高齢者施設火災 惨事をいつまで繰り返すのか

毎日新聞 2010年03月14日

介護施設火災 悲劇防ぐ手立て早急に

亡くなったお年寄りの無念さと高齢化社会の行く末を思うと暗たんたる気持ちになる。

札幌市の認知症高齢者グループホームで火災が起き、60~90歳代の7人の命が奪われた。

ほぼ1年前の昨年3月、群馬県渋川市の老人施設「静養ホームたまゆら」で10人が亡くなる火災が起きたのも記憶に新しい。夜間の発生で施設にいた職員は1人だけ。スプリンクラーの設置もなかった点など驚くほど共通点が多い。

たまゆらの教訓がなぜ生かされなかったのか。施設関係者はもちろんだが、行政も深刻に受け止めねばならない。

北国である。24時間稼働していた石油ストーブ付近が火元とみられている。警察と消防は、出火原因はもちろん、施設の防火体制や避難誘導に問題がなかったかなどを徹底的に調べる必要がある。

施設は、市の認可を受けて05年12月にオープンした。消防法で年1回義務付けられている消火器、誘導灯などの点検報告は翌年しただけで、市消防局から2回も是正勧告を受けていた。火災原因として、ストーブの近くに干してあった洗濯物に引火した可能性も指摘される。

火災への認識が甘く、ずさんと言うほかない。施設の責任者の管理責任がまず問われよう。

だが、今回の火災は高齢者施設での防火体制のあり方に根本的な問題を投げかけている。

適切な避難誘導は大切だが、大量の散水で一気に消火が可能なスプリンクラーの設置は、多くの人が集まるこのような施設で最も有効だ。

06年1月に長崎県大村市のグループホームで7人が死亡した火災を受け、スプリンクラーの設置が義務付けられる福祉施設の基準が拡大された。今回の施設は、新基準に照らしても設置義務はない。

義務付けられている施設はもちろん、そうでない施設でも設置が望ましいことを悲劇は示す。

だが、多くの施設が財政的に苦しい中で、それは容易ではない。10年前全国で270カ所だったグループホームは、現在1万カ所近くまで急増している。高齢化社会を見据え、行政が財政的な補助や助成をすることを早急に検討すべきだろう。

また、消防法改正で、自動火災報知機や119番への自動通報装置の設置が義務付けられたが、12年3月まで猶予期間があるため、未設置だった。期間の前倒しを含め、スピーディーな対応を求めたい。

非常時の地域との連携も大切だ。特に夜の火災が多いことを踏まえ、近隣住民と夜間に避難訓練を実施するなど、工夫を重ねてほしい。

読売新聞 2010年03月14日

高齢者施設火災 惨事をいつまで繰り返すのか

またも高齢者施設の火災で、大勢のお年寄りが犠牲になった。このような惨事が何度繰り返されるのだろうか。

13日未明、札幌市にある認知症高齢者のグループホーム「みらいとんでん」から出火し、60~90代の入居者7人が亡くなった。当直の職員はストーブから火が出たと話している。

入居していた高齢者は中程度から重度の認知症があり、自分の力では避難はできなかった。1階から2階へ吹き抜けになっている共用の居間に石油ストーブがあり、そこからの火が短時間で施設全体に広がったらしい。

施設は消防法で定められた消防計画を提出せず、指導を受けていたという。この点を含め、惨事を招いた原因はどこにあるのか、検証が必要である。

グループホームとは少人数の入居者が個室を持ちながら共同生活をする施設で、食事などの日常的な世話をする職員がいる。

大規模な施設に比べて家庭的な雰囲気で生活でき、認知症の進行を遅らせる効果もあるとされるため、同様の施設は急増中だ。

厚生労働省の2008年調査では全国に約9300施設があり、13万人以上が暮らしている。どこでも同じ惨事が起こりうる。

「みらいとんでん」には日中は3~4人の職員がいたものの、夜は1人だけだった。これは特別なことではない。入居者9人までは当直1人でよい、というのが厚労省の基準である。

今回、当直が複数いても惨事を防げたかどうかは分からない。だが、認知症高齢者の施設で夜に職員1人では、火事が起きたらもう仕方がない、というに等しい。

06年にも長崎県で、認知症のグループホームで未明の火災が発生し、やはり7人が死亡した。この時も当直職員1人では、なすすべがなかった。

長崎の惨事が280平方メートルの施設で起きたことで、スプリンクラーの設置を義務づける基準が1000平方メートル以上から275平方メートル以上に強化された。だが「みらいとんでん」は250平方メートルで対象外だった。基準は面積より入居実態に応じて考慮すべきだろう。

昨年も群馬県の無届け老人ホーム「たまゆら」の火災で、10人の高齢者が亡くなっている。

相次ぐ惨事の背景を突き詰めれば、「介護全体の手薄さ」が浮かび上がる。今の介護報酬で十分な人材を確保し、万全の安全対策を取ることは難しい。仕組みや財源から見直す必要があろう。

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