ホーム転落事故 利用者本位の対策を急げ

朝日新聞 2016年08月20日

ホーム転落死 悲劇を防ぐ声かけを

東京メトロ銀座線の青山一丁目駅のホームに立ち、目を閉じる。ラッシュ時。遠くのレール音は雑踏にかき消され、電車は突然、大音響で迫ってくる。

今週、視覚障害のあった品田直人さんがホームから転落して電車にはねられ、亡くなった。

「行動範囲を広げたい」と盲導犬と外出し、通勤していた。事故直後、あるじを失った盲導犬ワッフル号が所在なげに現場をみつめていた。

痛ましい事故の再発を防がねばならない。これは決して、避けられぬ悲劇ではない。

品田さんは、ホームの点字ブロックより線路側を歩き、足を踏み外してしまった。ホームは幅3メートルほどと狭く、その真ん中を、点字ブロックをさえぎるように柱が連なっている。

駅入り口からホームまで、どこに階段があり、どこで曲がるか。会社への最寄り駅だったというから、品田さんの頭の中には「地図」があっただろう。

だが、そうした感覚は、考え事で集中力が緩んだだけで狂ってしまうこともあるという。

視覚障害者がホームから転落した事故は2014年度に全国で80件あった。日本盲人会連合のアンケートでは、4割がホームから落ちたことがあると答えている。驚くべき数字だ。

まず有効なのはホームドアの設置だ。国土交通省は、1日当たりの利用客が多い駅などから優先して設けるよう定めているが、設置率はまだ低い。鉄道会社は障害者の意見も反映しながら、整備を急いでほしい。

ホームドアの設置が構造上難しい駅もある。戦前に全線開業した銀座線では、補強工事が必要なため、設置には18年度までかかる。乗降客が多い渋谷駅や新橋駅は、さらにその後だ。

何より肝心なのは、障害のある人を見守り、手をさしのべる一人ひとりの行動だろう。危なそうな時には、すすんで声をかける。それは本来、当たり前のことだが、残念なことに、そんな光景はそれほど多くない。

障害者に限った話ではない。青ざめた顔でホームにかがみこむ通勤途中の会社員、階段を前に途方にくれているベビーカーの親子、手すりにしがみつき一段ずつ降りる高齢者……。

「大丈夫ですか?」。そのひと言が無関心の空気を変える。

ワッフル号を育てた北海道盲導犬協会は「犬には声をかけないでとお願いしますが、犬を連れているユーザーには声をかけてほしい」と呼びかけている。

困っている人がいれば、歩み寄り、助ける。そう誰もが自然にふるまえる社会でありたい。

読売新聞 2016年08月19日

ホーム転落事故 視覚障害者の安全を守りたい

東京の地下鉄駅で、視覚障害者の男性が線路に転落し、電車にひかれて死亡した。痛ましい事故である。再発を防がねばならない。

現場となった東京メトロ銀座線の青山一丁目駅ホームは、幅が3メートルしかなく、複数の太い円柱も立っている。盲導犬を連れて歩いていた男性は、柱の手前でホームの端に近付き、足を踏み外したという。

盲導犬には線路側を歩かせることが多いが、事故時は逆側にいた。危険を察知した駅員が線路から離れるよう放送で注意喚起したものの、事故を防げなかった。

視覚障害者のホームからの転落事故は年70件以上、発生している。視覚障害者の4割近くが転落を経験しているとの調査結果もある。対策に猶予はないことを、全鉄道事業者は認識せねばなるまい。

転落防止に最も有効なのはホームドアだが、今回の現場には設置されていなかった。

国土交通省は、1日の利用客が10万人以上の駅には優先的に整備するよう、5年前から鉄道事業者に求めてきた。しかし、該当する全国251駅のうち、設置済みの駅は3割に過ぎない。

整備が遅れている理由として、事業者は多額のコストを挙げる。JR東日本が進める山手線の全29駅への設置には、550億円を要するという。容易に賄える額ではないのも事実だ。

ホームによっては、強度や広さといった構造上の問題もある。複数の事業者が相互に乗り入れる路線では、車両の扉の位置が一定しないという事情も指摘される。

一方で、様々な工夫も講じられている。一般的なスライド式ホームドアではなく、バーやロープで遮る方式を導入した駅がある。費用や重量を大幅に減らせるのがメリットだ。車両に応じて開閉位置が変わるドアの開発も進む。

4月には、東京メトロの別の駅で、ベビーカーを扉に挟んだまま電車が発車する事故があった。これもホームドアが設置されていれば防げていた可能性が強い。

官民でさらに知恵を絞り、整備を加速させてほしい。

設置がどうしても困難な駅では、駅員の支援がより重要だ。東京メトロは障害者への積極的な声掛けを各駅に通知した。

利用者にも、目の不自由な人が近くにいたら、注意を促す心配りが求められよう。危険なのは「歩きスマホ」だ。視覚障害者に衝突し、思わぬ事故を招きかねない。厳に慎みたい。

産経新聞 2016年08月19日

ホーム転落事故 利用者本位の対策を急げ

視覚障害のある男性がホームから転落し、電車にはねられ死亡する事故が起きた。

目の不自由な人にとってホームは「欄干のない橋」にたとえられ、痛ましい事故が繰り返されている。なんとしても止めたい。

そのため、障害者や高齢者ら利用者の視点に立って再点検し、さらなる安全対策を急ぐべきだ。

事故は今月15日夕、東京メトロ銀座線青山一丁目駅で起きた。防犯カメラの映像などによると、男性は盲導犬を連れ、点字ブロック上を歩いていたが、次第にホーム端に寄り転落した。点字ブロックを遮る形で柱があり、避けようとした可能性があるという。

再発防止のためにも、専門家や視覚障害者の団体などの協力を得て事故原因を詳しく調査してもらいたい。

5年前、JR目白駅で全盲の男性が転落し電車にはねられ死亡する事故があった。視覚障害者がホームから転落する事故は全国で平成26年度は80件に上る。視覚障害者の約4割が「転落の経験がある」という調査もある。

転落事故防止のため、可動式ホームドア設置は有効だ。鉄道各社は設置を進めているが、国土交通省によると1日10万人以上が利用する全国約250駅のうち、設置駅はなお約3割にとどまる。

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