露ドーピング IOCはなぜ自ら判断しない

朝日新聞 2016年07月26日

ドーピング 決意が問われるIOC

リオデジャネイロ五輪からのロシア選手の全面的な締め出しが回避された。禁止薬物に手を染めていない選手は、一定条件を満たせば参加できる。

国ぐるみのドーピングの責任を、個々の潔白な選手全員にも負わせるのは理不尽の感が否めない。ロシア選手に参加の道が開かれたことは理解できる。

しかし、国際オリンピック委員会(IOC)の決定のあり方には、大きな問題が残った。

IOCは参加の条件として、国外の機関による検査結果の提出や、抜き打ち検査などを挙げた。判断は、それぞれの国際競技団体に委ねるという。

今後の対応は団体ごとにばらばらになるだろう。陸上競技はすでにチームとしてのロシア参加の道を閉ざしている。同様の姿勢を探る団体がある一方で、テニスではすでに出場を認める方針が発表された。

これで競技間の公平が担保されるのか。もっと統一的な対応をとらなかったのは、世界最大の祭典の統括組織としての責任を放棄したといっていい。

さらに疑問なのは、不正にかかわったと思われるロシア・オリンピック委員会に明確な処分を科していない点だ。個々の選手らは救済されるべきだが、不正関与の疑いが濃厚な関係組織は調査し、責任を問うのが当然の対応ではないか。

背景に大国ロシアへの政治的ともいえる配慮があったとしたら、それは認められない。

国際スポーツ界でのロシアの存在は大きい。財政難に苦しむ国が多い中、今も積極的に国際大会を誘致し、有力選手を多く抱える。結果としてスポンサーを引き寄せる力を持つ。

今回の結論がこうしたロシアの影響力を考慮し、目先の利益にこだわったものだとしたら、将来に向けてスポーツの本質的な価値を損なうことになる。

ロシアへの非難は今回の決定を経て何ら変わることはない。問題の解明や再発防止の体制づくりをただちに進め、関与したすべての国家幹部の処分などを急がねばならない。

国際的な薬物問題の蔓延(まんえん)は深刻だ。IOCが過去に取り置いた検体を再検査したら、08年北京と12年ロンドンの二つの五輪で98人が陽性となった。最近発表された45人分では、北京での不正選手は8カ国・地域、ロンドンでは9カ国・地域に及ぶ。

ドーピングは競技を不公平にするだけでなく、人間の健康もむしばみ、スポーツの根源的な意義を損ねる。その重大な問題と闘う決意が、IOCと各国の傘下団体に求められている。

読売新聞 2016年07月26日

露ドーピング IOCはなぜ自ら判断しない

五輪をつかさどる組織が、なぜ自ら判断を下さないのか。解せない結論だ。

国際オリンピック委員会(IOC)が、国ぐるみのドーピングで揺れるロシアの選手団を、8月のリオデジャネイロ五輪から全面排除することを回避した。

ロシア選手の出場の可否は、各競技の国際連盟(IF)が、信頼できる国際的機関のドーピング検査結果を基に見極める。IFに判断を丸投げしただけだ。

IOCは、五輪で主要な位置を占めるロシアとの全面衝突を避けたのだろう。弱腰の対応と批判されても仕方がない。

ロシアのドーピング汚染は、問題の発端となった陸上競技だけでなく、広範な競技に及んでいることが判明している。

世界反ドーピング機関(WADA)の調査チームは、2014年ソチ冬季五輪を含む11年から15年にかけて、ロシア政府がドーピングを主導していたと認定した。

中には、ドーピングと無縁の選手もいるかもしれない。不正を犯した証拠がない選手の権利を尊重するのか、連帯責任を負わせるのか。IOCのバッハ会長は「決断を下すのは、大変な任務だった」と釈明している。

政府が先頭に立って、スポーツの根幹である公正性をないがしろにしていた以上、国ごとリオ五輪から排除するという選択肢をもっと検討してもよかったのではないか。

WADAの調査結果に列挙された実態は、常軌を逸している。

ドーピングをしたロシア選手の尿検体が、事前に採取して保存しておいた陰性の尿とすり替えられていた。関与したのは、連邦保安局(FSB)の職員らだった。扮装ふんそうして夜間、検査機関に忍び込み、不正工作をしていた。

プーチン大統領が起用したスポーツ省の次官が、どの選手の不正を隠蔽するかを決めていた。

10年バンクーバー冬季五輪で、ロシアの金メダルが3個と低迷したことから、組織的な隠蔽システムが作られたという。

自国開催のソチ五輪の金メダルは13個に急増した。国威発揚のため、薬物の力を借りてメダルを奪取したとみるのが自然だろう。

リオ五輪の開幕まで2週間足らずだ。最悪の事態を免れたロシアのムトコ・スポーツ相は「多くの選手が基準を満たすと確信している」と強気の姿勢をみせる。

競技ごとに、ばらつきのない厳正な判断が、果たしてできるのだろうか。IOCには、混乱を生じさせない重い責任がある。

産経新聞 2016年07月26日

ロシア除外見送り 五輪は瀕死の危機にある IOCの判断は責任放棄だ

国際オリンピック委員会(IOC)の誤った判断により、スポーツと五輪は、瀕死(ひんし)の危機に陥る。再生は容易でない。

IOCは電話による緊急理事会を開き、国ぐるみのドーピング違反が認定されたロシアの選手団について、リオデジャネイロ五輪からの全面除外は見送ることを決めた。出場の可否は、各国際競技連盟(IF)に委ねる。

世界反ドーピング機関(WADA)はIOCに対し、リオ五輪からロシアを全面的に除外するよう勧告していた。

これはいわば、IOCによる、責任放棄の丸投げである。

≪そこに「勝者」はいない≫

ドーピングの問題は、スポーツの根幹に関わる。公平、公正が保証されず、不正を行った者に果実が与えられれば、いかなる競技も何ら価値を持たない。

クリーンな選手の権利が著しく損なわれるばかりか、ドーピングに身を委ねた選手は生命の危険を伴う。しかもWADAの調査チームによれば、ロシアの不正は国家機関の主導による組織的なものである。スポーツと五輪の信頼と価値を守るため、IOCは厳しい決定を選択すべきだった。

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