地位協定の明確化 米軍は一層の綱紀粛正を

朝日新聞 2016年07月07日

日米地位協定 一件落着にはできぬ

前進ではあるのだろう。だが、この合意だけで一件落着としてはならない。

日米地位協定で保護されている米軍属の範囲を限定することで、日米両政府が合意した。

米軍属の男が沖縄県の女性を殺害したなどとして起訴された事件への対応で、米軍属を「米予算により雇用されている者」など4分類に限定するという。

これにより、基地内で働く民間企業従業員だった今回の被告のような立場は軍属でなくなる。一方で多数の米兵や軍属に、日本の法律の適用を除外する特権的な地位はそのままだ。

米軍人・軍属に対する教育・研修の強化も盛られた。

当然の措置とも言えるが、女性殺害事件後の綱紀粛正にもかかわらず、沖縄では米軍関係者による飲酒事故などがやまない現実がある。実効性のある教育・研修を徹底してほしい。

そもそも今回の合意は、地位協定の抜本的な見直しを求め続けてきた沖縄の声に、正面からこたえるものではない。

米軍関係者による事件や事故が後を絶たない背景には、地位協定が助長してきた特権意識があるのではないか――。沖縄県などが日米両政府に地位協定の改定を求めてきたのは、そんな危機意識からだ。

事件後、沖縄では県議会や市町村議会が相次いで協定改定を要求。沖縄だけではない。米軍施設のある14都道県の知事でつくる渉外知事会も、日米両政府に同様の緊急要請をした。

日米両政府は、引き続き、協定改定を含むさらなる見直しに取り組む必要がある。

一つは裁判権の問題だ。

公務外の事件・事故は日本側に裁判の優先権がある。ところが、容疑者の身柄が米側にあれば起訴まで米側が拘束する。

1995年の少女暴行事件などを機に協定が「運用改善」され、米軍は日本側から被疑者の起訴前の身柄引き渡し要請があれば、「好意的考慮を払う」ことにはなった。だが、あくまで米側の裁量次第だ。

これを「日本から要請があれば引き渡しに応じる」と協定に明記し、強制力を持たせれば、犯罪抑止効果は高まるはずだ。

また、米軍基地には国内法の適用が数多く除外されている。例えば、米軍基地内では土壌を汚染しても原状回復義務を免除される。環境保全に関する国内法を基地内にも適用し、汚染者負担原則を徹底させることも書き込むべきだ。

沖縄県民の、そして日本国民の声を誠実に米政府に伝える責任が、日本政府にはある。

読売新聞 2016年07月06日

米軍属範囲縮小 沖縄に配慮した現実的な合意

米軍属の男が起訴された沖縄県の女性殺害事件を踏まえた、迅速かつ現実的な対応と言える。

岸田外相と中谷防衛相がケネディ駐日米大使、ドーラン在日米軍司令官と会談し、日米地位協定の対象となる軍属の範囲を実質的に縮小することで合意した。

軍属は、米国予算による被雇用者、在日米軍が公式に招いた技術アドバイザーやコンサルタントなど4分類に限定する。日本の在留資格を持つ者は除外される。今回の事件の男は含まれなくなる。

軍属でなければ、公務中も日本の警察による身柄拘束が可能だ。日本側の裁判対象を拡大する。

日米両政府は数か月以内に、詳細を定めた文書をまとめる。日本側は、拘束力のある補足協定などの形式の文書にしたいという。実効性を持たせることが大切だ。

沖縄県内では、日米地位協定の抜本改定を求める声が根強い。

ただ、現状でも、殺人、婦女暴行など凶悪事件に関しては、起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的考慮」を払う仕組みである。

日本の警察や検察、裁判所が権限を適切に行使できるルールの確立が優先されるのではないか。

女性殺害事件後も、沖縄で米軍関係者が酒酔い運転容疑などで逮捕される事件が相次いでいる。

米軍は一時的に飲酒禁止令を出すなどしたが、効果は限定的だ。綱紀粛正の教育や研修の徹底を重ねて強く求めたい。

重要なのは、沖縄の過重な基地負担を着実に軽減することだ。

在日米軍が先月下旬、沖縄の米軍専用施設の数は全国比で39%に過ぎないとネット上で指摘した。沖縄県の翁長雄志知事は「ねじまげたのは残念だ」と反発した。

米軍専用施設に限れば、面積の全国比は74%に上り、この数字が長年、沖縄への基地集中を象徴すると喧伝けんでんされてきた。

だが、小松基地、東富士・北富士演習場など、米軍と自衛隊の共用施設を含めると、沖縄の施設の面積は22%にとどまる。統計次第で、その印象は大きく変わる。

日米合意に基づき、県内最大の米軍施設である北部訓練場の一部の返還が実現すれば、県内の米軍施設の総面積は2割も減る。

さらに、普天間飛行場を含め、人口が多い県南部の米軍施設の返還が進めば、県民は負担軽減を一段と実感できよう。

一連の施設返還計画を実行に移す際に、沖縄県が果たすべき役割は大きい。翁長氏には、積極的に政府と協調してもらいたい。

産経新聞 2016年07月06日

地位協定の明確化 米軍は一層の綱紀粛正を

沖縄県うるま市で海兵隊出身の米軍属が起こした女性暴行殺害事件に対する県民の怒りは強い。事件は残虐極まりなく、県民の怒りは当然だ。

事件への対応を協議してきた日米両政府は、在日米軍に関する地位協定上の軍属の範囲を実質的に縮小することや、米軍人と軍属への教育研修の強化で合意した。

犯罪抑止の効果が期待される。細部の交渉を進め、早期の運用開始に努めてほしい。県民の信用を取り戻し、日米同盟が揺らぐ事態は避けなくてはならない。

公務中の場合、地位協定が米側に優先的な裁判権を認めている軍属の範囲はこれまで曖昧だった。これを高度な知識をもつ技術者など4分類に限ることで、日本の裁判対象を広げる狙いがある。

ドーラン在日米軍司令官は会見で「米軍人、軍属、家族、契約業者、従業員に犯罪は一つも許さないと確実に理解してもらう」と述べた。言葉通りの努力を望むが、4日には同県北谷町で米空軍下士官が酒気帯び運転容疑で逮捕された。一層の綱紀粛正を求める。

ただ、事件に怒り、憂えているのは県民ばかりではない。

米軍基地の軍人や家族の多くが炎天下の沿道に立ち、「沖縄とともに悲しんでいます」「沖縄のためにお祈りしています」と記したプラカードを掲げ、行き交う車に頭を下げ続けた。

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