核軍縮は、米英仏中露の核兵器保有国を巻き込み、段階的に実現していくのが現実的なアプローチだ。まず保有国と非保有国の溝を埋めることを優先する必要がある。
国連の核軍縮作業部会が、核兵器禁止条約の締結交渉を来年中に開始するよう勧告する報告書を、賛成多数で採択した。
条約は、核兵器の削減にとどまらず、保有、使用、配備などを一気に禁止することを想定する。交渉開始の是非は、秋の国連総会で改めて検討される。
昨年5月に核拡散防止条約(NPT)再検討会議が決裂するなど、核軍縮の停滞が背景にあろう。今年5月のオバマ米大統領の広島訪問後も、具体的な進展はない。核保有国の消極的な姿勢に対する非保有国の不満は理解できる。
疑問なのは、作業部会が核保有国抜きで進められたことだ。このまま条約作りを進めても、実効性は期待できず、絵に描いた餅になるのは明らかである。
作業部会では、非保有国間の意見対立も浮き彫りになった。
報告書は、メキシコやオーストリアが主導し、68か国が賛成した。米国の「核の傘」に頼る必要がないアフリカや中南米、東南アジアの国が多い。
韓国やオーストラリア、ドイツなど22か国は反対票を投じた。日本など13か国は棄権した。全会一致が原則の作業部会で採決が行われたこと自体、異例である。
唯一の被爆国として核保有国と非保有国の「橋渡し役」を務める日本が、対立の先鋭化を防ぐために棄権したのはやむを得まい。
重要なのは、反対や棄権に回った国の大半が、ロシアや中国、北朝鮮などの軍事的脅威に直面している点である。米国の核抑止力が有効に機能する中、日韓などが禁止条約に「安全保障上の懸念」を示しているのは当然だろう。
核保有国も、「核軍縮は安全保障環境を考慮しながら進めるべきだ」と主張している。禁止条約は受け入れられないとの立場だ。
世界の核兵器1万5000発超の9割を保有する米露両国は、ウクライナ情勢などを巡る確執により、核軍縮を進められずにいる。中国は実態を隠したまま核戦力を増強する。北朝鮮は米本土に到達する核ミサイルを開発中だ。
こうした緊張の構図を踏まえ、各国の安全保障に悪影響を与えない範囲で、核軍縮の機運を高め、核保有国に一定の圧力をかける。日本を中心に、そうした実現可能な方策を探る努力を続けたい。
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