南シナ海仲裁裁 中国は判決に従う義務がある

朝日新聞 2016年07月13日

南シナ海判決 中国は法秩序を守れ

国際法による秩序の発展に責任をもつ国になるのか、それとも秩序に挑戦する国か。中国の習近平(シーチンピン)政権は、その岐路にあることを自覚すべきである。

オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所がきのう、南シナ海の問題について判決を下した。中国が唱えるこの海域での権利を認めないと結論づけた。

国連海洋法条約にもとづく正当な司法手続きの結果である。自国に不利でも受け入れねばならない。それが国際社会の一員として当然の選択だ。

裁判は3年前にフィリピンがおこしたもので、判決は、その訴えを全面的に認めた。

中国が南シナ海の大半に歴史的権利をもつとの主張は無効であり、中国が支配する岩礁も海洋権益の基点にならないとした。さらに、裁判所が審理をしていた間にも岩礁の埋め立てを進めたことは、事態を悪化させたと非難している。

中国政府は裁判に参加せず、判決に従わない旨を明言してきた。領有権を当然視する一方、こうした問題は当事者間で協議すべきだと主張した。

しかし、そもそもフィリピンによる提訴は、ルソン島西方沖の岩礁の支配権を、中国が公船を繰り出して奪い取ったのがきっかけだ。実力を行使しておいて、当事者間で話し合おうというのは身勝手にすぎる。

海洋法条約は、紛争解決策の一つとして仲裁裁判を位置づけている。条約には様々な解釈を生むあいまいさがあるほか、米国が加盟していない問題もしばしば論じられるが、それでも国際的な「海の憲法」として秩序を守る機能を果たしてきた。

そのルールにもとづく裁判に背を向け、権威を否定する中国政府関係者の発言は、国際法秩序に対する軽蔑であり、責任ある国の態度とはいえない。

中国は裁判の不当性について多くの国々から賛同を得たとも主張しているが、多数派工作で正義は揺るがない。そうした無為な外交アピールは、むしろ中国政府が国際社会の視線を意識している証拠でもある。

中国自身も、過去には海洋法条約を根拠とする対外主張をしてきた。改革開放以来の歩みを振り返れば、各分野の国際ルールに自国を合わせたことで、国の繁栄と国際的な地位の向上に成功したのではなかったか。

中国による周辺海域への軍事的進出や一方的な資源採掘に、近隣国は懸念を強めている。

国際秩序の枠組みから逸脱した国に長期的な発展はない。国際協調がもたらす重い価値を、習政権は熟考すべきだろう。

読売新聞 2016年07月13日

南シナ海仲裁裁 中国は判決に従う義務がある

南シナ海の領有権に関して、中国の独善的な言動の不当性を指弾する国際司法判断である。

オランダ・ハーグの仲裁裁判所は、南シナ海のほぼ全域に自国の主権が及ぶという中国の主張を全面的に退ける判決を下した。

判決は、中国が主権の根拠とする境界線「九段線」について、「歴史的な権利を主張する法的根拠はない」と結論付けた。中国が「この海域や資源に対し、排他的な支配をしてきたという証拠はない」とも指摘している。

南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島で中国が造成した人工島に対して、排他的経済水域(EEZ)は生じないとの判断も示した。

国連海洋法条約に基づくフィリピンの訴えを支持したものだ。

習近平政権は、七つの人工島の軍事拠点化を加速させ、緊張を高めている。こうした覇権主義的な現状変更の前提が、国際機関によって否定された意義は大きい。

岸田外相が談話で「当事国は今回の判断に従う必要がある。今後、南シナ海における紛争の平和的解決につながることを期待する」と強調したのは、当然である。

問題なのは、中国が仲裁裁が扱うべき案件ではないとして、判決の受け入れを拒否していることである。判決後、中国外務省は「裁決は無効であり、拘束力はない」などとする声明を発表した。

仲裁裁には、判決に強制的に従わせる仕組みはない。だが、国連海洋法条約加盟国の中国には、判決を順守する義務がある。

判決を無視すれば、「法の支配」に基づく海洋秩序をないがしろにする中国の無法ぶりが際立つだけだ。国際的な孤立が一段と深まるのは避けられまい。

中国が判決前、南シナ海の実効支配を誇示しようと、大規模な軍事演習を実施したことも看過できない。南シナ海の権益確保に躍起になるのは、戦略原潜の拠点として利用するなど、軍事面で米国に対抗する意図があるのだろう。

日米など先進7か国(G7)が主導し、中国に判決を尊重するよう粘り強く促さねばならない。

米国がフィリピンなどと連携し、人工島周辺で「航行の自由」を体現する巡視活動を継続することも欠かせない。

フィリピンのドゥテルテ大統領は今後、中国と交渉し、問題の解決を目指す意向とされる。

南シナ海の安定には、日米と協調するアキノ前政権の路線の継承が大切だ。ドゥテルテ氏には、この点を認識してもらいたい。

産経新聞 2016年07月13日

南シナ海裁定 中国の「支配」を退けた 受け入れへ日米は圧力高めよ

南シナ海で人工島を造成し、軍事拠点化を進める中国の海洋進出は国際法に反すると、ハーグの仲裁裁判所が裁定した。

国連海洋法条約に基づきフィリピンが訴えていた。違法性は当然だが、国際的な司法判断が初めて示された意味は大きい。

とりわけ、中国が主張する「九段線」に国際法上の根拠がないと認定したことは重い。南シナ海の大半を囲い込む独自の九段線を描き、その内側に歴史的権利が及ぶという中国の言い分が完全に否定されたからだ。

≪司法判断の意義大きい≫

中国は裁定を受け入れ、直ちに一方的な行動を中止すべきだ。しかしながら、中国は裁判そのものを拒否している。

国際法とそれに基づく秩序は、繁栄の基盤となるものだ。それが反故(ほご)にされていることを見過ごすわけにはいかない。

日米両国や東南アジア、欧州の各国は、結束して中国に受け入れを迫る必要がある。

仲裁裁判所は、スプラトリー(南沙)諸島の7つの人工島など中国が実効支配する各礁についても、「島」ではなく、領海などを有しないとの見解を示した。

係争海域の岩礁を埋め立て、港湾施設や滑走路を建設することは力による現状変更にほかならない。その人工島の周辺海域を実効支配する法的根拠もない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2547/