米大統領選 分断克服する指導力示せ

朝日新聞 2016年07月30日

米大統領選 分断乗り越える論戦を

米国の大統領選は、経歴も政策も手法もまったく対照的な2人の戦いになる。

民主党候補のヒラリー・クリントン氏は政治経験が豊かだ。女性を政界の頂点から阻んできた「ガラスの天井」に挑む。

共和党候補ドナルド・トランプ氏は不動産業で名をなした実業家。政治の経歴が何もないことで改革の旗手を自認する。

目をこらすべきは、その異例の構図よりも政策の中身だろう。これまで指導者として理にかなう主張をしているのは明らかにクリントン氏である。

民主党大会での演説で強調したのは、米社会の融和だった。保守とリベラルの溝、富裕層と低中所得層の格差、人種間の緊張など様々な分断で揺れる米国にいま必要なのは、確かに国民の統合である。

移民についても比較的寛容な訴えや、国際社会との協働を重んじる点でも、クリントン氏の立場は評価に値する。国務長官として、アジア重視政策を主導したことも記憶に新しい。

テロや気候変動、租税回避の対策など、地球規模で取り組むべき課題が山積するいま、米国が同盟国との関係を重視するのは必然の流れでもある。

そうした国民融和と国際協調路線に反する主張が目立つのがトランプ氏である。相変わらず不法移民を阻む国境の壁建設や保護主義的な貿易を唱え、同盟国の負担増を求めている。

11月の投票に向けて論戦はこれからが本番だ。それぞれの公約が米国民の利益にどう資するのか、そして世界の安定にどう貢献するのか、理性的な論理とビジョンを語ってほしい。

両党とも、候補者選びが激戦になったことなどから、党内の結束に不安を抱える。だからといって、相手候補への攻撃心をあおって団結を演出するようでは政策論争は深まるまい。

両候補とも、自分の支持層だけを満足させる狭い政治ではなく、国民に広く目配りする包摂の政治をめざすべきだ。トランプ氏支持に走る白人労働者層の思いは何か。クリントン氏と競ったサンダース氏を支えた若者層の願いはどこにあるのか。

先進国に共通する低成長と財政難、格差拡大の問題に、簡単な解決策はない。だが、自国優先を連呼するのは、米国の国際的な威信を低下させるだけだ。

多極化の時代とはいえ、いまも世界の自由主義を引っ張る大国の矜持(きょうじ)を持ち続けられるかが問われている。「偉大な米国」を叫ぶならば、国際社会も認めるような米民主政治の価値を、この選挙戦で見せてほしい。

読売新聞 2016年07月31日

米大統領選 団結を求めたクリントン候補

米大統領選で、「米国第一主義」を唱える共和党のドナルド・トランプ氏と、国際協調や国民融和を訴える民主党のヒラリー・クリントン氏の立場の違いが鮮明になった。

民主党大会でクリントン前国務長官が大統領候補に指名され、本格的な選挙戦が始まった。

クリントン氏は指名受諾演説で「我々はより完全な国になるための転換点に達した」と述べ、主要政党として初の女性大統領候補が生まれた意義を強調した。

重要なのは、クリントン氏が「米国は世界の同盟国と協力した時、より強くなる」と語り、同盟強化を打ち出したことである。

クリントン氏は国務長官時代に、アジア重視政策を推進した。沖縄県の尖閣諸島が、米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約5条の適用対象であることを政権内でいち早く明言していた。

陣営にキャンベル前国務次官補ら知日派が少なくないことも、日本にとっては心強い材料だ。

クリントン氏は演説で、環太平洋経済連携協定(TPP)には直接言及せず、「不公正な貿易協定」への反対を表明するだけにとどめた。TPPに反発する党内左派に配慮しつつ、批准の余地を残したことは評価できる。

日本が国会の承認手続きを迅速に進め、米国が批准しやすい環境を整えることが欠かせない。

排他的な移民政策を掲げるトランプ氏に対し、クリントン氏は「世界や米国の分断を望んでいる」と非難した。「国民は堅実な指導者を求めている」と述べ、実行可能な政策をアピールした。

民主党大会では、オバマ大統領や、候補の座を激しく争ったバーニー・サンダース上院議員らが応援演説を行った。党内融和の演出には成功したと言えよう。

課題は、トランプ氏と同様、好感度が大統領候補として記録的に低いことだ。長官在任中、国務省の規定に反し、私用メールアドレスで機密情報を扱った。司法当局は立件を見送ったが、「極めて不注意だった」と指摘した。

発覚当初、十分な説明も謝罪も拒んだことが、「信用できない」という国民感情につながっているのではないか。

大統領夫人や上院議員も務めたクリントン氏は、サンダース氏を支持する若者らから、「既存の支配層の象徴」と目されてきた。

選挙戦では、「反トランプ」を主張するだけでなく、現状に不満を抱く人々の支持を得なければ、国全体の団結も実現できまい。

産経新聞 2016年07月30日

米大統領選 分断克服する指導力示せ

米民主党大会でクリントン前国務長官が大統領候補の指名受諾演説を行い、「一緒ならもっと強くなれる」と国民に団結を訴えた。

すでに共和党候補となったトランプ氏も、副大統領候補にインディアナ州知事のペンス氏を選んだ際に「党の団結」を呼びかけている。

本格的な選挙戦を始める両候補に問われるのは、共に口にする団結によって、何を実現したいのかである。とりわけ聞きたいのは、世界の中で米国が自らをどう位置付けるかだ。

「強い米国」として、いかなる道を歩もうとするのかを、明確に示してもらいたい。

団結が「強い米国」の源泉であることは疑いない。軍事力を背景に現状変更を図る中国などと対峙(たいじ)し、テロとの戦いを継続していくには、超大国としての力を米国が維持することが欠かせない。

むろんそれは、日本をはじめ自由と民主主義の価値観を共有する国々の国益にも直結する。

クリントン氏は演説で「打ち勝たなければならない敵がいる」と述べ、過激組織「イスラム国」(IS)などによるテロとの戦いに取り組む姿勢を示した。

自国のみならず、国際社会の平和と安全を守る姿勢を示したものと受け止めたい。その具体的な手立てをさらに語るべきだ。

産経新聞 2016年07月28日

クリントン氏指名 同盟強化の具体論を語れ

米民主党大会でクリントン前国務長官が大統領候補に指名された。注目したいのは、大会で採択された政策綱領に日本など同盟国との関係強化が盛られた点である。

共和党候補のトランプ氏が駐留米軍の負担増を求めるなど、同盟国との関係見直しに動こうとしていることと、対極をなすものといえよう。

日本の国益にも合致するもので評価したい。同盟国との関係強化を、現実にどのように進めていくか。クリントン氏には指名受諾演説で明快に語ってほしい。

綱領は、地球規模の同盟のネットワークは「戦略的優位性の源泉」であり、米国の国益に直結しているとの立場を示した。

とくに、日本との関係について「(同盟としての)歴史的責務を果たす」と重要性を強調した。

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