春闘一斉回答 政府は積極経営を後押しせよ

朝日新聞 2010年03月19日

春闘 雇用格差でも「回答」を

「不気味なほど静かだ」との声が経営側から漏れていた今年の春闘。賃金交渉は前半の山場を迎えたが、雇用格差の是正という新たな課題にはなお、回答が出ていない。

自動車や電機、鉄鋼など製造業の大手で、経営側が一斉に回答した。デフレ不況のもとで、組合側は月々の賃金は「定期昇給の維持」という手堅い要求に抑制。企業の業績が輸出関連の大企業を中心に回復しつつある流れを受け、多くの大手で賃金は「満額回答」となった。

ただし、賞与・一時金での攻防は激しく、要求割れも目立つ。

私鉄など内需関連のサービス産業の回答はこれから。ベースアップを要求しているところもある。払える企業はできるだけ払う形で前向きに決着させてほしい。

中小企業の賃金交渉もしだいに本格化してくる。定昇の仕組みがない企業が多いが、ここでも力のある企業は働く人々に報いて欲しい。連合には、妥結状況に関する情報発信で一層の工夫を望みたい。

連合が「すべての労働者のため」とうたった今年の春闘は、雇用のあり方を問い直している。正社員と非正社員の二重構造をどう克服するか。多くの企業で職場の実態把握が始まった段階というが、新たな日本的雇用システムを築く動きにつなげたい。

正社員の「終身雇用と年功序列」に象徴されたかつての日本的雇用システムは、ブルーカラーもホワイトカラーもあまねく能力を発揮、向上させるうえでよく機能した。広く普及したのもそのためだった。

それがバブル崩壊後は、一部の働き手を人材としてよりも、単なる「労働力」「コスト」とみなす傾向が強まり、非正規の雇用が増大した。

このままではいけない。時代の転換点にあって、多くの企業の労使がそう思い始めているのではないだろうか。雇用流動化の時代に適合した形で、もういちど、働く場のすべての人々の能力が十分に発揮できる新しい雇用システムを組み立てることができないものだろうか。

正社員と非正社員の格差是正に挑む企業はまだ少ない。だが、そうした企業の経営者は「働く人すべての能力を生かしたい」と強く考えている。そして、社内一丸のエネルギーをテコに企業をもう一段上のレベルに脱皮させようとするビジョンを持っている。

動きが鈍い企業は、この不況下での経営難に追われ、そういうビジョンを描く余裕がないのかも知れない。しかし、雇用の格差是正への取り組みが、企業全体の競争力を高めるカギになる可能性はある。

税制をはじめ政策面でも、ぜひ応援すべきだろう。

毎日新聞 2010年03月18日

春闘一斉回答 安定した賃金保障を

定期昇給(定昇)は何とか維持されたものの、賃上げは一部を除き2年連続ゼロ回答、ボーナスも満額に届かない企業が相次いだ。業績が回復しつつある中で行われた春闘としては低調な印象をぬぐえない。

定昇凍結、ボーナス大幅減額の昨年のショックから、労働側は当初からベースアップ(ベア)の統一要求を見送り、定昇確保という守りの春闘を強いられたことが大きい。定昇は賃金表に基づき年齢や勤続年数に応じて自動的に基本給が上がる仕組みで、凍結されれば実質的な賃下げになる。経営側は当初、企業によっては凍結もあり得るという厳しい態度を見せていたが、自動車、電機などの主要企業が軒並み定昇確保の回答を出したことで、労働側としては最低限の線を守った形になった。

ただ、終身雇用制が崩れていることを理由に定昇という賃金体系のあり方が論議されることに労働側は危機感を強めている。近年は企業の業績が良くなっても退職金や企業年金の増加につながるベアではなく、ボーナスの増額で対応する傾向が強まっている。業績次第で大幅な減額があるボーナスを住宅ローンに組み込んでいる人々も多く、定昇まで論議が及ぶことで国民の生活不安はさらに高まっているのではないか。

一方、初めて非正規社員の待遇改善についても労働側として取り組んだのが今春闘だった。派遣労働に対する規制強化を盛り込んだ法改正が進められ、非正規雇用の採用を抑える動きが広がる中で、今ひとつ盛り上がりに欠けたとも指摘される。そもそも非組合員の待遇について労使交渉のテーブルに載せることができるのかという声も根強い。

しかし、非正規社員の処遇改善に影響する産業別最低賃金について、電機連合は現行水準から1000円引き上げることを統一要求し、大手電機各社は500円の引き上げを回答した。「非正規の処遇改善に何らかの取り組みをしている組合は現時点で昨年より3割強も増えている」と古賀伸明連合会長は強調する。今後、企業内最低賃金の制度がない企業にもこうした動きが広がっていくことを期待したい。

高齢化に伴う社会保障費の膨張は、現役世代の保険料へと跳ね返り、消費税の議論も始まるなど、負担増の厚い雲が垂れこめている。成長分野へ労働力を流動化させるためにはそれにふさわしい賃金体系が必要だという意見はあるが、格差や貧困から脱し、生活の安定を求める国民の声が昨年の政権交代の背景にあったことも忘れてはならない。春闘はこれから中小企業へと舞台を移す。安定した雇用と賃金を守るために労使は力を尽くしてほしい。

読売新聞 2010年03月18日

春闘一斉回答 政府は積極経営を後押しせよ

定期昇給の維持が大勢を占めた。デフレ不況から抜け切れない中で、労使双方が受け入れ可能な着地点なのだろう。

自動車や電機など金属産業大手の経営側が、一斉に春闘の回答を示した。

労働側の多くは「定昇確保が最低限のハードル」としつつ、賃金全体の底上げを図るベースアップまでは求めなかった。

年齢や勤続年数に応じて加算されるのが定昇だ。1年ごとに月5000~7000円刻みとする企業が多いが、定昇を維持しても総額人件費に大きな変動はない。

年齢が増せば、育児や教育、住居費などの出費が膨らむ。終身雇用を前提とし、従業員の家計に配慮した制度である。

昨年は、定昇を凍結する企業が電機大手などで相次いだ。リーマン・ショック直後の危機を乗り切る非常手段でもあった。

企業業績は好転してきたが、先行きは不透明だ。物価も下落している。雇用を守り、従業員の士気を高める必要もある。定昇の維持は、こうした様々な要素を労使が勘案した結果だろう。

同時に、今年の交渉は、賃上げが当然という時代が遠のいたことをも印象づけた。

経営側から、今後は賃金を抑えていく必要があるとの発言が目立った。世界同時不況に伴う経営環境の激変と、少子化で国内需要が減少する見通しから、コスト削減による企業体質の強化が、いっそう求められるというのだ。

賃金に連動する社会保険料負担の増加も、企業が賃上げを渋る要因だ。定昇の上げ幅の縮小や、政府の子ども手当で家族手当は不要になるとの指摘もあった。

非正規社員の処遇改善も課題だが、今後の正社員の賃金も、不安定要因が多い。

だが、状況は厳しくても、企業が事業の拡大で雇用を増やし、賃金でも従業員に報いる姿勢がなければ、社会の活力が失われる。積極経営を強く後押しする政府の政策が、極めて重要である。

これから中小企業の春闘も始まる。連合は大手との賃金格差の是正を春闘方針に掲げている。

中小には定昇制度がない企業が約8割もある。だから、賞与を含め、年齢が50歳代へと上がっていくにつれて、大手との格差は広がるばかりだ。

人材不足に悩む中小企業は多いが、魅力ある賃金制度にしていく努力も要る。広く雇用を拡大するには、中小企業に対する政府の支援も欠かせない。

産経新聞 2010年03月18日

春闘一斉回答 雇用確保にもっと努力を

平成22年春闘は、電機や自動車、鉄鋼など大手製造業の経営側が労働組合に一斉回答した。焦点の定期昇給(定昇)は維持されたが、年間一時金(ボーナス)で満額回答が相次いで見送られるなど景気の不透明感を反映した。

連合が応援する民主党が政権与党について初めての春闘だが、今回も賃金に重点が置かれた。働き方の多様化や非正規社員の待遇改善など、いま解決しなければならない問題について、突っ込んだ話し合いが見られなかったのは残念である。

今回の春闘で日本経団連など経営側は「厳しい経済環境を考えれば、賃上げは難しい」とベースアップ(ベア)だけでなく、定昇の凍結もあり得るとの立場で臨んだ。このため、連合は早々にベア要求を断念し、定昇維持に全力を挙げる構えを示していた。定昇の確保を果たしたことで、組合側は「最低限の要求は獲得した」と強調している。

だが、連合は派遣など非正規社員の待遇を交渉テーマに位置づけていたものの、具体的な成果が得られる見通しは立っていない。定昇確保の交渉に時間が費やされ、正規と非正規の待遇格差や短時間正社員の創設といった労働形態の多様化など働き方をめぐる問題も前進したとはいえない。

これでは、働く人の立場で交渉に当たるべき連合などの労組が、自らの役割を放棄していることにならないか。春闘の形骸(けいがい)化は言われて久しいが、実効性の見込める新たな労使交渉を構築する必要があるだろう。

民主党は子ども手当の創設を打ち出したが、少子化対策では女性の働き方の見直しや育児環境の整備なども欠かせない。こうした「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」の実現に向け、春闘で労使が時間を割いて交渉する姿は見られなかった。

厳しい雇用環境の中で、雇用創出に効果があるワークシェアリング導入の政・労・使の協議は進んでいない。鳩山由紀夫政権は連合との政策協議には熱心だが、経済界との対話を敬遠している。今後は政府を巻き込み、労使で条件整備なども話し合うべきだ。

異なる業種の労使が横並びで春先に集中交渉する春闘が定着して50年以上が経過した。今後は、労使で協議するテーマや時期などについて、もっと柔軟に変えていくべきだろう。

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