学習指導要領 現場の自由の確保を

朝日新聞 2016年08月02日

学習指導要領 現場の自由の確保を

知識をただ教えるだけでなく、どんな力を育てるかを意識することは重要だ。

だが、そのために指導の道筋をあまりに細かに定めれば、授業や教科書を縛る結果になりはしないか。

学校のカリキュラムの基準を定める次の学習指導要領が、2020年度から小中高校で順次始まる。その設計図となる「審議のまとめ」の素案を、中央教育審議会が明らかにした。

注目すべきは、指導要領の性格を大きく変えたことである。

これまで「何を学ぶか」を中心にしていたのを「何ができるようになるか」を軸にする。

多くの研究者が「戦後の指導要領の転換点になる」と見るのもうなずける。

具体的には教科ごとにどんな力が身につくかを、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性」の三つの柱に当てはめて表にした。

例えば社会科では、「なぜ市場経済という仕組みがあるのか」「なぜ法に基づく政治が大切なのか」といった問いの例まで示している。

指導の視点や学習方法、活動例を、文科省が指導要領に書き込むとすると、それらに当てはまらない授業がやりづらくなり、窮屈だ。

文科省はこれからつくる指導要領の本体に「教え方を規定することはしない」と言う。だがその内容を解説する教員向けの冊子に事細かに盛り込むなら、それも事実上の縛りとなろう。

子どもが何を身につけたかを見る「評価」にも影響し、子供たちの独自の発想を抑える結果を招きかねない。

中教審は今後を「変化が激しく将来の予測が困難な時代」とし、自ら問いを立て、多様な人々と対話し、新たな価値を生み出すことが重要だという。

ならば画一的でなく創意あふれる教育こそが求められよう。教員の自由度を確保し、裁量を生かす指導要領にしてほしい。

授業が一色に染まる傾向は既に現れている。

文科省は新指導要領の目玉として「アクティブ・ラーニング」(能動的な学習)を打ち出した。各地の学校ではグループで議論する授業が花盛りだが、型にはまったものが多い。

中教審はこの学習を具体的に示さず、「主体的・対話的で深い学び」と説明しているが、いっそうつかみにくい。

わかりやすく、きちんと届く指導要領はどんなものか。文科省と中教審は年度内の告示に向け、知恵を絞ってもらいたい。

読売新聞 2016年08月03日

学習指導要領 国際化に対応できる力養おう

子供たちの将来を見据え、社会のグローバル化に対応できる力を涵養かんようする。それが、学校教育の重要課題である。

2020年度から小中高校で順次実施する次期学習指導要領について、中央教育審議会が中間報告を公表した。

学習内容や授業時間を定める指導要領は、ほぼ10年ごとに改定される。今回の改定により、現行の指導要領と大きく変わるのが、小学校の英語教育だ。

英語を教え始める時期を小学5年生から3年生に前倒しし、5、6年生は正式な教科にする。早い時期から英語に慣れさせ、コミュニケーション力の基礎を身に付けさせる狙いは理解できる。

問題は、授業時間の確保だ。小学5、6年生では、英語の授業が週1コマから2コマに増えるが、1週間の時間割は既にほぼ埋まっている学校が多い。

このため、中間報告は、始業前の15分程度の短時間学習を積み上げたり、45分授業を60分に延長したりする方法を提案した。

いずれも苦肉の策との印象は拭えない。細切れの指導で学習効果が見込めるのか、授業時間の延長で子供たちの集中力は途切れないか。さらに検討が必要だ。

小学校教師の多くは、英語の指導力に不安を抱えている。文部科学省は、教師を補助する外国語指導助手や、語学に堪能な外部人材の活用を進めるべきだ。

高校では、日本と世界の近現代史を扱う「歴史総合」が必修科目として新設される。今に通じる日本の歩みを、世界情勢と関連づけて学ぶことは大切である。

用語や年号をただ暗記するのではなく、歴史的事象の背景と意義を考える授業を浸透させたい。

中間報告には、思考力や表現力を培う授業を普及させる方針が盛り込まれた。子供たちが討論や意見発表を通じて、答えを探究する能動的学習(アクティブ・ラーニング)が例示されている。

主体性を引き出し、学習意欲を高める効果が期待できよう。

一部の教育関係者の間には、「討論を重視すると、知識を教えることが手薄になり、学力低下を招いたゆとり教育へ逆戻りする」といった声がある。

充実した討論には、基礎知識の習得が前提となることは言うまでもない。中間報告も「学習内容の削減は行わない」と強調した。

児童・生徒の知識の定着度合いを確かめつつ、討論や発表の機会を適宜設ける。バランスのとれた授業の工夫こそが求められる。

産経新聞 2016年08月07日

転機の学校教育 子供らしい学び忘れずに

小中高校の授業はどう変わるか、次期学習指導要領の素案を中央教育審議会が示した。4年後の東京五輪の年以降、実施に移される。

社会の変化の中、いま学校教育は転機にある。新しい文部科学相には教育政策の検証を怠らず、進路を誤らないかじ取りを求めたい。

指導要領は、ほぼ10年ごとに改定されてきた。素案は背景に国際化や人工知能(AI)の飛躍的進化などを挙げ、「AIでは代替できない能力」「AIを生み出すような創造力育成」を目指す。

理想を追うのはいいとしても、暗記でなく使える知識や思考力育成など、同様の目標を掲げ失敗した「ゆとり教育」の二の舞いにならないよう進めてもらいたい。

では実際にどんな授業を行うのか。素案では分かりにくい。

次期指導要領では、「アクティブ・ラーニング」という授業スタイルを求めている。一方的に講義するやり方を見直し、子供が討議や課題探究など能動的に学習し考える力を身につけることを目指す。そうした授業は力のある教師は既に実践してきたことだ。

指導力のない者には難しい。ゆとり教育失敗も教師の力が伴わなかったことが一因だ。

教育関係者だけに通じるあいまいなカタカナ語でごまかさず、保護者にも分かりやすい明確な日本語を使ってほしい。

ゆとり教育の反省から、学習内容は減らさないと明示したことは評価できる。

だが既に時間割が過密といわれる中、小学校高学年で英語が教科化され週2時間充てられる。それより国語力強化が先だろう。

IT(情報技術)社会に対応しコンピューターを動かす論理的思考を学ぶ「プログラム教育」も小学校から盛り込まれる。先生も子供も大変だ。学校に何もかも求め過ぎている印象が拭えない。

次期指導要領の3つの柱「活用できる知識習得」「思考・判断・表現力育成」「人間性の涵養(かんよう)」は年齢に応じた子供らしい学びや体験を通し身につくものだろう。

素案では、将来予測が難しい社会の中で「伝統や文化に立脚した広い視野」の重要性が指摘された。これも学校、家庭、地域の教育を通し、日本の良さを体験的に学ぶことで培われるものだ。

教育の変わらない基本を忘れないでほしい。

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