国立西洋美術館 近代建築に光当てる遺産登録

朝日新聞 2016年07月24日

西洋美術館 20世紀の歴史語る遺産

これまでと趣の異なる世界遺産が誕生した。東京・上野の国立西洋美術館本館である。パリを拠点にした建築家ル・コルビュジエ(1887~1965)が手掛けた。

フランス、アルゼンチン、インドなど7カ国にある17作品の一つとして登録された。複数の大陸をまたぐ世界遺産は例がない。日本が他国と共同で推薦したのも初めてだった。

人類全体の宝を守るのが世界遺産の目的だ。しかし、ややもすると、自国の文化に国際的なお墨付きを得たいとの思いが強まり、考え方が内向きになるきらいがある。

それが今回は、各国の協力で登録に至ったのが意義深い。

ル・コルビュジエは、ヨーロッパ伝統の石やれんがの建物から離れ、コンクリート、鉄、ガラスを使って、工業化と都市化が進んだ時代にふさわしい、機能的で開放的な建築を目指した。その思想は国を超えて共有された。人や物、情報が世界を頻繁に行き交う20世紀の文化を象徴する「遺産」といえる。

日本の世界遺産としても異色である。

これまでの19件は寺社や城、屋久島、富士山などで、特別な価値や歴史を感じとりやすい。一方、西洋美術館本館は、1959年にできた鉄筋コンクリートの四角い建物。一目で格別の価値は分かりにくい。

だが、戸外に開かれた1階の空間「ピロティ」や、展示室が四角いらせん状に外に広がる構造などに込められた考えを知ると興味が深まるのではないか。ル・コルビュジエの影響を受けた日本の建築家は多い。そういう人たちの作品にも関心を広げると、日常目にする建築の見え方が変わるかもしれない。

一歩踏み込んで知り、考えることを促す。新しい世界遺産はそんな「宝」といえそうだ。

西洋美術館はすでに、資料や解説などで建物の魅力を伝える取り組みをしているが、これを機にさらに拡充してほしい。

建物の成り立ちにも目を向けよう。

第1次大戦で利益を得た経済人、松方幸次郎は、日本の人たちに見せたいとヨーロッパの美術品を集めた。多くは散逸・焼失してしまったが、パリにあった約400点は第2次大戦中に敵国人財産としてフランス政府の管理下に置かれた。それが戦後、日本に寄贈返還され、展示のためにつくられたのが、この美術館だ。

二つの世界大戦、国を超えた理解と交流。美術館が語る20世紀の歴史にも耳をすませたい。

読売新聞 2016年07月20日

国立西洋美術館 近代建築に光当てる遺産登録

国民に親しまれている近代建築が世界に認められた。朗報である。

東京・上野公園の国立西洋美術館が、世界文化遺産に登録された。

トルコのイスタンブールで開催された国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会で決まった。クーデター未遂の影響で、審議が大幅に遅れた末の決定となった。

過去2回にわたる登録見送りを経て、念願がかなった。国内では16件目の文化遺産となる。

20世紀を代表するフランスの建築家、ル・コルビュジエの作品だ。日本をはじめ、仏独やアルゼンチンなど計7か国が共同推薦していた17点の一つである。

コルビュジエは近代建築の先駆者として名高い。コンクリートやガラスなど大量生産可能な建材を多用し、合理性や機能性を重視した。その設計思想は、時代の要請と合致していたと言えよう。

今回、文化遺産登録が決まったのも、グローバルに展開された建築文化が評価されたためだ。大陸をまたいでの登録は、世界文化遺産史上初めてのケースである。

西洋美術館は、東アジアで唯一の構成資産となった。実業家の松方幸次郎が戦前、フランスで収集した作品を収蔵・展示する目的で、1959年に建設された。

らせん状に回廊を配し、建物を外側に増築できるようにした「無限成長美術館」の発想に基づく。建物を支柱で持ち上げた構造も特徴だ。これらの意匠を箱型のフォルムに取り入れている。

コルビュジエの美術館建築の完成形とされる作品だけに、日本にとって大きな財産だ。

坂倉準三、前川国男ら著名な門下生を輩出したことで、コルビュジエは、日本の近代建築の礎になったとも言えるだろう。

世界の主な遺跡や歴史的建造物の文化遺産登録は、ほぼ終了している。今後は近現代の建築が対象になる可能性が高い。

64年の東京五輪会場として、丹下健三が設計した国立代々木第1体育館(東京都渋谷区)の登録を目指す運動も始まっている。

日本ではこれまで、近現代建築を文化財として保護しようという発想が乏しかった。今回の西洋美術館の登録を、近現代建築の価値を再認識する契機としたい。

上野公園には、美術館や博物館が集中する。2020年東京五輪に向け、この一帯を国際文化都市・東京の顔にしようという構想が進む。新たな世界遺産の誕生を五輪の盛り上げにも生かしたい。

産経新聞 2016年07月21日

西洋美術館の登録 大陸超えた連携の成果だ

東京・上野の国立西洋美術館を含む、近代建築の巨匠、ル・コルビュジエの作品が、世界文化遺産に加わった。

登録対象は日仏やスイス、ドイツ、ベルギー、アルゼンチン、インドの7カ国にある住宅、工場や礼拝堂など17作品だ。大陸を超えて価値を共有する、新たな発想で登録を果たした意義は大きい。その遺産を、日本で間近にできることを歓迎したい。

トルコのイスタンブールで開かれた国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は、クーデター未遂で審議が一時中断した。難産の末の登録決定であるだけに、関係者の安堵(あんど)と喜びはひとしおだったろう。

コルビュジエは19世紀後半、スイスに生まれ、フランスを中心に活躍した。鉄筋コンクリートの近代建築で先駆的役割を果たし、機能性に加え、人間らしい生活空間を提言し、現代の建築にも大きな影響を与えている。

改めて注目したいのは、2度の登録見送りを乗り越えた、約10年にわたる粘り強い活動や交渉の過程である。

申請は当初、建築家個人を前面に出して価値を説明したという。しかし専門家から成る諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)は「人物は評価できない」などとして「登録延期」を勧告した。

再度の申請にも、イコモスは最低評価に当たる「不登録」を勧告した。そうした厳しい状況にも、あきらめなかった。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2556/