G20と経済安定 構造改革でリスクに備えよ

朝日新聞 2016年07月25日

税逃れ対策 各国トップが旗を振れ

できるだけ多くの国と地域が歩調を合わせ、包囲網を狭めていく。国境をまたぐ脱税や過度な節税、資金洗浄への対策はこれにつきると言っていい。

中国で開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、世界経済の分析と対策を巡る協議に加え、税逃れの問題で協力的でない地域を特定するための基準を承認した。

金融口座の情報を他国と自動的に交換することを2018年までに始めるかなど、複数の項目で判断する。将来は「ブラックリスト」をつくり、制裁措置をとることも視野に入れる。

一歩前進ではあるが、課題はなお山積している。租税回避地(タックスヘイブン)に設けられたペーパーカンパニーの実質的な所有者を割り出し、情報を交換する仕組みづくりは緒についたばかりだ。

多国籍企業などによる過度な節税に対抗しようと、経済協力開発機構(OECD)が昨年まとめた15分野の対策も、参加国を当初の40余から100程度へ増やす途上にある。

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が伝えたパナマ文書は、富裕層や企業がタックスヘイブンで蓄財にいそしむ実態をうかがわせた。一部の国の指導者や親族らの名も登場し、納税者の怒りを買った。

課税する側の各国・地域のリーダーが襟を正し、課税逃れを許さないという旗を振り続けることが大切だ。一連の具体策が成果を生み、取り組みにはずみをつけられるかどうかは、指導者らの姿勢にかかっている。

税逃れ対策に熱心だったのは英国のキャメロン前首相だ。厳しい財政再建を進めたなかで、スターバックスなどグローバル企業が英国での納税を巧妙に逃れてきた実態がわかった。国民の反発を追い風にして議論を主導した。

そのキャメロン氏も、タックスヘイブンでの亡父の資産運用がパナマ文書で判明して批判にさらされ、英国の欧州連合離脱問題で退陣に追い込まれた。

だが、税逃れ対策を停滞させるわけにはいかない。率先してきた英国の政治情勢が不透明になっただけに、9月のG20首脳会議などで改めて国際的な決意を示してはどうか。

財政難、経済格差、大企業や既得権益への国民の不満。これらは多くの国に共通しており、とりわけ税の不公平感の高まりは社会の安定もむしばむ。

税を公正に集め、国民のために有効に使う。財政運営に国民の信頼を得る。その起点となるのが税逃れ対策の徹底である。

読売新聞 2016年07月25日

G20と経済安定 構造改革でリスクに備えよ

世界経済を安定基調に乗せるには、経済基盤をより強固にするための構造改革が、各国に求められている。

主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が中国で開かれた。

共同声明は、英国の欧州連合(EU)離脱決定で「世界経済の不確実性が増している」と指摘した。「将来的に、英国がEUの緊密なパートナーであることを期待する」とも強調した。

ハモンド英財務相は、麻生財務相ら各国代表と会談し、離脱への道筋などについて意見交換した。世界経済への悪影響を抑えるには、情報開示に努め、離脱交渉を円滑に進めることが重要だ。

金融市場は、英国民投票後に乱高下した為替や株式の相場が、おおむね投票前の水準に戻った。

しかし、国際紛争や頻発するテロなど、世界経済が直面する脅威はむしろ増している。

国際通貨基金(IMF)は今月、今年と来年の世界の経済成長率見通しを引き下げた。不確実性の高まりで、消費や投資が減速するとみているためだ。

G20が、必要に応じて金融、財政、構造改革の政策手段を総動員することを改めて確認したのは、妥当である。

中でも、安定成長のためには、民間の活動を促して潜在成長力を高める構造改革がカギを握る。

規制緩和や、労働市場改革、成長分野の投資促進などで生産性を高める。賃金増を消費拡大につなげる。日本も、こうした改革を着実に進める必要がある。

共同声明は、中国鉄鋼の過剰生産問題で、市場をゆがめる政府補助金に「注目を必要とする」と懸念を示した。中国は不採算な国営企業の改革を進めねばならない。

雇用の確保などを名目にした保護主義の台頭も、世界経済の大きなリスクである。英国のEU離脱決定は、内向き志向の表れだ。

米大統領選の共和党候補となったトランプ氏は「米国第一」を訴え、日米など12か国が合意した環太平洋経済連携協定(TPP)を全面否定している。

G20会議では、自由貿易による互恵主義を揺るがす動きを警戒する声が相次いだ。共同声明が「あらゆる形態の保護主義に対抗する」と明記したのは当然だ。

日本は、秋の臨時国会で速やかにTPPの承認や関連法案の成立を図り、米議会の承認に弾みをつけたい。TPP発効は、日EUの経済連携協定(EPA)交渉の前進にもつながろう。

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