鳩山政権半年 首相の覚悟が見えない

朝日新聞 2010年03月16日

政権交代から半年 新たな政治の芽を育てる

政権交代から半年がたった。

朝日新聞社がこの週末に実施した全国世論調査によれば、鳩山由紀夫政権発足当初7割に及んだ内閣支持率は、3割程度にまで落ち込んだ。

首相に実行力がない。言葉が軽い。政策は迷走続き。政治とカネの問題に真剣に取り組もうとしない――。

支持率続落の要因は、はっきりしている。政治が変わると期待したのに、あまり変わったように見えないという幻滅だ。当然の反応である。

しかし、そちらの面だけに目を奪われて現状を嘆くばかりでは、建設的でも賢明でもないだろう。

私たち有権者が目を向けるべきもっと大切なことがあるのではないか。

それは、鳩山政権のこれまでの仕事ぶりには失望を禁じ得ないにしても、有権者は政権交代を起こしたこと自体を後悔しているわけではないという事実である。同じ世論調査で、政権交代が起きたことを「よかった」と答えた人が7割近くもいた。「よくなかった」と答えた人は2割にすぎない。

この数字が物語っていることの意味は、実はとても大きい。

毎日新聞 2010年03月16日

鳩山政権半年 首相の覚悟が見えない

鳩山政権が誕生して16日で半年になる。だが、当初、国民の間にあった熱気に満ちた期待は日々薄れ、失望感が広がりつつある。なぜ、こんな事態に立ち至ったのか。半年を節目に鳩山由紀夫首相らは厳しく現実を見つめ、総括する必要がある。

まず、世論の状況を見てみたい。毎日新聞が13、14日に実施した全国世論調査では鳩山内閣の支持率は43%で前月から6ポイント下落。不支持率は8ポイント増の45%で初めて支持と不支持が逆転し、半年間の政権運営を「評価しない」と答えた人は66%に上った。数字はやや高いとはいえ、発足後下げ止まることのないじり貧傾向は次々と交代した安倍、福田、麻生内閣とそっくりで、政権には黄信号がともっていると言っていい。

問題はそんな危機感を首相らが本当に持っているかどうかだ。

支持率低下の大きな要因が「政治とカネ」の問題だったのは間違いなかろう。首相自らの偽装献金事件はなお収拾がつかない。今回の調査では資金管理団体の土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件に関し、小沢一郎民主党幹事長は辞任すべきだと答えた人は76%に上り、小沢氏の不起訴が決まった直後に行った前月調査を上回った。

小沢氏は今も国会での説明を拒んでいる。加えて北海道教職員組合の違法献金事件も発覚した。それが世論の離反を招き、政権の足かせになっているのは確かである。

しかし、それだけだろうか。国民の不満は「小沢問題」だけにとどまらず、証人喚問など国会での説明さえ小沢氏に求められない首相本人に批判の矛先が向かい、政権の政策実行能力にも疑問を抱き始めている国民が増えているのではないか。

事業仕分けや日米安保関連の密約資料公開は政権交代の効果を発揮したと評価する。だが、その事業仕分けも税金の無駄を省くという実際の効果は今一つだった。財源不足はもはや否定できず、目玉の子ども手当を11年度からマニフェスト通り月2万6000円支給できるかどうかもおぼつかない状況だ。

消費税引き上げを含む税制改革論議を始めるのは当然だ。ところが、今後の議論の方向性について肝心の首相の意向は明確でない。一方で前原誠司国土交通相が国の空港整備を目的とした特別会計の見直しを公言しながら、その後手つかずになっているように、一閣僚の言いっ放しで終わっている政策も目立つ。

迷走の最たるものが米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題だ。今に至っても新たな案が次々と浮かんでは消える有り様で、政府・与党の沖縄基地問題検討委員会委員長である平野博文官房長官と首相の間でどれだけすり合わせができているのか疑わしくなるほどだ。官僚の多くも「お手並み拝見」から抜け出さず、政治主導も道なかばだ。

実際には政権の中心は小沢氏だと民主党議員も見ているのだろう。相変わらず党内では「親小沢対非小沢」の対立が取りざたされる。だが、これも表立って激論を交わすわけではなく、双方に不満ばかりがたまっている。国会審議だけは与党の数の力で淡々と進んではいるが、鳩山政権は「政治とカネ」でつまずいたのをきっかけに求心力を失い漂流状態に陥りつつあるように見える。

結局、問われているのは鳩山首相のリーダーシップだ。この半年、首相が決断を下した場面がどれほどあったろう。それが国民の不満や不安に結びついているように思われる。

政権は今後ますます何を具体的に実現したかが問われることになる。現状のままで果たして乗り切れるだろうか。ここは実行態勢を強化するためにも、思い切った外科手術、つまり内閣や党執行部の人事にも手をつけるべきではないか。再三指摘してきた通り、副大臣や政務官の増員や政府と党の政策調整の一体化など態勢固めを先送りしたのがボタンの掛け違いの始まりだ。組織自体の見直しと同時に、一部の人事の刷新も含めて「チーム民主」を再構築すべき時だ。それが政権を立て直す数少ない方法だと考える。

それを実行できるかどうかも首相の指導力だ。首相は普天間問題について「意思決定には覚悟を持って臨むべきだ」と何度も語っている。国のリーダーの「覚悟」とは、自らの進退をかける意味だと私たちは理解している。5月末までにどう決着させるか。普天間問題は首相の命運を握っていると指摘しておく。

この半年、一方の自民党も低迷を続けている。15日には首相の弟、鳩山邦夫元総務相が離党、自民党の混乱も収まる様子がない。

そんな中、所属議員わずか6人のみんなの党の支持率が公明党などを上回る7%に上り、支持政党はないという無党派層も40%と再び増え始めたことを、もっと深刻に受け止めるべきだろう。そこには「民主党には失望したが自民党にも戻れない」といった行き場のない国民の政治不信が感じられるからだ。

せっかく、有権者の選択により実現した初の本格的な政権交代だ。失望に終わらせないという強い覚悟を首相に見せてもらおう。

産経新聞 2010年03月16日

鳩山政権半年 「小沢独裁」に決別の時 腐敗是正と国益重視で結集を

「脱官僚政治」と徹底した無駄の排除を掲げて半年前に発足した鳩山政権の失速ぶりが激しい。

政権発足時に7割近くあった内閣支持率は4割前後に急落したことが国民の失望を象徴するが、この政権が進める政策は国家や国民の利益と乖離(かいり)したものであることを、多くの人がようやく気付き始めたといえよう。

同時に政権の最高実力者である小沢一郎民主党幹事長と鳩山由紀夫首相が、それぞれの「政治とカネ」の問題で政治的・道義的責任をとることもなく、開き直りの姿勢をみせていることに国民はあきれ果てている。自浄作用がまったく働かないのである。

これは小沢氏に異論を唱えることが許されないといった「独裁」ともいえる民主党の意思決定システムに問題があると指摘せざるを得ない。昨年の衆院選で掲げていた政策の方向性に逆行する内容が、次々と表面化するのもそのためだ。国益を損なう政策でも排することができない政権構造の硬直化を改めることが求められる。

こうした事態は、衆院選を勝利に導いた小沢氏を首相が幹事長に起用したことに起因する。小沢氏の持つ権力は強大化し、政策決定の内閣一元化という方針の下で党内の政策論議が事実上封じられてきた。

その一方で、小沢氏の政策に関する発言は、昨年末の党側からの予算要望でガソリン税の暫定税率維持がすぐに決まったように、政府の政策決定に強い影響力を与えている。自民党政権時代に比べても、政策決定過程がより不透明となり、政権構造のゆがみが強く印象づけられていないか。

民主党の目指す政治の原点は政策決定や政権運営に公開性を持たせることだったはずだ。そこに立ち返ろうとしないまま、国民の信を取り戻すことは困難だ。

◆選挙至上主義の弊害

鳩山政権の重大な政策のブレは、暫定税率廃止の見送りにとどまらない。

民主党は官僚の「天下り・渡り」の禁止を主張し、野党時代には国会同意人事案を参院で否決し、日銀総裁ポストの空白をもたらすことをいとわなかった。

だが政権に就くと、日本郵政社長に元大蔵次官の斎藤次郎氏を、人事院総裁に元厚生労働事務次官の江利川毅氏を起用した。看板倒れというしかない。

対等な日米関係を掲げながら、米軍普天間飛行場移設問題での迷走は米側の信頼を失い、同盟を損なう状況を招いている。

高速道路の無料化は十分、進展しない一方で、新規道路建設に向けた法改正が予定されている。高速道路の整備推進を促す小沢氏の予算要望を踏まえたものだ。

政策のブレは、現実に合わないマニフェスト(政権公約)の修正という面もあるが、参院選を控え、子ども手当支給に代表されるばらまき政策や露骨な利益誘導につながっている。

民主党が陳情を党幹事長室に一本化し、そのルートで公共事業の予算配分情報を地方組織を通じて自治体に漏らす問題も起きた。

「選挙で勝ったから内閣が組織できる」と考える小沢幹事長の選挙至上主義の弊害といえるだろう。それでは、民主党が批判してきた自民党政権下での利益誘導政治を、さらに強化しただけではないか。

◆受け皿づくりを期待

脱官僚という方向性は間違っていない。だが、それを強調するあまり、閣僚、副大臣ら政務三役が情報を独占し、その検討過程がはっきり見えない。閣議の内容も十分な説明が行われているとはいえない。民主党内から政策協議に関与できないことの強い不満が出ること自体が、政策決定の不透明さを証明している。

政治家主導の政治への転換は引き続き取り組む必要があるが、重要なのは、政権が進める政策の正当性や公平性について、国民から疑念を抱かれるようなことを改めることである。

鳩山政権の問題点を追及しきれずにいる自民党の状況も深刻である。谷垣禎一総裁ら執行部に不満を持つ鳩山邦夫元総務相が離党届を出した。

国民が期待しているのは、国益や国民の利益を実現できる政治の受け皿づくりである。社会規範を破って省みないような指導者は信を得られない。

自民党や民主党の枠にとどまらず、政治の腐敗を正し、国益を優先させる政治主体の結集こそ、いま求められていよう。

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