南シナ海のほぼ全域に主権が及ぶという独善的な主張を否定した仲裁裁判所の判決を拒否し続ける。そんな中国の横暴は決して許されまい。
日米中や東南アジアなどによる東アジア首脳会議(EAS)と東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)の外相会議が開かれた。
中国が南シナ海で軍事拠点化を進める問題について、ケリー米国務長官は、「仲裁の結果には法的拘束力がある」と述べ、中国に判決を尊重するよう要求した。
岸田外相も、「仲裁裁判に紛争当事国が従うことで、問題の解決につながる」と強調した。
日米など関係国が結束して、中国に判決の順守を促し続けることが肝要である。
看過できないのは、中国の王毅外相が岸田外相との会談で、「日本は南シナ海問題の当事国ではない」などと強弁し、言行を慎むよう求めたことだ。
「法の支配」に基づく南シナ海の秩序維持と航行の自由の確保は国際社会共通の利益にほかならない。王氏の主張は筋違いだ。
中国は判決後、フィリピンに近い南シナ海のスカボロー礁付近で新型爆撃機の巡視飛行を実施したと発表した。今後は常態化させるという。人工島の施設建設を続ける方針も示している。一連の行動は緊張を高めるだけだ。
EAS外相会議に先立ち、ASEAN外相会議は共同声明で、南シナ海の現状に対し、「深刻な懸念」を表明した。判決に直接言及しなかったのは、中国から大規模な経済支援を受けているカンボジアが強硬に反対したためだ。
王氏は、フィリピンを念頭に、「会議で仲裁裁判に触れたのは1か国だけだ」と語った。判決で外交上の大敗北を喫した習近平政権はASEANを切り崩し、巻き返しを図ったつもりなのだろう。
判決を棚上げしたまま、政権交代したばかりのフィリピンを懐柔して対話に持ち込む。こんな筋書きも描いているのではないか。
王氏は、南シナ海での関係国の行動を法的に拘束する行動規範について、来年上半期までに策定を完了する目標を明らかにした。これまでASEANとの協議では、中国の消極姿勢が障害だった。
時期の明示には、ASEAN側の批判をかわす狙いがあろう。国際法を蔑ろにする中国が国際ルールの策定に真摯に取り組むとは思えない。関係国は、行動規範の実効性を高めるよう対中圧力を強めるべきである。
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