トランプ氏演説 偉大な米国につながるか

朝日新聞 2016年07月23日

トランプ候補 米国を孤立させるのか

これが世界の安定と発展に大きな責任を担う国の指導者にふさわしい演説だろうか。

米共和党の大統領候補に指名されたドナルド・トランプ氏が受諾演説をした。世界が「不安定化」し、米国もすっかり「安全」を失ったと強調した。

偉大な米国を取り戻すという訴えは近年の大統領選の決まり文句だが、トランプ氏の「米国第一主義」は異例ずくめだ。

自由貿易を推進してきた党の立場を覆し、保護主義的な貿易政策を唱えている。不法移民を阻む国境の壁の建設や、テロを許した国からの移民停止を主張し、貿易だけでなく人の流れも制限しようとしている。

世界の秩序が流動化しているのは確かだが、その危機感を理由に国ごと殻に閉じこもろうというのは、あまりに時代錯誤的な孤立主義というしかない。

二大政党の党大会は、選挙に向けて党内の結束を固めると同時に、候補者が描く国の将来像を示す場でもある。過激なトランプ氏も正式な候補になれば、現実的な政策に転じると考えた国民も多かったはずだが、それも期待はずれに終わった。

豊かで強い米国の地位は、国の門戸を大きく開いて築かれたものだ。自由と機会を看板に、人材と富を世界から受け入れた歴史の上に成り立っている。つまり米国こそがグローバル化の世界最大の受益者なのだ。

にもかかわらず、グローバル化の負の面ばかりを説き、国を閉じればすべての難題が解決するかのような幻想を振りまく政治手法は、ポピュリズムのそしりを免れまい。かえって国益を損ねる可能性がある英国の欧州連合離脱と同じ構図だ。

さらに憂慮されるのが、トランプ氏が同盟関係の意義に理解を示さないことだ。演説で「米国が防衛する国々に相応の負担を求める」と述べ、米紙には「他国にかかわるより、わが国を第一に考える」と語った。

日本や欧州などの同盟国との協力関係を米国が軽んじれば、世界の安保環境は激変する。強国が力任せに周辺国を脅かしたり、独裁政権が人権を侵害したりする行為が各地で続く今、同盟国が結束して危機を封じる意義はむしろ増している。

テロの拡散や難民の流出を防ぐための紛争解決や、経済危機の連鎖を止めるための国際協調などの大切さを考えれば、米国といえども、もはや一国主義に閉じこもる余裕はない。

偏狭な「米国第一主義」は、米国にも世界にも利益をもたらさないことを、共和党候補トランプ氏は学ぶべきである。

産経新聞 2016年07月23日

トランプ氏演説 偉大な米国につながるか

米共和党の大統領候補となった実業家トランプ氏は党大会での指名受諾演説で「米国を再び偉大にする」と強調した。

「米国第一主義」を掲げたトランプ氏は、米軍を立て直すため同盟国にさらなる負担を求め、米製造業の壊滅につながるとする環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は拒否するという。

米国が「世界の警察官」の役割を弱める間隙(かんげき)を突き、中国やロシアは力による現状変更を進め、暴力的過激主義が蔓延(まんえん)した。「偉大な米国」に異存はない。実際に強い米国が復活するなら歓迎だ。

問題は、トランプ氏の政策でそれが実現するのかという点だ。

トランプ氏は、米国が巨額の経費を使って一方的に同盟国を防衛していると主張し、「負担増に応じなければ駐留米軍の撤退を検討する」と語るが、認識そのものが誤りだ。

米軍の海外展開は世界戦略の一環であり、南シナ海など重要な海上交通路(シーレーン)の航行の自由を守ることは米国の安全保障に直結している。

自由貿易は戦後の米国の繁栄の基礎であり、共和党本来の考え方ではなかったか。TPPは、覇権主義を強める中国ではなく日米が中心となり地域の新たな経済秩序を構築することに意義がある。

民主主義と自由貿易を掲げる国同士が結ぶ重層的な同盟関係が国際社会を安定させ、それが米国の国益も支えていることを忘れてはならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2558/