南シナ海での中国の主権を全面的に否定した仲裁裁判所の判決を中国が無視していることは、看過できない。
関係国が結束して、中国に判決に従うよう促し続けることが肝要である。
アジア欧州会議(ASEM)首脳会議が、国連海洋法条約に則った紛争解決の重要性を明記した議長声明を採択し、閉幕した。
中国への配慮から、南シナ海への直接の言及は避けた。合意文書の採択は全会一致が原則だけに、やむを得ない面もある。
会議で、多くの首脳が南シナ海の問題を取り上げ、「法の支配に基づく海洋秩序の維持」を支持したことは評価できよう。
安倍首相が、判決は「最終的なもので、紛争当事国を法的に拘束する」と強調したのは当然だ。
疑問なのは、中国の李克強首相が安倍首相との会談で「日本は南シナ海問題で騒ぎ立て、介入するのをやめるべきだ」と述べ、改めて判決を拒否したことである。
中国は仲裁裁判を「政治的な茶番」と決めつけ、判決を「紙くずだ」とも言い放つ。スプラトリー(南沙)諸島の人工島に建設した飛行場では、民間機による着陸テストを繰り返し、実効支配の既成事実化を図っている。
国際司法判断に背を向け、一段と緊張を高める中国の独善的な言動は、地域の安定に責任を持つ国連安全保障理事会の常任理事国にあるまじき振る舞いである。
中国は、当時の柳井俊二国際海洋法裁判所長が仲裁裁判の裁判官4人を選任したことを「公正でない」と主張するが、筋違いだ。
裁判官には、国連海洋法条約の手続きに基づき、専門家が選ばれた。裁判への参加を拒否した中国の対応にこそ、問題がある。
70か国以上が中国の立場を支持していると主張し、自らを正当化する宣伝戦を展開するのは、孤立への危機感の表れではないか。
首脳会議が議長声明で、仏ニースやバングラデシュのテロを踏まえ、暴力的過激主義を防ぐ決意を示した意義は小さくない。
過激派組織「イスラム国」の呼びかけに応じ、武装集団などが各地で事件を起こしている。中長期的には、若者の就業対策など過激主義の温床となる社会問題への対応でも連携することが大切だ。
経済分野では、英国の欧州連合(EU)離脱問題で揺れる世界経済の安定化が焦点となった。
議長声明で、金融、財政、構造改革の全ての政策手段をとる用意があると確認したのは妥当だ。
この記事へのコメントはありません。