肝心なのは、民間活力の向上である。その視点で、個別の事業を厳しく精査せねばならない。
政府が、事業規模28・1兆円に上る経済対策を決めた。2008年のリーマン・ショック後で3番目の大型だ。
21世紀型のインフラ(社会基盤)整備に10・7兆円を充てることなどが柱で、安倍首相は「未来への投資」だと強調する。国内総生産(GDP)を短期的に1・3%押し上げる効果があるという。
日本経済は、雇用や賃金の改善が消費の拡大につながらない状況が続く。円高の進行や社会保障の将来不安から、企業も個人も守りの姿勢にあることが大きい。
首相は6月に消費増税延期を決めた際、「今度こそデフレ脱却を実現するため、アベノミクスのエンジンを最大限ふかす」と宣言し、参院選に臨んだ。経済対策には、その公約を果たす狙いがある。
厳しい財政事情の制約から、赤字国債の発行は回避した。国・地方の財政支出は7・5兆円に抑える一方、国が民間に低利融資する財政投融資などを活用した。
民間支出を事業規模にカウントするなど、苦労して総額の拡大を演出した感が否定できない。
内容にも疑問が残る。
目玉の一つとして3兆円を投入するリニア中央新幹線の東京―大阪間の開通を2045年から最大8年間前倒しする施策に、どんな経済効果があるのか。
財投を民間投資の呼び水にする意図自体は理解できる。しかし、新たな投資の起爆剤となり得るのは、目標の27年にも東京―名古屋間が完成した後、大阪への延伸工事が始まってからだろう。
公共投資に使途を限る建設国債の増発が、無駄な公共事業につながらないか。この点も心配だ。
消費喚起策として、低所得者に1人あたり1万5000円を現金給付する事業は問題が多い。
消費増税対策の「簡素な給付措置」をやめ、今後2年半分を一括で渡すという。これで打ち切りとなれば、受給者は買い物より貯蓄に回すのが自然だろう。
個人消費の底上げには、子育てや介護を巡る将来不安の解消や、働き方改革で労働人口の減少を補う生産性の向上が求められる。
「1億総活躍社会」の実現には、3・5兆円が計上された。雇用保険料引き下げや、年金受給資格の25年から10年への短縮などだ。
今回の対策と一体化する17年度予算の編成では、さらなる内容の充実に向け、最大限の重点化を図らねばなるまい。
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