企業価値の向上に対する株主の目は、厳しさを増している。各企業は、収益力強化の前提となる統治体制(ガバナンス)の確立に一層取り組まなければならない。
3月期決算の上場企業の株主総会が山場を迎えた。集中日の29日に総会を開いた企業の割合は、過去最低の3割だった。
9割超の上場企業の総会が特定の日に集中していた1990年代と比べると、様変わりした。総会屋の活動が沈静化してきたことなどが、分散化の要因だろう。
株主は総会屋に煩わされず、社長から経営方針を聞くことができる。複数社の株主が各総会で議決権を行使する機会が増える。分散化は歓迎すべき傾向だ。
東京証券取引所と金融庁が定めた企業統治指針が導入されて、2年目となる。
指針は、ガバナンスの強化策として、73項目の順守を求めている。外部の目で経営を監視する社外取締役の積極活用や投資家との対話の充実などだ。
東証1部上場企業で、独立した社外取締役を選任した社は9割超に上る。2人以上を配置する社も8割にまで増えた。指針導入には一定の効果があったと言える。
取引先の株を保有する「持ち合い株式」の実施理由を開示している企業は9割に達する。収益向上に結び付かない株式をなれ合いで保有していないか、といった点を厳しくチェックするのも、社外取締役の重要な役割である。
不適切会計で歴代3社長が退任した東芝では、5人の社外取締役で構成する指名委員会が決めた綱川智社長らの新経営陣が承認された。指名委は外部登用も含めて検討し、トップにふさわしい人材として社内から選出したという。
社外取締役が人事を主導することにより、経営改革を成し得るかどうか、注目したい。
三菱自動車は、三菱グループなどから4人の社外取締役を招いている。燃費偽装の発覚前には「経営監視は十分機能している」と主張していたが、長年にわたる不正が見逃されていた。社外取締役が機能しなかった典型例だ。
経営陣は法令順守を徹底して事業を遂行する。社外取締役は暴走に歯止めをかける。こうしたガバナンスの確立が欠かせない。
マザーズなど新興市場の上場企業では、2人以上の社外取締役の選任比率が3割程度にとどまる。経営陣に対し、的確に助言できる人材をどう確保するか。経済界全体で取り組むべき課題である。
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