国民に親しまれている近代建築が世界に認められた。朗報である。
東京・上野公園の国立西洋美術館が、世界文化遺産に登録された。
トルコのイスタンブールで開催された国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会で決まった。クーデター未遂の影響で、審議が大幅に遅れた末の決定となった。
過去2回にわたる登録見送りを経て、念願がかなった。国内では16件目の文化遺産となる。
20世紀を代表するフランスの建築家、ル・コルビュジエの作品だ。日本をはじめ、仏独やアルゼンチンなど計7か国が共同推薦していた17点の一つである。
コルビュジエは近代建築の先駆者として名高い。コンクリートやガラスなど大量生産可能な建材を多用し、合理性や機能性を重視した。その設計思想は、時代の要請と合致していたと言えよう。
今回、文化遺産登録が決まったのも、グローバルに展開された建築文化が評価されたためだ。大陸をまたいでの登録は、世界文化遺産史上初めてのケースである。
西洋美術館は、東アジアで唯一の構成資産となった。実業家の松方幸次郎が戦前、フランスで収集した作品を収蔵・展示する目的で、1959年に建設された。
らせん状に回廊を配し、建物を外側に増築できるようにした「無限成長美術館」の発想に基づく。建物を支柱で持ち上げた構造も特徴だ。これらの意匠を箱型のフォルムに取り入れている。
コルビュジエの美術館建築の完成形とされる作品だけに、日本にとって大きな財産だ。
坂倉準三、前川国男ら著名な門下生を輩出したことで、コルビュジエは、日本の近代建築の礎になったとも言えるだろう。
世界の主な遺跡や歴史的建造物の文化遺産登録は、ほぼ終了している。今後は近現代の建築が対象になる可能性が高い。
64年の東京五輪会場として、丹下健三が設計した国立代々木第1体育館(東京都渋谷区)の登録を目指す運動も始まっている。
日本ではこれまで、近現代建築を文化財として保護しようという発想が乏しかった。今回の西洋美術館の登録を、近現代建築の価値を再認識する契機としたい。
上野公園には、美術館や博物館が集中する。2020年東京五輪に向け、この一帯を国際文化都市・東京の顔にしようという構想が進む。新たな世界遺産の誕生を五輪の盛り上げにも生かしたい。
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