逮捕から21年を前に、無罪が確定した。
大阪市東住吉区で1995年、小学6年の女児が死亡した火災を巡る再審で、大阪地裁は、殺人罪などで無期懲役が確定した母親と内縁の夫だった男性に、いずれも無罪を言い渡した。
判決は、男性の自白通りの放火は困難だと認定する一方で、自然発火だった可能性に言及した。
再審で検察側は有罪を主張せず、判決後には上訴権を放棄し、控訴を断念した。確定判決の構図が崩れ、その反証を放棄するという異例の対応である。
2人が大阪府警に逮捕されたのは、火災の約2か月後だ。女児に1500万円の生命保険金がかけられており、捜査段階で2人は、保険金目当てに放火したと供述した。後に否認に転じたが、2006年、最高裁で刑が確定した。
無罪へと導いたのは、09年の再審請求後、弁護団が現場を忠実に再現して実施した実験だ。
男性は「車庫にガソリン7リットルをまき、ライターで放火した」と供述していた。女児は入浴中で、浴室に隣接する車庫内の風呂用ガスバーナーに種火がついていた。
実験の結果、ガソリンは、まき終わる前に気化して種火に引火し、炎上した。自白通りなら、男性は大やけどを避けられない。供述の矛盾点が浮かび上がり、再審開始につながった。
問題なのは、捜査当局が、自白に依拠し、この矛盾から目を背けていたことである。2人の逮捕後に府警が行った実験でも、自白に基づく方法で着火すると、直後に激しい炎が立ち上った。
犯人の疑いがある状況証拠があったとしても、それを裏付ける客観的な証拠が立証には不可欠だ。府警と大阪地検は、緻密な立証を怠ったと言うほかない。
当初の公判では、裁判所も「忠実な再現実験は不可能だ」などと判断し、自白の信用性を疑わずに有罪を認定していた。捜査当局の甘い立証を安易に追認したと非難されても仕方がない。
再審判決は、警察官が取り調べの際、大声で自白を迫ったなどとして、その任意性まで否定した。捜査当局の完敗である。
裁判員制度の導入で、科学鑑定などの客観証拠が重視される傾向が強まっている。取り調べの可視化も進み、裁判員裁判対象事件では、全過程の録音・録画も義務化されることになった。
刑事裁判で重要なのは、手だてを尽くした立証を基に、裁判所が公正に判断することである。
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