リオ五輪開幕 世界の垣根乗り越えて

朝日新聞 2016年08月05日

リオ五輪開幕 世界の垣根乗り越えて

8万人以上の警戒要員に守られて、リオデジャネイロ五輪が5日夜(日本時間6日朝)、開会式を迎える。

経済の低迷や大統領の職務停止など、ブラジル国内は様々な不安を抱えてきたが、いよいよ祭典の開幕である。

南米で史上初となる五輪だ。ブラジルと中南米諸国がともに祝福し、自信を深める歴史的な契機となるよう期待する。

大会組織委員会は「トランスフォルマ」と呼ばれる教育活動を繰り広げてきた。スポーツ競技を通じて、子どもたちにルールを守る健全な社会の意識を根づかせ、国の内外でリーダーとなる人材の育成をめざす。

元学校職員のオリベイラさんにとっても、特別な舞台だ。08年、地元のスラム街に体育館を完成させた。自ら土を運び、屋根をかけ、子どもたちにバドミントンを教えた。この五輪で、ここから2選手が出場する。

「スポーツは責任感と努力の大切さ、計画性や達成できたときの喜びを教えてくれる」

若い世代が今後、国際社会の一員として活躍してほしい、とオリベイラさんは願う。五輪は、子どもたちが世界を一つと感じる、またとない機会だ。

しかし、その国際社会は国家間の溝が深まっている。米国では排他的な言動をとる大統領候補が現れ、英国は欧州連合からの離脱を決めた。難民をめぐる各国の足並みもそろわない。

国々の垣根を高めようという主張が勢いづく。そんな残念な傾向はスポーツ界にもある。

ロシアの国家ぐるみのドーピングをめぐり、米国やカナダなどとロシアが対立した。東西冷戦時代を思い出させるような事態だ。スポーツで国家の勢いを示そうという考えも根強い。

相手への敬意を忘れず、公平なルールに沿って競う。スポーツの原則を確認し、国際社会の垣根を低くすることにつなげたい。スポーツが国家対立を助長することがあってはならない。

国際オリンピック委員会は初めて、難民10選手による選手団を結成した。シリアから海を渡り、ドイツに逃れた競泳のマルディニ選手は記者会見で、苦境を乗り越える決意を示した。

大会には難民選手団と206の国・地域が参加、1万を超す選手が集う。誰もが対等であり、スポーツを通じた仲間だ。

身近な選手には声援が自然と出るだろう。なじみのない国の選手も、これまでにない驚きを見せてくれるかもしれない。

垣根を越えて、人間のスピードとパワーをたたえ、競技が織りなすドラマを楽しもう。

読売新聞 2016年08月07日

リオ五輪開幕 不安を抱えて聖火が灯った

南米大陸に初めて聖火がともった。

リオデジャネイロ五輪が開幕した。200を超える国・地域から1万人余の選手が参加する。21日までの期間中、世界のアスリートの力と技を堪能したい。

南米一の経済大国ブラジルは、その存在感を世界に示すために五輪を招致したものの、政治的混迷の中での開幕となった。

開会式でテメル大統領代行が開会宣言をしたのが、その象徴である。ルセフ大統領は、政府会計を粉飾した疑惑で、議会による弾劾プロセスが始まり、停職中だ。

経済の低迷が続き、五輪を冷ややかに見る国民は多い。チケットの売れ行きは低調だという。

不安定な国内情勢の中、最も心配なのが、テロの発生だ。過激派組織「イスラム国」に共鳴するグループが7月、五輪でのテロを企てた疑いで摘発された。

大会期間中、前回ロンドン五輪の約2倍の8万5000人が警備にあたる。だが、警備員を派遣する予定だった業者が、人員を確保できずに契約を解除されるなど、大勢の観客が集まるソフトターゲットを守る態勢に不安が残る。

ブラジル政府は、各国政府と連携し、テロの封じ込めに全力を注がねばならない。

ジカ熱対策では、当局には正確な情報提供が求められる。

ロシアの国ぐるみのドーピングが発覚したことで、国際オリンピック委員会(IOC)も、混乱を引きずったまま大会を迎えた。開幕前のIOC総会では、ロシアをリオ五輪から全面排除しなかった理事会の決定が追認された。

ロシアに対するIOCの弱腰の姿勢に、批判が高まっている。それにもかかわらず、トーマス・バッハ会長は、混乱を招いた責任は、五輪直前に不正を公表した世界反ドーピング機関(WADA)にある、との認識を示した。

五輪の公正性が大きな危機にあることを自覚しているのか。

ロシア選手は、当初予定より約100人少ないものの、約270人の出場が認められる見通しだ。IOCは大会中のドーピング違反に厳正に対処せねばならない。

今回の五輪では「難民選手団」が結成された。五輪の出場資格を満たしながら、政情不安などのため、母国代表になれない選手の救済が目的だ。こうした取り組みはIOCの信頼回復につながる。

日本選手は、338人が出場する。金メダル14個、メダル総数30個以上の目標に向け、日頃の力を存分に発揮してほしい。

産経新聞 2016年08月06日

リオ五輪開幕 選手示せスポーツの価値

日本とは昼夜が逆になる。夜を徹して、テレビの前にくぎづけとなる人もいるだろう。

南米初の開催となるリオデジャネイロ五輪が5日(日本時間6日)に開幕する。

ロシアによる国ぐるみのドーピング問題、東京五輪招致をめぐる不正疑惑などが今年に入ってから相次いだ。五輪のイメージは傷つき、スポーツへの信頼は損なわれた。リオ五輪は、選手たちが自らの力でスポーツの価値を取り戻し、発信する舞台だ。

国を背負った選手による「より速く、より高く、より強く」の体現にこそ、スポーツの醍醐味(だいごみ)がある。そのことを、ファンもリオ五輪で再確認したい。

昨秋にスポーツ庁が開設されて初めての五輪となる今大会には、金メダル14個、メダル総数30個以上の高い目標を掲げ、338人の日本選手団が参加する。世界各国の精鋭たちにひるむことなく、持てる力を出し切ってほしい。

日本勢が金字塔を打ち立てる大会にもなりそうだ。レスリング女子53キロ級の吉田沙保里選手と同58キロ級の伊調馨選手は、女子選手初の4大会連続金メダルに挑む。体操男子の内村航平選手が狙うのは団体金の奪還と、日本勢44年ぶりの個人総合2連覇である。

「お家芸」の柔道は前回ロンドン大会で五輪史上初の男子金ゼロに終わった。五輪の屈辱は五輪でしか晴らせない。4年後に悔いを持ち越すことのないよう、結果で声援に応えてもらいたい。

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