天皇「生前退位」 ご意向忖度して広範な議論を

朝日新聞 2016年07月15日

生前退位 象徴天皇考える契機に

天皇陛下が皇位を皇太子さまに譲る「生前退位」の意向を、周囲に示しているという。

82歳の陛下は、憲法が定める国事行為のほか、被災者のお見舞いや戦没者慰霊などで、皇后さまとともに精力的に各地を訪ねている。その姿に多くの国民が敬意と共感を寄せながら、体調を崩さないよう、祈りにも似た気持ちで見守ってきた。

公務の削減も行われてはいるが、天皇の地位にある以上、責務を十全・公平に果たしたいという陛下の強い気持ちがあり、なかなか進んでいない。

こうした状況下で陛下の考えが伝えられた。かつて秋篠宮さまの会見で「定年制」が話題になったこともあり、本来、政府や国会の側から議論をおこさなければならない課題だった。そんな思いを抱きつつ、これを機にぜひ検討を進めたい。

「天皇は神聖にして侵すべからず」の明治憲法の下、旧皇室典範は退位の規定を設けなかった。いまの典範が戦後つくられたとき、退位の是非も論点になったが、結局見送りとなった。天皇に重大な事故があった場合などは、摂政をおいて対応するきまりになっている。

上皇が存在して世が乱れた歴史がある。意に反して強制退位させられるおそれを否定できない。天皇にならない自由を認めることにもなりかねず、皇位が不安定になる。天皇の自由意思で退位するのは、象徴という立場になじまない――。これらが退位制度をいれない理由とされた。当時は昭和天皇の戦争責任問題があり、退位を認めると臆測や混乱を招く懸念もあった。

時代は大きく変わった。

陛下は即位の日から象徴天皇としての道を歩んだ。平均余命はのび、高齢社会をどう生きるかは、人びとの最大の関心事のひとつになっている。

立場上、基本的人権にさまざまな制約が課せられているとはいえ、陛下もひとりの人間として尊重されてしかるべきだ。それは、被災者を見舞うとき、ひざをつき、同じ目の高さで語りかける「平成流」というべき両陛下のふるまいにも通じる。

もちろん、天皇は国民統合の象徴であり、その地位は国民の総意に基づく。退位に道を開くとすれば、その要件や手続き、「前天皇」の地位をどう定めるかなど、課題は少なくない。

議論の過程を透明にし、これからの天皇や皇室のあり方について、国民が考えを深める環境をととのえる。政府、そして、国民を代表し、唯一の立法機関として最終判断を下す国会には強くそのことを求めたい。

読売新聞 2016年07月15日

天皇「生前退位」 ご意向忖度して広範な議論を

天皇陛下が、皇太子さまに皇位を譲る「生前退位」の意向を持たれていることが分かった。

陛下のご意思を重く受け止めたい。

皇室典範に生前退位の規定はない。退位を可能にするには、典範の改正や特別立法などの法的措置が必要となる。

宮内庁は、陛下が退位の意向を示されたことを否定している。象徴天皇である陛下が生前退位を口にされることは、政治的発言と見なされかねないためだろう。

陛下は、公務に強い責任感をお持ちだ。今年もフィリピンへの慰霊の旅や熊本地震の被災者訪問などをこなされている。

一方で、陛下は昨年末の記者会見で、行事の際の手順で「間違い」があったことや82歳という自身の年齢について言及された。

生前退位は、象徴天皇としての務めの重さと年齢について、考え抜かれた末のご意思だろう。

お気持ちを忖度そんたくし、議論を重ねていくことが大切である。ご高齢の陛下の健康を気遣う国民の理解も得られよう。

天皇の生前退位は、古代から数多くの事例があるが、明治時代に制定された皇室典範では認められなかった。戦後の新しい皇室典範制定の際に、見直し論が浮上したが、制度化されなかった。

退位を可能とした場合、天皇の自発的意思によらない強制退位が政治的思惑などによって起きる恐れを排除できない。天皇が望んだとされるケースでも、真意を確認するのは難しい。生前退位にはこうした問題点もあるからだ。

皇室制度の根幹に関わる問題である。政府は担当チームを設け、水面下で検討を進めているというが、今後は有識者会議などの場で幅広く意見を求めるべきだ。

まずは、陛下にかかる公務の負担をどこまで軽減できるのか、見極める必要がある。

皇室典範は、天皇の公務などを代行する摂政を置くことを認めているが、天皇が重病になった時などに限られている。この要件を緩和し、陛下が退位しないまま、皇太子さまが摂政として公務にあたる選択肢はないのか。

仮に生前退位を可能とする場合には、退位後の地位が検討課題となる。皇太子さまが新たな天皇に即位されると、秋篠宮さまが皇位継承順位の1位となる。その場合、皇太子は不在だ。

皇室の将来を考えれば、秋篠宮さまの長男、悠仁さまの誕生で途絶えている女性天皇・女系天皇の議論も避けて通れない。

産経新聞 2016年07月15日

陛下「生前退位」 ご意思うけ真摯な議論を

天皇陛下が、天皇の位を生前に皇太子さまに譲る退位の意向を示されていることが分かった。

常に国民のために祈り、共に歩まれてきた陛下のご意思を受け止め、皇位継承のあり方にかかわる問題を真剣に考えていかねばならない。

歴代天皇の歴史で譲位の例は少なくない。しかし、明治期に制定された旧皇室典範では皇位継承は天皇の崩御が前提となり、譲位の規定はなかった。現行の皇室典範には、この考え方が踏襲された。

国家の基本にかかわり、憲法を改めるに等しい重要な事柄である。法改正を要し、同時に解決すべき課題もある。

検討にあたっては、陛下のご意思を尊重しつつ、慎重かつ丁寧な作業が肝要である。

陛下は82歳というご高齢だ。平成15年に前立腺がんの手術、24年には心臓のバイパス手術を受けるなど大きな病を経験された。体力の衰えを感じながらも陛下はご公務を精力的にこなされてきた。

皇后さまとともに、先の大戦における戦没者への「慰霊の旅」を続け、戦後70年の昨年はパラオ、今年1月にはフィリピンを訪問された。

大災害では被災地に直接足を運ばれる。避難所で膝をつき、被災者を励まされるお姿に国民は勇気づけられた。

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