核兵器禁止 交渉始める道探れ

朝日新聞 2016年08月23日

核兵器禁止 交渉始める道探れ

核兵器禁止条約づくりの交渉を来年始めるべきだ――。スイスで開かれてきた国連核軍縮作業部会が、今秋の国連総会に勧告する報告書を採択した。

「核兵器の使用・威嚇は一般的に人道法に反する」とした国際司法裁判所の勧告的意見から今年で20年。いまだ核兵器を明確に禁じる国際法がないなか、条約づくりが具体的に動き出すなら、「核兵器のない世界」に向けた大きな一歩となろう。

日本の姿勢は残念だった。作業部会では「現在の安全保障環境を考えれば、条約の交渉開始は時期尚早」との主張を繰り返し、報告書の採決は棄権した。

核兵器の非人道性を最も知る国としてあまりに後ろ向きだ。作業部会をボイコットした核保有国も引き寄せ、今後はどう交渉に入るのか、日本が道筋を率先して考えるべきだ。

約100カ国もの非核保有国が禁止条約を支持したのは、核保有国任せでは核兵器のない世界への展望が開けないことに対する不満の表れだ。

米国とロシアの核軍縮交渉は止まったまま。米ロや中国は巨費を投じ、核戦力の近代化を進めている。北朝鮮は、核・ミサイル開発を進める。

日本や欧州など、米国の「核の傘」の下に入る国々は、核兵器禁止条約は核の抑止力による安全保障のバランスを崩し、世界を不安定にする、と抵抗してきた。核廃絶に向けては、段階的に進める、というばかりだ。

国連総会では、核保有国が、条約の交渉開始にそろって反対する見込みだ。被爆国・日本が核保有国側に加担するなら、国際社会に失望を与えよう。

核抑止力に頼り続ける限り、人類は破滅のリスクから抜け出せない。最終的に核兵器を法的に禁じることは、世界に真の安全をもたらすために不可欠だ。

一口に条約といっても、さまざまな案が出ている。

一部の非核保有国や国際NGOの間では、核保有国抜きでも核兵器禁止を明文化しようとする急進的な案が支持を広げる。

一方、これとは別に核廃絶を法的義務とすることに合意し、具体的な道筋は段階的に定める「枠組み条約」案もある。

この案であれば、核抑止力への依存が一定期間は許容されるため、「核の傘」に頼る国々でも参加できる、との見方もある。日本にとって有力な選択肢となりうるのではないか。

これから求められるのは、核兵器禁止条約をめぐる国際社会の決定的な亀裂を避ける方策だ。そのためのリーダーシップを日本に期待したい。

読売新聞 2016年08月24日

核兵器禁止条約 保有国抜きでは現実感がない

核軍縮は、米英仏中露の核兵器保有国を巻き込み、段階的に実現していくのが現実的なアプローチだ。まず保有国と非保有国の溝を埋めることを優先する必要がある。

国連の核軍縮作業部会が、核兵器禁止条約の締結交渉を来年中に開始するよう勧告する報告書を、賛成多数で採択した。

条約は、核兵器の削減にとどまらず、保有、使用、配備などを一気に禁止することを想定する。交渉開始の是非は、秋の国連総会で改めて検討される。

昨年5月に核拡散防止条約(NPT)再検討会議が決裂するなど、核軍縮の停滞が背景にあろう。今年5月のオバマ米大統領の広島訪問後も、具体的な進展はない。核保有国の消極的な姿勢に対する非保有国の不満は理解できる。

疑問なのは、作業部会が核保有国抜きで進められたことだ。このまま条約作りを進めても、実効性は期待できず、絵に描いた餅になるのは明らかである。

作業部会では、非保有国間の意見対立も浮き彫りになった。

報告書は、メキシコやオーストリアが主導し、68か国が賛成した。米国の「核の傘」に頼る必要がないアフリカや中南米、東南アジアの国が多い。

韓国やオーストラリア、ドイツなど22か国は反対票を投じた。日本など13か国は棄権した。全会一致が原則の作業部会で採決が行われたこと自体、異例である。

唯一の被爆国として核保有国と非保有国の「橋渡し役」を務める日本が、対立の先鋭化を防ぐために棄権したのはやむを得まい。

重要なのは、反対や棄権に回った国の大半が、ロシアや中国、北朝鮮などの軍事的脅威に直面している点である。米国の核抑止力が有効に機能する中、日韓などが禁止条約に「安全保障上の懸念」を示しているのは当然だろう。

核保有国も、「核軍縮は安全保障環境を考慮しながら進めるべきだ」と主張している。禁止条約は受け入れられないとの立場だ。

世界の核兵器1万5000発超の9割を保有する米露両国は、ウクライナ情勢などを巡る確執により、核軍縮を進められずにいる。中国は実態を隠したまま核戦力を増強する。北朝鮮は米本土に到達する核ミサイルを開発中だ。

こうした緊張の構図を踏まえ、各国の安全保障に悪影響を与えない範囲で、核軍縮の機運を高め、核保有国に一定の圧力をかける。日本を中心に、そうした実現可能な方策を探る努力を続けたい。

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