五輪を司る組織が、なぜ自ら判断を下さないのか。解せない結論だ。
国際オリンピック委員会(IOC)が、国ぐるみのドーピングで揺れるロシアの選手団を、8月のリオデジャネイロ五輪から全面排除することを回避した。
ロシア選手の出場の可否は、各競技の国際連盟(IF)が、信頼できる国際的機関のドーピング検査結果を基に見極める。IFに判断を丸投げしただけだ。
IOCは、五輪で主要な位置を占めるロシアとの全面衝突を避けたのだろう。弱腰の対応と批判されても仕方がない。
ロシアのドーピング汚染は、問題の発端となった陸上競技だけでなく、広範な競技に及んでいることが判明している。
世界反ドーピング機関(WADA)の調査チームは、2014年ソチ冬季五輪を含む11年から15年にかけて、ロシア政府がドーピングを主導していたと認定した。
中には、ドーピングと無縁の選手もいるかもしれない。不正を犯した証拠がない選手の権利を尊重するのか、連帯責任を負わせるのか。IOCのバッハ会長は「決断を下すのは、大変な任務だった」と釈明している。
政府が先頭に立って、スポーツの根幹である公正性を蔑ろにしていた以上、国ごとリオ五輪から排除するという選択肢をもっと検討してもよかったのではないか。
WADAの調査結果に列挙された実態は、常軌を逸している。
ドーピングをしたロシア選手の尿検体が、事前に採取して保存しておいた陰性の尿とすり替えられていた。関与したのは、連邦保安局(FSB)の職員らだった。扮装して夜間、検査機関に忍び込み、不正工作をしていた。
プーチン大統領が起用したスポーツ省の次官が、どの選手の不正を隠蔽するかを決めていた。
10年バンクーバー冬季五輪で、ロシアの金メダルが3個と低迷したことから、組織的な隠蔽システムが作られたという。
自国開催のソチ五輪の金メダルは13個に急増した。国威発揚のため、薬物の力を借りてメダルを奪取したとみるのが自然だろう。
リオ五輪の開幕まで2週間足らずだ。最悪の事態を免れたロシアのムトコ・スポーツ相は「多くの選手が基準を満たすと確信している」と強気の姿勢をみせる。
競技ごとに、ばらつきのない厳正な判断が、果たしてできるのだろうか。IOCには、混乱を生じさせない重い責任がある。
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