トルコ軍反乱 鎮圧が国民融和につながるか

朝日新聞 2016年07月17日

トルコの反乱 一刻も早い秩序回復を

西洋と東洋の十字路ともいわれるトルコは古来、世界の要衝の地として知られてきた。

国民の多くがイスラム教徒だが、政教分離の国是の下で民主主義体制を確立させた国として中東のモデルともいわれた。

その国で軍の一部が反乱を起こし、戦闘で多数が死傷した。トルコ政府は「クーデターは鎮圧された」としているが、なお不穏な状態が続いている。

どんな背景であれ、流血の事態をただちに終結すべきだ。エルドアン大統領と軍の指導部は一刻も早く秩序を回復し、混乱を収束させねばならない。

近年のトルコでは、エルドアン氏の強権的な政治運営に一部で批判がでていた。大統領の権限強化や報道規制に加え、軍の権限も縮小されたことで、軍の一部に不満があったようだ。

しかし、たとえ政治手法に批判があったにせよ、民主的に選ばれた正統な政権である。武力で転覆をもくろむ行為は、到底容認できない。

この国で軍は、伝統的に民主主義や世俗性の担い手とされ、政権が宗教色を強めた時などに介入した。1980年までに3度、クーデターなどで権力を奪った。

ただ、いずれも冷戦期であり、西側軍事同盟の一員としてトルコをとどまらせたい米欧の思惑があった。今回も同じような意識で軍事的な政変を狙ったとすれば時代錯誤も甚だしい。

オバマ米大統領ら欧米各国の首脳が、いち早く現政権支持を打ち出したのは当然だ。

いまの国際社会でトルコが果たすべき役割は大きい。北大西洋条約機構(NATO)の一員であり、欧米とアラブ世界との懸け橋として、中東問題全般での関与が欠かせない。

隣国シリアの内戦による大量の難民への対策や、過激派組織「イスラム国」(IS)と米欧主導の戦いを続けるうえでも、この国の協力が必須条件だ。

トルコは長らく欧州連合(EU)への加盟を望んでいるが、それには自由や人権、法の支配の強化が必要だ。

政権による市民の権利制限や、少数派クルド人に対する人権侵害などが続く限り、混乱の火種はくすぶり続ける。

エルドアン政権と軍がめざすべきは、しっかり手を携えて、国内の様々な分断と対立を克服する統治体制を築くことだ。

日本の安倍政権は、トルコへの原発輸出に向けて協定を結ぶなど関係強化に動いてきた。あらゆる対話を通じて、国内の融和を図るよう求める責務があることを忘れてはならない。

読売新聞 2016年07月17日

トルコ軍反乱 鎮圧が国民融和につながるか

民主的な手続きで選ばれた政権を、軍隊が武力で転覆させる行為は到底許されない。当事者が自制し、さらなる流血を回避することが急務だ。

トルコの首都アンカラと最大都市イスタンブールで、軍の一部が戦車を展開し、放送局を占拠するなど、クーデターを企てた。交戦や爆発が発生し、多数の死傷者が出た。アジアと欧州を結ぶ大橋や主要道路が一時閉鎖された。

政府を支持する軍と警察が、反乱軍をほぼ制圧した。試みは失敗に終わり、多くの兵士が殺害、拘束された。エルドアン大統領は「クーデターを鎮圧した。事態を掌握している」と強調した。

米国や欧州連合(EU)、国連などが政権への支持を表明し、秩序の回復を求めたのは当然である。安倍首相は「事態を憂慮している」と語った。混乱の長期化にも備え、日本政府は在留邦人の安全確保に努めねばならない。

今回の反乱は、政権が宗教色を強め、憲法改正などで軍の権限縮小を断行したことに対する不満が背景にあるのだろう。

トルコは、1923年に軍人出身のケマル・アタチュルクが初代大統領に就任して以来、政教分離の世俗主義を国是としてきた。

軍は「世俗主義の守護者」を自任する。これまでも、政府のイスラム化や政治腐敗を理由にクーデターを起こしている。

エルドアン氏はイスラム穏健政党を率い、2003年から首相、14年から大統領を務める。経済成長を主導した実績を基に、近年は夜間の酒類販売禁止などイスラム教徒寄りの政策を進めた。

問題なのは、エルドアン氏の強権的な手法によって、国内のあつれきが増していることである。

反政府デモを弾圧し、政権に批判的な言論機関を管理下に置いた。独立を主張するクルド人武装組織との戦闘が泥沼化し、過激派組織「イスラム国」などによる相次ぐテロを防げずにいる。

エルドアン氏が世俗主義者らとの融和を図らなければ、政情の安定は期待できまい。

トルコは、有志連合の「イスラム国」掃討作戦で、米軍に基地を提供している。「イスラム国」の外国人戦闘員の移動を阻止するうえでも重要な役割を担う。

欧州に向かうシリア難民が滞留している問題では、EUとの協調が求められている。

今回の事態が中東情勢の一層の悪化につながらないよう、日本をはじめ、国際社会が積極的に関与することが欠かせない。

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