山の日 登るもよし眺めるもよし

朝日新聞 2016年08月11日

山の日 自分と向き合う契機に

きょう11日は「山の日」として今年から祝日になった。

お盆休みとつなげて数日間の縦走を、あるいはこれを機に初登山を計画している人もいるかもしれない。

日本の山々は山容や四季の変化に富み、昨今は海外からの登山客にも人気だ。「山ガール」に代表される若い世代の関心も引きつけている。

一方で、事故も増えた。警察庁がまとめた15年中の遭難事故は2508件。遭難者は3043人、死者・行方不明者は335人と、統計が残る1961年以降いずれも最多となった。遭難者の約半数、死者・行方不明者の約7割が60歳以上だ。

ただ、若い世代も要注意だ。最近は、山岳会など仲間での登山ではなく単独行が増えている。ネット上で知り合った初対面同士というグループもあり、経験豊かなリーダーがいないまま、また互いの力量や体調がよくわからないまま無理を重ねた末の事故も目立ち始めた。

山の危険というと険しい地形や天候悪化、滑りやすい場所などでの事故を連想しがちだが、関西大学の青山千彰教授が過去の事故例などを分析したところ、大半はなんでもない山道で起きているという。

集中力のとぎれる時間帯に木の根にひっかかったり、動く石に足をかけてバランスを崩したり、「油断」が原因だという。事故が起きやすいポイントを知り、そこで注意を集中することが予防につながると指摘する。

慶応大学の砂原秀樹教授らは登山行程を管理する「山ピコ」を開発した。登山口や山小屋に端末を置き、手持ちの交通ICカードをタッチしてもらうことで行動履歴を記録。いざというときの遭難場所を探しやすくする狙いだ。

長野県と協力し、今夏から北アルプス域で導入した。将来は体調管理や、個人差にあわせた危険箇所の警告などと組み合わせることも可能という。登山スタイルの変化に伴い、こうした新しい知識や技術も危険回避に役立てていくべきだろう。

先人は、行き交う者同士で声をかけあう慣習を築いてきた。単なるマナーにとどまらない。声の出具合で自分の疲労度を測ると同時に、相手の記憶を遭難時の救助に役立てる意味合いがある。

登山のだいご味は、自然の大きさと怖さとを体感することにある。それは己の能力や限界と向き合い、他者との助け合いの意味を知ることにもつながる。

「安全」を意識しながら、山の魅力に触れてみてほしい。

読売新聞 2016年08月11日

山の日 自然との付き合い方を学ぼう

きょう11日は、今年から新たな国民の祝日となった「山の日」だ。

日本の山々の豊かさ、恵みと厳しさへの理解を深め、自然との上手な付き合い方を学ぶ日にしたい。

「海の日があるのに、アンバランス」という山岳団体などの意見を受けて、2014年に制定された。改正祝日法は「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」と、その意義を強調している。

山頂でご来光を望むツアーや記念フォーラムといったイベントが各地で企画されている。

夏休み中でもあるため、親子で一緒にイベントに参加するなど、山に接する機会にしてほしい。

登山人口は近年、700万~800万人台で推移している。今後は、登山者の裾野のさらなる広がりが期待されよう。

気がかりなのは、遭難事故が多発していることである。

警察庁によると、15年中に起きた山岳遭難は2508件、3043人で、うち死者・行方不明者は335人に上る。いずれも統計史上最多だった。遭難原因は「道に迷った」が全体の4割を占め、滑落、転倒が続く。

体力や経験の不足を自覚せずに難しい山に挑み、事故に遭うケースが少なくない。無理のない登山計画を立てるべきだろう。

長野や山梨など6県は、計546の登山ルートの難易度をランク付けした「山のグレーディング」を公表している。こうしたデータを参考に、自らの体力や技術に見合った山を選びたい。

インターネットを通じて仲間を募り、初対面同士で「にわかパーティー」を組む。そんな新しい登山スタイルも登場している。

だが、手軽さには危険がつきまとう。互いの技量を知らぬまま事故が起きた際、的確に対応できるのか。安全面の吟味が重要だ。

14年9月の御嶽山噴火で、多数の登山客が死傷したことも忘れてはなるまい。万一に備え、十分な装備を整え、避難場所の下調べをしておくことが欠かせない。

氏名や連絡先、行程などを記した登山届を事前に管轄の警察署などに提出しておけば、遭難時の早期救助に役立つ。条例で提出を義務づけた自治体もある。御嶽山噴火の教訓を生かしたい。

山が育む森林資源や地下水、生態系の保護にも目を向けることが大切だ。世界文化遺産の富士山でさえ、ゴミの投棄が問題になっている。マナー啓発や清掃活動など環境保全の取り組みを官民一体で進める必要がある。

産経新聞 2016年08月11日

山の日 登るもよし眺めるもよし

2年前の祝日法改正で8月11日と定められた「山の日」を初めて迎えた。祝日はこれで年16日に増えた。

制定にあたっては「日付の根拠が曖昧だ」「祝日が多すぎる」といった反対の声もあったが、学校の授業時間や経済活動への影響などを考慮し、夏休み中で盆休みにも近いこの日が選ばれた。

わが国は周りを海に囲まれた海洋国であると同時に、国土の約4分の3が山地や丘陵地で占められる「山国」でもある。

古来、日本人が山林の恵みによって木の文化を育み、山を信仰の対象ともしてきた歴史に鑑みれば、「海の日」(7月の第3月曜日)と同じように山の日があってもよいと考える国民は、決して少なくはないと思われる。

法には「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」とうたわれている。山とともに生活してきた日本人にとって極めて意味のある趣旨ではなかろうか。

昨今は「山ガール」と呼ばれる若い女性や中高年の愛好者が増え、登山ブームが続いている。健康づくりや自然体験の面では歓迎すべきことながら、一方で遭難が増えているのは残念だ。

警察庁がまとめた昨年中の山岳遭難は件数、遭難者、死者・行方不明者ともに、統計の残る昭和36年以降で最悪の数値となった。

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