北朝鮮が、軍事的挑発をエスカレートさせている。不測の事態を回避するためには、万全の備えが欠かせない。
2016年版防衛白書は、北朝鮮の動向について、日本や国際社会への「重大かつ差し迫った脅威」と位置付けた。1月の核実験、2月の長距離弾道ミサイル発射を踏まえ、昨年の「重大な不安定要因」から格上げした。
6月の中距離弾道ミサイル・ムスダンの発射は、推定射程が最大4000キロで、「一定の機能を示した」と分析した。「核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性」にも言及している。
核実験は4回、弾道ミサイル発射は金正恩体制下で30発以上を数える。その能力や精度は確実に向上していると考えるべきだ。
3日に発射されたノドンとみられる弾道ミサイルの弾頭は、日本の排他的経済水域(EEZ)に初めて落下した。航空機や船舶に被害が出てもおかしくなかった。極めて憂慮すべき事態である。
移動式発射台を使ったため、日本政府は事前に、発射の兆候をつかめなかったとされる。
政府は、北朝鮮のミサイルへの警戒を一段と強めねばなるまい。迎撃ミサイルSM3搭載型イージス艦を8隻体制に増やす計画などを進めることが重要だ。
白書は、中国の海洋での「高圧的とも言える対応」や、力による現状変更の既成事実化の動きに、「強い懸念」を示した。
尖閣諸島周辺では、海軍艦艇が接続水域に進入し、空軍機の南下活動も活発化している。
中国軍が挑発活動に出た際は、自衛隊が迅速かつ的確に警告できる態勢を維持する必要がある。
防衛省は、海上保安庁と連携し、警戒監視活動を強化すべきだ。新型哨戒機P1や哨戒ヘリSH60Kの導入を急がねばならない。
南西諸島の防衛も拡充したい。3月、与那国島に地上レーダーを持つ陸上自衛隊の監視部隊が配置された。さらに、宮古、石垣両島への警備・ミサイル部隊の配置を着実に進めることが大切だ。
3月施行の安全保障関連法について白書は、内容や目的、憲法との関係などを解説している。
集団的自衛権の行使容認に関して、存立危機事態に限定するなど、極めて厳格な要件を設けたと強調した。「わが国の意に反して他国の戦争に巻き込まれることは決してない」とも明記している。
政府には、あらゆる機会を通じて国民の理解を深める努力を続けることが求められよう。