「脱官僚政治」と徹底した無駄の排除を掲げて半年前に発足した鳩山政権の失速ぶりが激しい。
政権発足時に7割近くあった内閣支持率は4割前後に急落したことが国民の失望を象徴するが、この政権が進める政策は国家や国民の利益と乖離(かいり)したものであることを、多くの人がようやく気付き始めたといえよう。
同時に政権の最高実力者である小沢一郎民主党幹事長と鳩山由紀夫首相が、それぞれの「政治とカネ」の問題で政治的・道義的責任をとることもなく、開き直りの姿勢をみせていることに国民はあきれ果てている。自浄作用がまったく働かないのである。
これは小沢氏に異論を唱えることが許されないといった「独裁」ともいえる民主党の意思決定システムに問題があると指摘せざるを得ない。昨年の衆院選で掲げていた政策の方向性に逆行する内容が、次々と表面化するのもそのためだ。国益を損なう政策でも排することができない政権構造の硬直化を改めることが求められる。
こうした事態は、衆院選を勝利に導いた小沢氏を首相が幹事長に起用したことに起因する。小沢氏の持つ権力は強大化し、政策決定の内閣一元化という方針の下で党内の政策論議が事実上封じられてきた。
その一方で、小沢氏の政策に関する発言は、昨年末の党側からの予算要望でガソリン税の暫定税率維持がすぐに決まったように、政府の政策決定に強い影響力を与えている。自民党政権時代に比べても、政策決定過程がより不透明となり、政権構造のゆがみが強く印象づけられていないか。
民主党の目指す政治の原点は政策決定や政権運営に公開性を持たせることだったはずだ。そこに立ち返ろうとしないまま、国民の信を取り戻すことは困難だ。
◆選挙至上主義の弊害
鳩山政権の重大な政策のブレは、暫定税率廃止の見送りにとどまらない。
民主党は官僚の「天下り・渡り」の禁止を主張し、野党時代には国会同意人事案を参院で否決し、日銀総裁ポストの空白をもたらすことをいとわなかった。
だが政権に就くと、日本郵政社長に元大蔵次官の斎藤次郎氏を、人事院総裁に元厚生労働事務次官の江利川毅氏を起用した。看板倒れというしかない。
対等な日米関係を掲げながら、米軍普天間飛行場移設問題での迷走は米側の信頼を失い、同盟を損なう状況を招いている。
高速道路の無料化は十分、進展しない一方で、新規道路建設に向けた法改正が予定されている。高速道路の整備推進を促す小沢氏の予算要望を踏まえたものだ。
政策のブレは、現実に合わないマニフェスト(政権公約)の修正という面もあるが、参院選を控え、子ども手当支給に代表されるばらまき政策や露骨な利益誘導につながっている。
民主党が陳情を党幹事長室に一本化し、そのルートで公共事業の予算配分情報を地方組織を通じて自治体に漏らす問題も起きた。
「選挙で勝ったから内閣が組織できる」と考える小沢幹事長の選挙至上主義の弊害といえるだろう。それでは、民主党が批判してきた自民党政権下での利益誘導政治を、さらに強化しただけではないか。
◆受け皿づくりを期待
脱官僚という方向性は間違っていない。だが、それを強調するあまり、閣僚、副大臣ら政務三役が情報を独占し、その検討過程がはっきり見えない。閣議の内容も十分な説明が行われているとはいえない。民主党内から政策協議に関与できないことの強い不満が出ること自体が、政策決定の不透明さを証明している。
政治家主導の政治への転換は引き続き取り組む必要があるが、重要なのは、政権が進める政策の正当性や公平性について、国民から疑念を抱かれるようなことを改めることである。
鳩山政権の問題点を追及しきれずにいる自民党の状況も深刻である。谷垣禎一総裁ら執行部に不満を持つ鳩山邦夫元総務相が離党届を出した。
国民が期待しているのは、国益や国民の利益を実現できる政治の受け皿づくりである。社会規範を破って省みないような指導者は信を得られない。
自民党や民主党の枠にとどまらず、政治の腐敗を正し、国益を優先させる政治主体の結集こそ、いま求められていよう。
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