終戦の日 先人への礼欠かぬ和解を 「譲れぬ価値」再確認する時だ

読売新聞 2016年08月15日

終戦の日 確かな「平和と繁栄」を築こう

◆世界に伝える日米の新たな和解◆

71回目の終戦の日を迎えた。先の大戦で亡くなった310万の人々を追悼し、平和への誓いを新たにする日である。

東京・北の丸公園の日本武道館では、政府主催の全国戦没者追悼式が行われる。

昭和天皇が国民に終戦を伝えた8月15日が、日本では長く終戦記念日として定着している。

ただし、戦闘の終結が確定したのは、厳密には9月2日である。東京湾に停泊する米戦艦ミズーリ号上で、日本と連合国の代表が降伏文書に調印した。

◆真珠湾と広島で発信を

戦艦ミズーリは現在、ハワイ・ホノルルの真珠湾に係留され、一般公開されている。近くの海底には、日本の奇襲攻撃で撃沈された戦艦アリゾナが、1100人を超える将兵とともに眠る。

「ノーモア・ヒロシマ」と叫べば、「リメンバー・パールハーバー」と反論される。「原爆投下」と「真珠湾攻撃」は、日米の不幸な歴史のトゲのような存在だ。

1997年に中国の江沢民国家主席が真珠湾を訪問した際、「ファシストの侵略に対して中米両国民は肩を並べて戦った」などと演説したこともあった。米中の連携を強調し、日米同盟にくさびを打ち込もうとしたものだ。

しかし、真珠湾も広島も、和解の舞台へと変わりつつある。

真珠湾のアリゾナ記念館の一角には、小さな折り鶴が2013年から展示されている。広島平和記念公園内にある「原爆の子の像」のモデル、佐々木禎子さんが折った1羽を、遺族が寄贈した。

真珠湾攻撃を指揮した連合艦隊司令長官・山本五十六の出身地、新潟県長岡市は12年の姉妹都市提携以来、ホノルル市と交流を続ける。戦後70年の15年8月の追悼式典では、平和を祈念する長岡の花火が真珠湾の夜空を飾った。

今年5月のオバマ米大統領の広島訪問は、米国で原爆投下を正当化する意見が根強い中での英断であり、17分間に及ぶ声明は多くの人の心を打った。日本側も、非人道的な行為を容認したわけではないが、謝罪を求めなかった。

成熟した日米関係を象徴する歴史的な訪問だった。その土台には、自由や民主主義、人権といった価値観を共有する同盟国が長年築いてきた信頼関係がある。

先の大戦への反省とおびを改めて表明した昨年8月の安倍首相談話は、米国をはじめ、多くの国に肯定的に受け止められた。

今日の安定した日米関係を、さらに発展させたい。

米国とは対照的に、歴史を外交カードにし続けているのが中国である。オバマ氏の広島訪問の際、王毅外相は「南京は更に忘れるべきではない」と言い放った。

◆秩序に挑むのは中国だ

中国は、南京事件で30万人が殺されたと一方的に主張し、「南京大虐殺の文書」のユネスコ世界記憶遺産登録を実現させた。

昨年9月の「抗日戦勝記念日」には、約30か国の元首・首脳の前で軍事パレードを披露し、中国が「戦勝国」であると誇示した。

だが、東・南シナ海で力による海洋秩序の変更を試みる一方、自らが国際秩序の側にあるように喧伝けんでんする「戦勝国外交」は、国際社会の共感を得ていない。

中国と“歴史共闘”を進めてきた韓国は、慰安婦問題を巡る昨年末の日韓合意を機に、対日関係の改善に転じた。日本は月内にも、元慰安婦を支援する韓国の財団に10億円を拠出する方針だ。

ただ、元慰安婦支援団体などは、財団に反対する姿勢を崩していない。米国に続いてオーストラリアでも今月上旬、慰安婦像の除幕式が行われた。慰安婦は旧日本軍に強制連行されたという誤解が今なお、世界に広がっている。

◆史実の歪曲に反論せよ

日本政府は、戦争に関する様々な史実の歪曲わいきょくに対し、的確な反論を続けねばならない。国際社会のルールの順守を中国などに働きかけることも大切だ。

ロシアとの北方領土問題の解決にも力を入れる必要がある。

71年を経ても未解決の戦後処理問題を決着させ、日露平和条約を締結するには、一段と戦略的なアプローチが求められる。

14年3月のロシアのクリミア併合以降、欧米諸国は対露制裁を続けるが、安倍首相は、プーチン大統領との会談を重ね、領土問題の打開の道を探っている。来月上旬にも、ロシア極東を訪れる。

各国との建設的な関係を追求して、戦後日本が築いてきた平和と繁栄をより確かなものとしたい。先の大戦で犠牲となった戦没者の思いに応えることにもなろう。

産経新聞 2016年08月15日

終戦の日 先人への礼欠かぬ和解を 「譲れぬ価値」再確認する時だ

71回目のこの日を迎えるにあたり、2つの変化があった。

一つは記憶に新しいオバマ米大統領の広島訪問である。大統領と被爆者が抱擁しあう姿は、原爆を落とした国と落とされた国のわだかまりを少なからず解消した。

もう一つは、昨年8月の安倍晋三首相の「70年談話」に連なる外交で、その代表例はいわゆる慰安婦問題をめぐる昨年末の日韓合意である。不正常な両国関係の改善に一定の効果をもたらした。

多難な国際情勢の中で日本が生き残る上で、さきの大戦の当事者や関係国との和解、関係強化が欠かせないことは言をまたない。

≪胸張り御霊に語れるか≫

2つの変化は、日米同盟や日米韓の枠組みを強固にする肯定的な意味を持とう。だがそのために日本の主張、日本が譲ってはならない立場が損なわれていないか。

わが国の歴史や国民の名誉をおとしめる余地がもし残っているとすれば、真の和解や問題の解決に結び付くものではない。

国に尊い命をささげた軍人・軍属と民間人計310万人に頭(こうべ)を垂れる際、「日本の未来を任せてください」と胸を張って言えるかどうかである。

昨年4月の米連邦議会演説で、安倍首相は戦争への「痛切な反省」や「アジア諸国民に苦しみを与えた事実」に言及した。演説は米側の支持を得て、オバマ大統領の広島訪問の下地になった。

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