子ども手当 財政規模を考え現実的に

朝日新聞 2010年03月13日

子ども手当 保育所も、財源も考えて

春の入園時期を前に、「認可保育所に入れない」「認可外もダメだった」と、親たちの会話に嘆きがこもる。こうした声は、鳩山由紀夫首相に届いているだろうか。

中学生までの子1人あたり月1万3千円を6月から支給する子ども手当法案がきのう、衆院の委員会で可決された。首相は政権公約で掲げた2万6千円を2011年度から支給する姿勢だが、満額支給を語る前に考え、取り組むべきことがある。

国民の間では、子ども手当への疑問がくすぶっている。その要因の一つは、深刻な保育所不足に手が打てていないという現実だろう。

厚生労働省が把握しているだけでも、待機児童は約2万5千人。潜在的には100万人といわれる。認可外施設にいる18万人も、多くは認可施設への転入を待っている状態だ。

政府は1月末にまとめた「子ども・子育てビジョン」で、14年度末までに0~2歳児で約25万人分の保育環境を新たに整えるとした。だが、予算の確保はこれからだ。

子どもを保育施設に入れたくても施設不足のためにできない。そのため職場にも復帰できない。経済的にも社会的にも、犠牲は大きい。こんな状況が解消されない限り、政府がいくら「子育てにお金を配ります」といっても、素直に喜べるものではない。

長妻昭厚労相は、施設不足の解消に向けて、もっと積極的に取り組んでほしい。同時に、子ども手当を含む少子化対策の全体像と強化の道筋をはっきりさせることも必要だ。

鳩山政権が財源を確保しないまま満額支給への移行を語っていることも、国民の不信を買っているようだ。

10年度分の支給に必要な2兆3千億円は国債の大増発という借金財政でまかなわれた。満額となれば毎年度5.3兆円が必要だ。その実現には将来の増税をあてるしかない。このことを明確にしない限り、赤字財政をさらにひどくするだけで政策は信頼されない。

だが鳩山首相は消費税増税を封印し、「無駄の削減」でまかなうと繰り返すばかりだ。そこに政権の誠実さを見ることはできない。

いまの子育て世代は、企業が人件費の削減を進めるなかで所得を抑えられてきた。だから、政府が「社会で子育てを支える」という発想で支援に取り組む姿勢それ自体は買いたい。

日本の未来のためにも、子育てと教育への支援策は強化すべきだ。高校無償化とあわせ、子ども手当もその一環として位置づけることができる。

必要なことだからこそ、将来の増税を含めた財源をきちんと示して参院選に臨む。それが、政府・与党の責任ある態度というものではないだろうか。逃げない姿勢を求めたい。

産経新聞 2010年03月14日

子ども手当 財政規模を考え現実的に

鳩山政権の目玉政策である「子ども手当」と「高校授業料無償化」の両法案が、衆院の委員会で可決され、年度内成立の見通しとなった。

子ども手当は、来年度は中学卒業まで1人月1万3千円を支給する。高校授業料の無償化は、世帯の年収に応じて生徒1人あたり年約12万~24万円を高校側に一括支給する。

日本は世界で最も少子高齢化が進んでいる国とされる。このままでは、国家の基盤が揺らぎかねない。「社会全体で子育てを支援することが必要」という政策の基本理念は間違ってはいない。

だが、法案の内容には問題が少なくない。まずは財源不足だ。子ども手当は半額支給の来年度だけで約2兆3千億円、高校無償化には約4千億円の巨額の費用を必要とする。民主党は「予算の無駄の排除などで財源を捻出(ねんしゅつ)する」と大見えを切っていたが、来年度予算では達成できなかった。

国の税収も落ち込み、再来年度以降の「満額支給」にも見通しが立たないことを加味すれば、支給額引き下げや所得制限を講じるべきだ。そもそも「本当に子育てのために使われるのか」「将来世代へのツケ回し」といったバラマキ政策の印象はぬぐえない。

子ども手当は母国に子供を残してきた外国人には支給されるが、日本人でも海外に居住する場合は支給されないことも疑問だ。高校無償化も海外在住の日本人は対象外だ。こうした制度は日本人の出生数減少に歯止めをかけるという本来の目的にはそぐわない。

外国人の場合、自治体が相手国の証明書類などを厳格にチェックすることは可能なのか。野党からは「支給額が大きく、虚偽受給が横行するのでは」といった懸念も出ている。

公明党との修正協議で検討条項が法案の付則に盛り込まれたが、児童養護施設などに入所する一部の子供は支給対象外のままだ。これらは鳩山政権が「少子化対策」から「福祉施策」、さらには「景気対策」へと、その場しのぎの説明を繰り返し、制度の基本設計を怠ったツケといえる。

少子化対策は、経済的支援だけでは不十分だ。若者世代の雇用を安定化させることや、保育サービスの拡充など総合的な取り組みが不可欠である。鳩山由紀夫首相は法案の意図を改めて明確にし、国家財政の身の丈にあった現実的施策に転じる必要がある。

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