大阪再審無罪 誤判の究明がなお必要

朝日新聞 2016年08月11日

大阪再審無罪 誤判の究明がなお必要

自白偏重の捜査は許されないことを、警察と検察はあらためて肝に銘じるべきだ。

大阪市東住吉区で95年、小学6年生の女児が焼死した火災で、殺人罪などで無期懲役が確定後、再審公判に臨んでいた母親の青木恵子さん(52)と、同居していた朴龍晧(たつひろ)さん(50)に、大阪地裁はきのう、無罪を言い渡した。

注目すべきなのは、有罪の根拠とされた2人の自白を証拠から排除したことだ。

「最初から犯人扱いし、相当な精神的圧迫を加えた」「取調官による誘導の疑いがある」。地裁は取り調べについてそう指摘した。自白に偏った予断捜査を厳しく戒めたといえよう。

一方で、判決は誤判の原因には言及しなかった。

2人は保険金目的で自宅に放火したとされた。しかし裁判のやり直しの過程で、車のガソリン漏れによる自然発火の可能性が高いことが、弁護側の再現実験で明らかになっていた。

当初の捜査で自然発火の可能性を詰めなかったのはなぜか。自白通りならやけどをしているはずなのに、それがないのを裁判所はなぜ見逃したのか。

再審開始決定時から指摘されてきたこうした疑問に、判決はこたえていない。裁判所もこの誤判にかかわった当事者であることを忘れてはならない。

2人とも公判では無実を訴え続けた。しかし一審・大阪地裁は「不合理な弁解を繰り返している」と判断した。以後も有罪は覆らず、2人が自由を奪われた月日は約20年に及ぶ。検察側の直接証拠は自白以外になく、より慎重な吟味が必要だったのではないか。

大切なのはなぜ捜査当局や司法が誤ったかを明らかにし、共有することだ。ふつうの市民が裁判員になる時代だからこそ、どこに落とし穴があるのか、みんなが知る意義は大きい。

日本弁護士連合会は、冤罪(えんざい)の原因究明のため、捜査機関や裁判所から独立した第三者機関を国会に置くよう11年に提言している。英米のように州政府や国が調査委員会を設け、再発防止を提言する例も参考になる。

「裁判の独立」を守る必要があるため、どんな検証方法が適切か、検討すべき課題は多いが、戦後発生し、死刑か無期懲役が確定後に再審で無罪となるのは今回で9件目だ。

自白偏重を改めるため、今春、取り調べの録音・録画(可視化)を義務付ける法改正がなされた。だが、対象は限定されている。このままで十分か、さらに検討が必要だ。

読売新聞 2016年08月12日

大阪女児焼死 「自白」頼みが招いた再審無罪

逮捕から21年を前に、無罪が確定した。

大阪市東住吉区で1995年、小学6年の女児が死亡した火災を巡る再審で、大阪地裁は、殺人罪などで無期懲役が確定した母親と内縁の夫だった男性に、いずれも無罪を言い渡した。

判決は、男性の自白通りの放火は困難だと認定する一方で、自然発火だった可能性に言及した。

再審で検察側は有罪を主張せず、判決後には上訴権を放棄し、控訴を断念した。確定判決の構図が崩れ、その反証を放棄するという異例の対応である。

2人が大阪府警に逮捕されたのは、火災の約2か月後だ。女児に1500万円の生命保険金がかけられており、捜査段階で2人は、保険金目当てに放火したと供述した。後に否認に転じたが、2006年、最高裁で刑が確定した。

無罪へと導いたのは、09年の再審請求後、弁護団が現場を忠実に再現して実施した実験だ。

男性は「車庫にガソリン7リットルをまき、ライターで放火した」と供述していた。女児は入浴中で、浴室に隣接する車庫内の風呂用ガスバーナーに種火がついていた。

実験の結果、ガソリンは、まき終わる前に気化して種火に引火し、炎上した。自白通りなら、男性は大やけどを避けられない。供述の矛盾点が浮かび上がり、再審開始につながった。

問題なのは、捜査当局が、自白に依拠し、この矛盾から目を背けていたことである。2人の逮捕後に府警が行った実験でも、自白に基づく方法で着火すると、直後に激しい炎が立ち上った。

犯人の疑いがある状況証拠があったとしても、それを裏付ける客観的な証拠が立証には不可欠だ。府警と大阪地検は、緻密な立証を怠ったと言うほかない。

当初の公判では、裁判所も「忠実な再現実験は不可能だ」などと判断し、自白の信用性を疑わずに有罪を認定していた。捜査当局の甘い立証を安易に追認したと非難されても仕方がない。

再審判決は、警察官が取り調べの際、大声で自白を迫ったなどとして、その任意性まで否定した。捜査当局の完敗である。

裁判員制度の導入で、科学鑑定などの客観証拠が重視される傾向が強まっている。取り調べの可視化も進み、裁判員裁判対象事件では、全過程の録音・録画も義務化されることになった。

刑事裁判で重要なのは、手だてを尽くした立証を基に、裁判所が公正に判断することである。

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