ASEM首脳会議 中国の異様さ印象付けた

朝日新聞 2016年07月16日

日中首脳会談 冷静な対話の環境を

アジア欧州会議(ASEM)首脳会合に出席するため、モンゴルの首都ウランバートルを訪問中の安倍首相がきのう、中国の李克強(リーコーチアン)首相と会談した。

日中の首脳会談は昨年11月以来のことだ。

オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、中国が唱える南シナ海での権利を認めないという判決を下した後、初めて直接意見を交わす場となった。

会談で安倍首相は、南シナ海や東シナ海での中国の行動に懸念を表明し、仲裁裁判所の判決を受け入れるよう促した。

南シナ海の大半を「9段線」と呼ばれる境界線で囲み、その内側に歴史的な権利があるという中国の主張に、およそ理がないことは判決が示す通りだ。

中国は周辺海域で岩礁を埋め立てて人工島化し、既成事実化を進めている。軍事演習も強化し、防空識別圏の設定にも含みを持たせている。近隣国や米国との決定的な対立を招きかねない危険な選択肢だ。

今回の判決は、中国に対し、こうした姿勢を軌道修正できるかどうかを問いかけている。中国が国際秩序の枠内で行動し、国際協調の果実を享受する国たり得るのか否か。

日本もまた、中国とどう向き合うかが改めて問われている。9月初旬に中国・杭州で開かれるG20首脳会議に向け、日中関係をどう深め、周辺海域の安定をはかっていくか。

日中双方にとって肝要なのは対話の窓を閉ざさないことだ。

日本は、南シナ海に領有権や経済的権利を持たないし、主張もしていない。ただ、この海域がきわめて重要な航路である以上、海運に依存する国として関係国とともに懸念を示し、中国に判決を受け入れるよう促すのは当然のことだ。

これに対し、中国は激しく反発してきたが、その中身はとても受け入れられない。

たとえば、国際海洋法裁判所長だった柳井俊二・元外務次官が、常設仲裁裁判所の裁判官の選任にかかわっていたことについて、中国外務省の幹部らは、日本が裁判をゆがめたかのように批判している。

だがこれは国連海洋法条約にもとづく手続きである。中国は裁判官の人選に関与できたにもかかわらず、裁判自体に参加していなかった。

大事なことは、対立をあおることなく、冷静な対話の環境を整えることだ。国際法の秩序と安定を南シナ海と東シナ海に取り戻すために何ができるのか。日中双方が議論を通じて、具体的な解決策を模索すべきだ。

読売新聞 2016年07月17日

アジア欧州会議 中国は国際法に背を向けるな

南シナ海での中国の主権を全面的に否定した仲裁裁判所の判決を中国が無視していることは、看過できない。

関係国が結束して、中国に判決に従うよう促し続けることが肝要である。

アジア欧州会議(ASEM)首脳会議が、国連海洋法条約にのっとった紛争解決の重要性を明記した議長声明を採択し、閉幕した。

中国への配慮から、南シナ海への直接の言及は避けた。合意文書の採択は全会一致が原則だけに、やむを得ない面もある。

会議で、多くの首脳が南シナ海の問題を取り上げ、「法の支配に基づく海洋秩序の維持」を支持したことは評価できよう。

安倍首相が、判決は「最終的なもので、紛争当事国を法的に拘束する」と強調したのは当然だ。

疑問なのは、中国の李克強首相が安倍首相との会談で「日本は南シナ海問題で騒ぎ立て、介入するのをやめるべきだ」と述べ、改めて判決を拒否したことである。

中国は仲裁裁判を「政治的な茶番」と決めつけ、判決を「紙くずだ」とも言い放つ。スプラトリー(南沙)諸島の人工島に建設した飛行場では、民間機による着陸テストを繰り返し、実効支配の既成事実化を図っている。

国際司法判断に背を向け、一段と緊張を高める中国の独善的な言動は、地域の安定に責任を持つ国連安全保障理事会の常任理事国にあるまじき振る舞いである。

中国は、当時の柳井俊二国際海洋法裁判所長が仲裁裁判の裁判官4人を選任したことを「公正でない」と主張するが、筋違いだ。

裁判官には、国連海洋法条約の手続きに基づき、専門家が選ばれた。裁判への参加を拒否した中国の対応にこそ、問題がある。

70か国以上が中国の立場を支持していると主張し、自らを正当化する宣伝戦を展開するのは、孤立への危機感の表れではないか。

首脳会議が議長声明で、仏ニースやバングラデシュのテロを踏まえ、暴力的過激主義を防ぐ決意を示した意義は小さくない。

過激派組織「イスラム国」の呼びかけに応じ、武装集団などが各地で事件を起こしている。中長期的には、若者の就業対策など過激主義の温床となる社会問題への対応でも連携することが大切だ。

経済分野では、英国の欧州連合(EU)離脱問題で揺れる世界経済の安定化が焦点となった。

議長声明で、金融、財政、構造改革の全ての政策手段をとる用意があると確認したのは妥当だ。

産経新聞 2016年07月17日

ASEM首脳会議 中国の異様さ印象付けた

南シナ海問題をめぐる中国の言い分のおかしさと、国際社会における孤立ぶりを際立たせる場になったといえよう。

モンゴルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議は、ハーグの仲裁裁判所が中国全面敗訴の裁定を出した後、初めての大規模な国際会議として注目された。

アジアと欧州から50以上の国、機関のトップらが参加し、「国連海洋法条約に基づく紛争解決」を明記し、中国を牽制(けんせい)する議長声明を採択した意味は大きい。

今月下旬にはラオスで、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の閣僚級会合が開催され、中国や日本、米国も含めた多国間外交が展開される。

米国やフィリピンなど周辺国との連携を進め、対中圧力をさらに強める必要がある。

会議と並行して行われた2国間会談などを通じ、安倍晋三首相や欧州連合(EU)のトゥスク大統領ら多くの首脳の間で、仲裁裁判所の判断を尊重すべきだとの認識を共有することができた。

中国は裁定について「紙くず」「政治的茶番」などと非難してきたが、国際社会は全く異なる評価を与えている。その現実を目の当たりにしたのではないか。

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