天皇陛下が、皇太子さまに皇位を譲る「生前退位」の意向を持たれていることが分かった。
陛下のご意思を重く受け止めたい。
皇室典範に生前退位の規定はない。退位を可能にするには、典範の改正や特別立法などの法的措置が必要となる。
宮内庁は、陛下が退位の意向を示されたことを否定している。象徴天皇である陛下が生前退位を口にされることは、政治的発言と見なされかねないためだろう。
陛下は、公務に強い責任感をお持ちだ。今年もフィリピンへの慰霊の旅や熊本地震の被災者訪問などをこなされている。
一方で、陛下は昨年末の記者会見で、行事の際の手順で「間違い」があったことや82歳という自身の年齢について言及された。
生前退位は、象徴天皇としての務めの重さと年齢について、考え抜かれた末のご意思だろう。
お気持ちを忖度し、議論を重ねていくことが大切である。ご高齢の陛下の健康を気遣う国民の理解も得られよう。
天皇の生前退位は、古代から数多くの事例があるが、明治時代に制定された皇室典範では認められなかった。戦後の新しい皇室典範制定の際に、見直し論が浮上したが、制度化されなかった。
退位を可能とした場合、天皇の自発的意思によらない強制退位が政治的思惑などによって起きる恐れを排除できない。天皇が望んだとされるケースでも、真意を確認するのは難しい。生前退位にはこうした問題点もあるからだ。
皇室制度の根幹に関わる問題である。政府は担当チームを設け、水面下で検討を進めているというが、今後は有識者会議などの場で幅広く意見を求めるべきだ。
まずは、陛下にかかる公務の負担をどこまで軽減できるのか、見極める必要がある。
皇室典範は、天皇の公務などを代行する摂政を置くことを認めているが、天皇が重病になった時などに限られている。この要件を緩和し、陛下が退位しないまま、皇太子さまが摂政として公務にあたる選択肢はないのか。
仮に生前退位を可能とする場合には、退位後の地位が検討課題となる。皇太子さまが新たな天皇に即位されると、秋篠宮さまが皇位継承順位の1位となる。その場合、皇太子は不在だ。
皇室の将来を考えれば、秋篠宮さまの長男、悠仁さまの誕生で途絶えている女性天皇・女系天皇の議論も避けて通れない。
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