「原発をいったん停止して再点検する」
全国で唯一稼働中の九州電力川内原発を抱える鹿児島県の知事に、こう訴えた元テレビ朝日コメンテーター、三反園訓(みたぞのさとし)氏(58)が就任する。無所属新顔として知事選に立ち、川内原発の再稼働に同意した現職の伊藤祐一郎氏(68)を破った。
4選を目指した伊藤氏への多選批判が決め手になったとの見方が多いが、三反園氏が熊本地震を受けて川内原発一時停止の公約を打ち出した影響も小さくなかっただろう。地震発生直後の1週間で、停止を求めるメールや電話が九電に5千件も寄せられるなど不安が広がったからだ。
ところが、三反園氏は当選直後に「九電に一時停止を申し入れる」と改めて表明したものの、その後は詳しい説明をしていない。一時停止を選挙公約にしていたとはいえ、運動期間中に積極的に訴えたわけではなかった。それだけに、原発推進・反対両派を含め、県民の間に疑心暗鬼も生じているようだ。
知事には稼働中の原発を止める法的権限はない。ただ、昨年夏から秋に再稼働した川内原発1、2号機はこの秋から冬にかけて定期点検で再び止まる。九電が点検終了後に稼働させる際、知事の同意はいらないものの意向は無視もできず、稼働へハードルは高くなる。
三反園氏は、自らの考えをしっかり語り続けるべきではないか。九電や再稼働を支えた県議会との向き合い方を練っているのでは、との見方もあるが、まずは県民に対して説明することが基本のはずだ。
三反園氏が知事選で掲げた公約は、(1)川内原発を停止し、施設の点検と避難計画の見直しを行う(2)有識者による原子力問題検討委員会を置く、といった内容だ。
熊本地震では熊本県内で数多くの道路や橋が崩壊し、余震が次第に川内原発に近づいていった。もし原発近くが震源になると避難路が寸断されるのではないか。そんな県民の不安に応じようとする姿勢がうかがえる。
三反園氏がいう原子力問題検討委と同種の委員会は、すでに新潟県や静岡県などにある。再稼働を目指す原発の安全審査は政府の原子力規制委員会が担うが、議論を専門家任せにせず、地方自治体が住民を守る役割を積極的に果たすことは大切だ。
原発一時停止を掲げて当選した以上、考えを丁寧に説明し、県民の不安を解消する努力を続ける。それが新知事に求められている姿勢である。
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