メイ英新首相 秩序あるEU離脱の構想示せ

朝日新聞 2016年07月14日

英新首相 まず社会の分断修復を

欧州連合(EU)からの離脱という歴史的な難局のかじ取りは、英国史上2人目となる女性宰相が担うことになった。

キャメロン首相の後任首相に決まったメイ氏は就任前、「最善の条件を引き出し、離脱を成功させる」と約束した。

そのためには、国民投票が保守党内や英国社会にもたらした分断の修復に、真っ先に取り組んでほしい。

国会議員歴が20年近いベテラン政治家だ。国民投票ではEU残留を支持したが、一方で、内相として違法移民やテロ対策を強力に推進した実績をもち、党内の離脱派からも一定の信任は得られそうだ。

だが、社会の分断ははるかに根深く、複雑だ。

EUからの離脱に票を投じたのは、増える移民に雇用を奪われ、治安が損なわれると恐れる国民だけではない。

大都市や金融産業を潤すグローバル化の恩恵にあずかれない不満や、エリート主導の政治に不信を抱く地方住民、低所得者層の多くが離脱を選んだ。

これに対し、EUの中にあってこそ英国の未来がひらけると信じる若者層は、離脱の結果に落胆し、不安を募らせている。

多様な人材を世界から受け入れることで英国が発展を遂げてきたのは紛れもない事実だ。メイ氏は、国を開くことがもたらす果実について、国民に丁寧な説明を尽くす必要がある。

それと並行して、グローバル化の負の面にも目を向け、格差の是正など弱者に配慮した政策にも急いで手をつけてほしい。

英国とEUとの信頼関係は深く傷ついた。離脱に向けた交渉に長い時間がかかるのは間違いない。とりわけ、移民の大量流入につながる「人の移動の自由」を制限しつつ、EU単一市場への参加は求めるという英国の主張は、EUとして容易に受け入れられるものではない。交渉の難航は必至だ。

かといって、テロ対策や気候変動問題をめぐる連携に空白は一瞬たりとも許されまい。

英国がEUの外に出たとしても、同じ欧州の一員として経済的な依存関係が消滅することはありえない。民主主義や、人権や自由を重んじてきた欧州の分断が続けば、各国で台頭するポピュリズム政党や、ロシアのように強権姿勢を強める大国に振り回される可能性は高まる。

対立点ばかりに焦点を当てるのではなく、どうすれば共通の利益を守り、伸ばせるか。メイ氏は未来志向と柔軟な姿勢で、英国とEUとの新しいモデルを築き上げてほしい。

読売新聞 2016年07月13日

メイ英新首相 秩序あるEU離脱の構想示せ

欧州連合(EU)離脱という歴史的な針路変更のかじ取りを担う責任は重大である。秩序あるプロセスとなるよう、指導力の発揮が求められる。

英国のメイ内相が、与党・保守党の党首に選出された。13日に首相に就任する。サッチャー氏以来、2人目の女性首相となる。

最大の課題は、EUとの離脱交渉である。メイ氏は党首選に勝利した後、「最善の条件を引き出す。成功させる」と強調した。「世界における我が国の新たな役割を築く」とも語った。

メイ氏は、数か月をかけて英国の交渉戦略をまとめた後、EUに離脱を通知する考えだ。EUからは、「EU単一市場へのアクセス」と「ヒトの移動の自由」は不可分だとクギを刺されている。

移民流入制限を公約したメイ氏が、貿易・金融サービス分野で英国の利益を守りつつ、EU各国にも説得力のある離脱構想を打ち出せるのか、心もとなくもない。

メイ氏は、6月の国民投票に際して、EU脱退に経済的リスクが伴うことなどを理由に、残留を支持した。だが、「離脱」支持が多数を占めた以上、その実現が政府の務めだ、と主張を転換し、党首選に出馬した経緯がある。

テロ対策などを担当する重要閣僚の内相を6年間務め、安定感には定評がある。国民投票を巡って先鋭化した党内の離脱派対残留派の対立を修復し、政治の混乱を収拾せねばなるまい。

社会の分断も深刻だ。移民らに対する民族差別的な嫌がらせが急増している。メイ新政権は、国民融和の努力が欠かせない。

中長期的には、ロンドンと地方の格差の是正に取り組む必要がある。首都が金融センターとして繁栄する一方で、地場産業が衰退した地方では、「中央のエリート」やEUの官僚主義への不満が渦巻き、離脱の主因となった。

党首選には当初、離脱派から女性の閣外相ら3候補が出馬した。実力者のジョンソン前ロンドン市長は、盟友の司法相の離反に遭い、立候補の断念に追い込まれた。メイ氏と決選投票に臨むことになった閣外相は、失言で撤退した。

離脱派は、国民投票後のビジョンを欠いたまま、内紛に陥って、政権を担う態勢を築けなかった。無責任とのそしりは免れまい。

英国の離脱問題は一時、日米欧の銀行株の急落を招いた。英国に進出した日本企業は、戦略の見直しを迫られている。メイ氏ら指導者は、海外からの厳しい視線を自覚し、行動すべきだ。

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