西洋と東洋の十字路ともいわれるトルコは古来、世界の要衝の地として知られてきた。
国民の多くがイスラム教徒だが、政教分離の国是の下で民主主義体制を確立させた国として中東のモデルともいわれた。
その国で軍の一部が反乱を起こし、戦闘で多数が死傷した。トルコ政府は「クーデターは鎮圧された」としているが、なお不穏な状態が続いている。
どんな背景であれ、流血の事態をただちに終結すべきだ。エルドアン大統領と軍の指導部は一刻も早く秩序を回復し、混乱を収束させねばならない。
近年のトルコでは、エルドアン氏の強権的な政治運営に一部で批判がでていた。大統領の権限強化や報道規制に加え、軍の権限も縮小されたことで、軍の一部に不満があったようだ。
しかし、たとえ政治手法に批判があったにせよ、民主的に選ばれた正統な政権である。武力で転覆をもくろむ行為は、到底容認できない。
この国で軍は、伝統的に民主主義や世俗性の担い手とされ、政権が宗教色を強めた時などに介入した。1980年までに3度、クーデターなどで権力を奪った。
ただ、いずれも冷戦期であり、西側軍事同盟の一員としてトルコをとどまらせたい米欧の思惑があった。今回も同じような意識で軍事的な政変を狙ったとすれば時代錯誤も甚だしい。
オバマ米大統領ら欧米各国の首脳が、いち早く現政権支持を打ち出したのは当然だ。
いまの国際社会でトルコが果たすべき役割は大きい。北大西洋条約機構(NATO)の一員であり、欧米とアラブ世界との懸け橋として、中東問題全般での関与が欠かせない。
隣国シリアの内戦による大量の難民への対策や、過激派組織「イスラム国」(IS)と米欧主導の戦いを続けるうえでも、この国の協力が必須条件だ。
トルコは長らく欧州連合(EU)への加盟を望んでいるが、それには自由や人権、法の支配の強化が必要だ。
政権による市民の権利制限や、少数派クルド人に対する人権侵害などが続く限り、混乱の火種はくすぶり続ける。
エルドアン政権と軍がめざすべきは、しっかり手を携えて、国内の様々な分断と対立を克服する統治体制を築くことだ。
日本の安倍政権は、トルコへの原発輸出に向けて協定を結ぶなど関係強化に動いてきた。あらゆる対話を通じて、国内の融和を図るよう求める責務があることを忘れてはならない。
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