電力株主総会 原発頼みで展望あるか

朝日新聞 2016年06月27日

電力株主総会 原発頼みで展望あるか

原発を持つ電力大手9社があす一斉に株主総会を開く。株主から70件を超す議案が出され、大部分が脱原発を促す内容だが、9社の経営陣はことごとく否決に持ち込む構えだ。

国が原発を重要なベースロード電源と位置づけ、30年度の比率を20~22%にすると言っている。原発は経済性にも優れる。だから安全確保を大前提に原発を再稼働していきたい――。経営陣の主張はおおむね同じだ。

だが、東京電力福島第一原発事故を経験したわが国で、原発を動かすことは格段に難しくなった。経営環境の激変を率直に受け止め、乗り切るための長期展望を示すのが経営陣の務めだ。しかも電力小売りが全面自由化された時代に、「とにかく再稼働を」と繰り返すだけで、株主の信頼は得られるか。

現状を改めて直視すべきだ。事故後から5年余り、全国の原発はほとんど動かせなかった。

昨年、九州電力川内原発1、2号機が新規制基準のもとで初めて動き出した。だが今年1~2月に再稼働した関西電力高浜原発3、4号機は3月、大津地裁の仮処分決定で運転の差し止めを命じられた。

原発の運転を禁じる司法判断は事故後もう3件目だ。住民が裁判所に判断を求める動きは各地で相次ぎ、「司法リスク」は高まっている。原発はますます思惑通りに動かせない電源となってきている。

電力会社はそれでも原発に頼る姿勢を変えようとしない。

関電は運転開始から40年を超す3基もさらに20年延長して動かす方針を打ち出した。だが、原発を動かし続けるなら必須となる使用済み核燃料の中間貯蔵施設はいっこうに建設のめどが立たない。経営陣は原発の建て替えや新増設への意欲は強調するが、具体的な計画は「国の方針が出た後に」とお茶を濁す。責任感や主体性を感じ取るのは難しいと言うしかない。

関電の大株主である大阪市は今年も議案を出した。将来の原発廃止まで、必要最低限の再稼働は認めるものの、万全の安全対策や使用済み核燃料の処分方法の確立を会社に義務づけることを提案している。

「事故時の住民避難計画を検証する委員会を設ける」「希望する周辺自治体すべてと安全協定を結ぶ」。ほかの株主提案にも、原発依存からの脱却をはかるうえで、傾聴に値するアイデアがいくつもある。

株主の声に耳を傾け、原発に頼らない未来を切り開く道筋をともに探る。そういう姿勢を電力会社の経営陣に望みたい。

読売新聞 2016年06月30日

株主総会 企業統治に向ける目は厳しい

企業価値の向上に対する株主の目は、厳しさを増している。各企業は、収益力強化の前提となる統治体制(ガバナンス)の確立に一層取り組まなければならない。

3月期決算の上場企業の株主総会が山場を迎えた。集中日の29日に総会を開いた企業の割合は、過去最低の3割だった。

9割超の上場企業の総会が特定の日に集中していた1990年代と比べると、様変わりした。総会屋の活動が沈静化してきたことなどが、分散化の要因だろう。

株主は総会屋に煩わされず、社長から経営方針を聞くことができる。複数社の株主が各総会で議決権を行使する機会が増える。分散化は歓迎すべき傾向だ。

東京証券取引所と金融庁が定めた企業統治指針が導入されて、2年目となる。

指針は、ガバナンスの強化策として、73項目の順守を求めている。外部の目で経営を監視する社外取締役の積極活用や投資家との対話の充実などだ。

東証1部上場企業で、独立した社外取締役を選任した社は9割超に上る。2人以上を配置する社も8割にまで増えた。指針導入には一定の効果があったと言える。

取引先の株を保有する「持ち合い株式」の実施理由を開示している企業は9割に達する。収益向上に結び付かない株式をなれ合いで保有していないか、といった点を厳しくチェックするのも、社外取締役の重要な役割である。

不適切会計で歴代3社長が退任した東芝では、5人の社外取締役で構成する指名委員会が決めた綱川智社長らの新経営陣が承認された。指名委は外部登用も含めて検討し、トップにふさわしい人材として社内から選出したという。

社外取締役が人事を主導することにより、経営改革を成し得るかどうか、注目したい。

三菱自動車は、三菱グループなどから4人の社外取締役を招いている。燃費偽装の発覚前には「経営監視は十分機能している」と主張していたが、長年にわたる不正が見逃されていた。社外取締役が機能しなかった典型例だ。

経営陣は法令順守を徹底して事業を遂行する。社外取締役は暴走に歯止めをかける。こうしたガバナンスの確立が欠かせない。

マザーズなど新興市場の上場企業では、2人以上の社外取締役の選任比率が3割程度にとどまる。経営陣に対し、的確に助言できる人材をどう確保するか。経済界全体で取り組むべき課題である。

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