トルコ非常事態 ここまでの粛清が必要なのか

朝日新聞 2016年07月22日

トルコの事件 法の支配に沿う対応を

軍事力による政変は免れた。だが、代わりに現政権が独裁への道を突き進むかのようだ。

トルコ政府が、先週のクーデター未遂事件に絡んで「反乱」勢力の一斉排除に乗りだした。

拘束されたり、解任・資格剥奪(はくだつ)されたりした公職者は約6万人。軍、警察関係者から裁判官、大学学長、教師にまで及ぶ。多くのテレビ局やラジオ局の免許も取り消された。

エルドアン政権は米国在住のイスラム教指導者ギュレン師を反乱の首謀者とし、その支持者を「テロリスト」と呼んで「根絶やしにする」と宣言した。

民主的に選ばれた政権を暴力で倒す企ては重大な犯罪であり、全容の解明と責任者の訴追が進められるのは当然だ。ただし、それはあくまで法の支配の枠内で手続きをとることが民主国家の原則である。

トルコ政府は、ギュレン師やその支持者らが事件にどう関わったのか明らかにしていない。既定の司法ルールではなく、政治的な判断で大量の公職者らが拘束や処分されているとすれば、ゆゆしい事態である。

ギュレン師は世俗主義とイスラム教は共存できるとする穏健な思想を説き、トルコ知識人の支持者も少なくない。

イスラム主義色を強める現政権に、たとえ彼らが批判的だとしても、十分な証拠に基づかないまま強引に弾圧するのであれば、それは不当な粛清だ。

エルドアン大統領は、02年に廃止した死刑制度を復活させる可能性にも言及した。さらに非常事態を宣言したことで、強権的な手法に拍車がかかるのではとの懸念も広がっている。

強権政治の行きつく先はトルコ社会の分断だ。穏健派も厳しい弾圧を受ければ過激化しかねない。発展を遂げて、多くの日本や欧米企業が進出した経済の先行きも危ぶまれている。

トルコの社会や経済が不安定化すれば、隣国のシリアやイラクで活動する過激派組織「イスラム国」(IS)につけこまれる隙はますます広がる。

オバマ米大統領は「(事件の解明は)法手続きに沿って行ってほしい」と注文し、欧州連合(EU)は「死刑を復活したらトルコはEUに加盟できない」と、くぎを刺した。

エルドアン政権は、トルコの国際的な信頼を維持するためにも、法治の原則を見失わずにいてもらいたい。

トルコは親日国家として知られ、安倍首相とエルドアン氏の個人的な関係も良好だ。自制するよう日本政府も影響力を発揮してほしい。

読売新聞 2016年07月22日

トルコ非常事態 ここまでの粛清が必要なのか

欧州と中東を結ぶ地域大国のトルコが不安定化すれば、シリア内戦や難民問題、テロへの対処に悪影響が及ぶ。

軍の一部によるクーデター未遂事件を政治的に利用して、社会の亀裂を深める事態は避けねばなるまい。

トルコのエルドアン大統領が、3か月間の非常事態を宣言した。「クーデターの試みに関与したテロ分子全員を早急に取り除くためだ」という。国民の権利の大幅な制限が可能になり、強権統治が一段とエスカレートしよう。

政権はすでに、事件に関与した疑いで軍幹部や裁判官ら数千人を拘束している。解任・停職処分を受けた警察官、公務員、教員を含めた総数は6万人に達する。テレビ・ラジオ24局の放送免許を剥奪し、言論統制も強めた。

エルドアン氏は、政敵である米国在住のイスラム教指導者ギュレン師を「事件の黒幕」と指弾する。学校を開設して教えを広める「ギュレン運動」は、各界に浸透し、支持者は数百万人とされる。

ギュレン師は関わりを否定するが、政権側は米国に引き渡しを要求している。ギュレン派を大量粛清するのは、「魔女狩り」と非難されても仕方あるまい。

エルドアン氏は首相から大統領に転じ、13年間、国を率いている。反対派を一掃して、大統領権限の強化に向けた憲法改正の動きを加速させたいのだろう。

エルドアン氏の呼びかけに応じて、多くの国民が街頭に繰り出し、反乱軍の企てを阻止した。民主主義を守るために身をていした者もいた。クーデターを鎮圧しても、締め付けを強めるだけでは、支持者が離れていくのではないか。

オバマ米大統領がエルドアン氏との電話会談で、法の支配の尊重を求めたのは当然である。欧州連合(EU)は、トルコが死刑制度を復活させた場合、EU加盟は不可能になると警告した。

懸念されるのは、軍と警察の混乱が長期化し、治安維持能力が低下することである。先月末には、最大都市イスタンブールの国際空港で大規模テロがあった。

過激派組織「イスラム国」掃討に向けた有志連合の作戦は、シリアとイラクの重要拠点奪還へ正念場を迎える。トルコの混迷は、国際連携にも打撃となろう。

トルコは親日国として知られ、安倍首相はエルドアン氏と信頼関係を築いてきた。原発や地下鉄の建設で進出する日本企業も現状を憂慮している。エルドアン氏には自制が求められよう。

産経新聞 2016年07月22日

トルコ非常事態 独裁の道を進むつもりか

軍の一部によるクーデター未遂事件の全容解明は必要だ。だが、政権の意に沿わない人たちに対する排除や弾圧の口実となるなら許されまい。

トルコのエルドアン大統領は3カ月の非常事態を宣言し、国会審議を経ずに法令を施行する権限を手にした。長期の拘束など国民の権利を制限することも可能になる。

当局はすでに7000人を超える軍人や司法関係者を拘束し、国家公務員だけで約5万人を解雇・停職処分にした。大学の学部長ら教育関係者や地方自治体の長まで含まれている。

あまりにも性急な動きとその規模は尋常ではない。ドイツなどは、非常事態宣言を早期に解除するよう求めた。

政権側は、米国に亡命中のイスラム教指導者、ギュレン師を事件の首謀者と断じ、同師の支持者排除が粛清の目的だと主張する。だが、イスラム色が強い公正発展党(AKP)政権に強く反発する世俗主義勢力にも弾圧が及んでいる実態はないか。

オバマ米大統領はエルドアン氏との電話協議で、「捜査と訴追は民主制と法手続きに対する信任に基づいて行われるべきだ」とクギをさした。当然の懸念である。

米欧各国は事件後、「民主的に選ばれた政府」への支持を表明したが、これはクーデターへの否定である。

産経新聞 2016年07月17日

クーデター未遂 トルコ情勢へ注視怠るな

トルコ軍の一部部隊がクーデターを試みたが未遂に終わり、エルドアン大統領は「反乱を鎮圧した」と宣言した。

言論弾圧など強権的な手法を取るエルドアン大統領への批判は根強い。そうした世論も背景に、反乱側は行動に出たのだろうが、民主主義の下で暴力的に政権が奪取される事態が回避されたことは、ひとまずよかった。

過激組織「イスラム国」(IS)などによるテロの頻発やシリア難民の流入で、トルコでは社会不安が高まっている。今回のクーデター未遂が、さらなる国内の混乱を招かないことを望みたい。

トルコでは、2002年に政権の座についたイスラム色の強い公正発展党(AKP)が経済成長などで実績を上げ、国民の支持を固めてきた。その中心にいたのが、首相も務めたエルドアン氏だ。

1923年に共和制を宣言したトルコは、近代化をめざすなかで厳格な「政教分離」を国是としてきた。長年、その「守護者」を任じてきたのがトルコ軍だった。

AKP政権はその政教分離を信仰抑圧と捉え、徐々にイスラム文化の規制緩和を進めるとともに、周到に軍の影響力をそぎ、文民統制を定着させてきた。

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