大型経済対策 問われるのは規模より中身だ

朝日新聞 2016年08月03日

経済対策 「抜け道」頼みの危うさ

「アベノミクスのエンジンを最大にふかす」。安倍首相がこう語ってきた経済対策を、政府が閣議決定した。

総事業規模は28兆円余り。政府系金融機関の融資枠などを除くと、予算と財政投融資で手当てするのが13・5兆円。その柱として、政府が秋の臨時国会に提出する補正予算は4兆円程度。そんな内容である。

保育や介護施設の整備促進、学校の耐震化、熊本地震の復旧復興を含む防災対策……。補正予算に計上する予定の事業としてそんな項目が並ぶ。

一方で、疑問符がつくものも少なくない。代表例が「21世紀型のインフラ整備」としてあげられている事業だ。大型クルーズ船を受け入れるための港湾整備、農林水産物の輸出を増やすことをねらった加工施設の建設などが、予算を投じて進める事業として並ぶ。

訪日外国人を多く受け入れ、第1次産業が海外に打って出るのを支援するのは、検討に値するテーマだろう。しかしなぜ当初予算ではなく、緊急時の対応が役割である補正予算なのか。

補正予算の編成期間は当初予算と比べて短く、政府内のチェックがおろそかになりがちだ。これまでもたびたび「抜け道」に使われ、財政を悪化させる要因となってきた。

今回の経済対策にも同じ構図が見える。政府は当初予算に計上した公共事業を景気対策として前倒しで執行しており、年度末に向けて事業量を確保する必要に迫られていることが背景にある。

「抜け道」はほかにもある。財政投融資の大盤振る舞いだ。やはり「21世紀型のインフラ整備」の柱として、JR東海のリニア中央新幹線への支援とともに、北海道などで国と自治体が進める整備新幹線の建設前倒しがあげられている。

整備新幹線は、毎年度の予算に費用を計上しつつ、国や自治体の財政状況に目配りしながら事業を進めてきた。補正を通じた財投資金で事業を加速させることに危うさを禁じ得ない。

一連の事業の費用をまかなうために、政府は建設国債や国債の一種である財投債を発行する。金額は合わせて数兆円になりそうだ。借金をつけ回しするだけの赤字国債の発行は避ける方針とはいえ、インフラはいったん造ると維持更新費が必要になることを忘れてはなるまい。

経済対策のテーマは「未来への投資」だという。

しかし、「未来への負債」を残すことにならないか。政府にその危機感はあるのだろうか。

読売新聞 2016年08月03日

大型経済対策 問われるのは規模より中身だ

肝心なのは、民間活力の向上である。その視点で、個別の事業を厳しく精査せねばならない。

政府が、事業規模28・1兆円に上る経済対策を決めた。2008年のリーマン・ショック後で3番目の大型だ。

21世紀型のインフラ(社会基盤)整備に10・7兆円を充てることなどが柱で、安倍首相は「未来への投資」だと強調する。国内総生産(GDP)を短期的に1・3%押し上げる効果があるという。

日本経済は、雇用や賃金の改善が消費の拡大につながらない状況が続く。円高の進行や社会保障の将来不安から、企業も個人も守りの姿勢にあることが大きい。

首相は6月に消費増税延期を決めた際、「今度こそデフレ脱却を実現するため、アベノミクスのエンジンを最大限ふかす」と宣言し、参院選に臨んだ。経済対策には、その公約を果たす狙いがある。

厳しい財政事情の制約から、赤字国債の発行は回避した。国・地方の財政支出は7・5兆円に抑える一方、国が民間に低利融資する財政投融資などを活用した。

民間支出を事業規模にカウントするなど、苦労して総額の拡大を演出した感が否定できない。

内容にも疑問が残る。

目玉の一つとして3兆円を投入するリニア中央新幹線の東京―大阪間の開通を2045年から最大8年間前倒しする施策に、どんな経済効果があるのか。

財投を民間投資の呼び水にする意図自体は理解できる。しかし、新たな投資の起爆剤となり得るのは、目標の27年にも東京―名古屋間が完成した後、大阪への延伸工事が始まってからだろう。

公共投資に使途を限る建設国債の増発が、無駄な公共事業につながらないか。この点も心配だ。

消費喚起策として、低所得者に1人あたり1万5000円を現金給付する事業は問題が多い。

消費増税対策の「簡素な給付措置」をやめ、今後2年半分を一括で渡すという。これで打ち切りとなれば、受給者は買い物より貯蓄に回すのが自然だろう。

個人消費の底上げには、子育てや介護を巡る将来不安の解消や、働き方改革で労働人口の減少を補う生産性の向上が求められる。

「1億総活躍社会」の実現には、3・5兆円が計上された。雇用保険料引き下げや、年金受給資格の25年から10年への短縮などだ。

今回の対策と一体化する17年度予算の編成では、さらなる内容の充実に向け、最大限の重点化を図らねばなるまい。

産経新聞 2016年08月03日

経済対策 「空ぶかし」にならないか

アベノミクスのエンジンを最大にふかすという安倍晋三首相の約束を具体化する経済対策がまとまった。事業費は28・1兆円まで膨らんだ。

日本経済は、消費税増税の再延期を判断せざるを得ない状況にあった。そこから抜け出す対策に力が入るのは道理としても、ここまで来ると大盤振る舞いの印象は否めない。

脱デフレの遅れは明確なのに、政府は「道半ば」という言葉に置き換えてきた。民需主導の持続的成長へ、今度こそ確実につなげられるかの真価が問われる。厳しい財政を勘案すれば、官需に頼り続けることはできない。

対策の中身をみると、「空ぶかし」にならないかという懸念を抱かざるを得ない。首相の意向で規模の拡大を図るあまり、成長に資する効果の吟味がなおざりになっていないか。

1億総活躍社会の関連施策やインフラ整備、英国の欧州連合(EU)離脱問題への対策などが盛り込まれた。試算では、国内総生産(GDP)を1・3%押し上げる効果があるという。

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