊部隊が9月中旬、「駆けつけ警護」と「宿営地の共同防衛」の訓練を始める。10月下旬までの訓練結果を踏まえて、新任務を正式付与する予定だ。

駆けつけ警護の解禁は、陸自にとって長年の懸案だった。

これまでは、武装集団などに襲われた民間人や国連職員、他国部隊から救援を要請されても、「法律上できない」と断るしかなかった。民間人を見捨てるのは人道上も問題だ。国際機関や他国との信頼関係を築くこともできない。

安保関連法の成立・施行によって、国際常識から逸脱した、日本政府の過度に抑制的な憲法解釈のひずみを是正した意義は大きい。

駆けつけ警護を要する状況は、頻繁に生じるわけではない一方、いつ起きてもおかしくない。

万一の際、機動的かつ適切に対処する態勢を構築するには、従来以上に現地情勢の情報収集・分析に力を入れつつ、準備と訓練に万全を期す必要がある。

陸自は既に、武器使用の要件や限度などに関する部隊行動基準を見直し、教材の作成や教官の確保などの準備を進めてきた。

今後は、様々なシナリオを想定した実戦的な訓練を実施し、部隊運用や警告射撃の手順などを周知徹底することが欠かせない。

南スーダンでは7月、大統領派と前副大統領派の衝突によって治安が急速に悪化した。国際協力機構(JICA)職員や大使館員らが国外退避する事態に至った。

現在は、小康状態とされるが、油断はできない。新たな任務のリスクを極小化するためにも、訓練を充実させねばならない。

駆けつけ警護が解禁されても、陸自の武器使用権限には制約が残る。何ができ、何ができないかについて、他国部隊と認識を共有しておくことが大切だろう。

安保関連法では、存立危機事態における米軍艦船の防護や、在外邦人の救出も可能になった。防衛省は秋以降、日米合同演習などを通じて、新たな任務の訓練を実施する方向で調整する。

中でも、米艦防護は、日米同盟の強化に向けて象徴的な任務だ。訓練を通じて、自衛隊と米軍の協力関係を着実に深めたい。

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