障害者19人殺害 まずは不可解な動機の解明だ

朝日新聞 2016年07月27日

相模原の事件 犯行生んだ闇の解明を

障害を抱える老若男女が静かに暮らす施設で、身の震えるような事件がおきた。

相模原市できのうの未明、26歳の男が施設に押し入り、知的障害者ら19人の命が奪われ、多くの人が負傷した。

その経緯から浮かび上がるのは、強烈な殺意と、不気味に冷静な計画性である。犯罪史上でも特筆される異様な事件だ。

複数の刃物を準備し、ハンマーで窓を割って侵入。職員を結束バンドで縛り、寝ていた入所者を次々に切りつけた。そして警察に出頭した。

男は今年2月ごろ、「障害者が生きているのは無駄だ」と書いたビラを施設の近くでまき、保護者の同意で安楽死させられるように求める手紙を衆院議長公邸に持参していた。

どんな事情であれ、障害者に対する危険な偏見は断じて容認できない。事件はどんな経緯で起きたのか。捜査当局は徹底した解明を進めてほしい。

事件を不可解にさせるのは、男がこの施設で3年以上も働いていたという事実だ。

施設では、10~70代の149人が共同生活を送り、160人を超える職員が働いている。

日常の世話を通じて障害者らと親密に接し、家族や関係者らとも交流があったはずだ。その経験を積んだ男が「障害者」を狙い撃ちしたとすれば、なぜなのか、事件の闇は深い。

男の言動について連絡を受けた市は2月、精神保健福祉法にもとづいて、男が自分や他人を傷つける恐れがあるとして措置入院させていた。12日後には入院の必要はなくなったと診断され、退院したという。

措置入院は、本人や家族の同意と関係なく、行政が強制的に命じるものだ。必要以上に長びかせれば重大な人権侵害につながる。

ただ、入院の直前に議長公邸に持参した手紙で、男は犯行を「予告」していた。その中に記されている手口は、今回の事件で起きたことに重なる。

退院時には、家族と同居する約束になっていたが、実際にはどうだったのか。男の治療と見守りは十分だったのか。本人と家族への支援体制や、医療と警察との連携などについて、綿密に検証する必要がある。

男は4、5年前には教員を目指しており、教育実習先の学校では子どもたちから慕われていたという。穏やかな人柄とみられた若者が一転、犯行に走った背景に何があったのか。

現代社会のありようも含めた広い視点から今後の捜査を見つめ、考えるほかない。

読売新聞 2016年07月27日

障害者19人殺害 まずは不可解な動機の解明だ

犯罪史に残る凄惨せいさんな事件である。

神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」に刃物を持った男が侵入し、入所者らを次々と襲った。19~70歳の男女19人が死亡し、重軽傷者も26人に上った。

就寝中の入所者を狙った未明の凶行だった。突然、刃物を突き立てられた入所者の恐怖と苦痛は、いかばかりだったか。

施設の元職員の男が、県警津久井署に出頭し、殺人未遂容疑などで緊急逮捕された。男は容疑を認め、県警は殺人容疑に切り替えて取り調べる。所持する複数の刃物に血が付着していた。

ハンマーで窓ガラスを割って侵入し、夜勤職員を結束バンドで縛って犯行に及んだ可能性がある。周到な計画性がうかがえる。

不可解なのは、動機である。男は取り調べに、「障害者なんていなくなればいい」という趣旨の供述をしているという。

予兆はあった。男は2月14日と15日、夜間の犯行を予告するような手紙を東京の衆院議長公邸に持参し、警視庁が津久井署に対応を引き継いでいた。

男が「重度障害者の殺人はいつでも実行する」と話したため、津久井署は相模原市に通報した。

市は「自傷他害の恐れがある」として2月19日、緊急措置入院を命じ、男はこの日、3年余り勤めた施設を自主退職した。在職時にも、障害者を冒涜ぼうとくするような発言があったという。退職に至った経緯が動機解明のカギとなろう。

入院時の検査では、大麻の薬物反応も確認されたが、市は3月2日、「症状がなくなった」とする病院の診断に基づき、男を退院させた。この判断と、その後の対応について検証が不可欠だ。

これほどの重大な殺傷事件を許したことは、社会にとって痛恨事である。事件を受け、安倍首相は「真相究明に政府としても全力を挙げていく」と強調した。

菅官房長官は、厚生労働省を中心に、関係省庁間で再発防止策を検討する方針を示した。そのためには、神奈川県警が事件の全容を解明することが前提となる。

福祉施設の防犯態勢の再点検も進めるべきだ。利用者にとって使いやすい開放的な構造が、防犯上の盲点となっているケースなどはないか。施設管理者は確認を急ぎ、改善に努めてもらいたい。

地域住民の理解なしに、福祉施設は成り立たない。施設が地域から孤立しないためにも、事件の再発防止を徹底せねばならない。

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