米大統領選で、「米国第一主義」を唱える共和党のドナルド・トランプ氏と、国際協調や国民融和を訴える民主党のヒラリー・クリントン氏の立場の違いが鮮明になった。
民主党大会でクリントン前国務長官が大統領候補に指名され、本格的な選挙戦が始まった。
クリントン氏は指名受諾演説で「我々はより完全な国になるための転換点に達した」と述べ、主要政党として初の女性大統領候補が生まれた意義を強調した。
重要なのは、クリントン氏が「米国は世界の同盟国と協力した時、より強くなる」と語り、同盟強化を打ち出したことである。
クリントン氏は国務長官時代に、アジア重視政策を推進した。沖縄県の尖閣諸島が、米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約5条の適用対象であることを政権内でいち早く明言していた。
陣営にキャンベル前国務次官補ら知日派が少なくないことも、日本にとっては心強い材料だ。
クリントン氏は演説で、環太平洋経済連携協定(TPP)には直接言及せず、「不公正な貿易協定」への反対を表明するだけにとどめた。TPPに反発する党内左派に配慮しつつ、批准の余地を残したことは評価できる。
日本が国会の承認手続きを迅速に進め、米国が批准しやすい環境を整えることが欠かせない。
排他的な移民政策を掲げるトランプ氏に対し、クリントン氏は「世界や米国の分断を望んでいる」と非難した。「国民は堅実な指導者を求めている」と述べ、実行可能な政策をアピールした。
民主党大会では、オバマ大統領や、候補の座を激しく争ったバーニー・サンダース上院議員らが応援演説を行った。党内融和の演出には成功したと言えよう。
課題は、トランプ氏と同様、好感度が大統領候補として記録的に低いことだ。長官在任中、国務省の規定に反し、私用メールアドレスで機密情報を扱った。司法当局は立件を見送ったが、「極めて不注意だった」と指摘した。
発覚当初、十分な説明も謝罪も拒んだことが、「信用できない」という国民感情につながっているのではないか。
大統領夫人や上院議員も務めたクリントン氏は、サンダース氏を支持する若者らから、「既存の支配層の象徴」と目されてきた。
選挙戦では、「反トランプ」を主張するだけでなく、現状に不満を抱く人々の支持を得なければ、国全体の団結も実現できまい。
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