鳩山政権は、きのう閣議決定した地球温暖化対策基本法案の中で、原子力発電を推進していく姿勢を明確に打ち出した。
主要国が温室効果ガス削減の野心的な目標に合意した場合、日本も2020年に1990年比で25%削減することになる。そのために原発の新設を進め、低迷している原発の稼働率を諸外国なみに引き上げる考えのようだ。
発電の際に温室効果ガスを出さない原発の活用も必要だが、その負の側面から目をそらしてはならない。
なによりもまず、事故やトラブルのリスクがある。
原発の稼働率を上げようとすれば、定期検査の間隔を長くしたり、運転しながらメンテナンスしたりすることが必要になる。効率を重視するあまり、安全意識が後退することがあってはならない。
ましてや、日本の原発は本格的な高齢化時代を迎えている。
14日には、福井県敦賀市にある日本原子力発電・敦賀原発1号機が国内で初めて40歳になる。ほかにも17基が、これから10年のうちに相次いで運転開始から40年を超える。人間が年齢を重ねるにつれて細心の健康管理が必要になるように、古い原発の安全管理には格段の慎重さが不可欠だ。
放射性廃棄物という、もう一つの負の側面も見過ごせない。
特に高レベル廃棄物をどう最終処分するのかは道筋が見えていない。現状のまま温暖化防止のため原発を増やせば、行き場のない廃棄物が増える。一つの環境問題への対応で、別の環境問題を深刻化させてはなるまい。
原発の増設については、温室ガス削減目標だけをにらんだ数字合わせでなく、冷静な判断が求められる。
そもそも、原発を新規に立地しようにも、昨今は地元の理解を得るのが難しい。政府は京都議定書ができたのを受けて原発の発電量を大幅に増やす方針を示していたが、思うように進んでいないのが現状だ。
今後、省エネや人口減少で電力消費が減れば、現状のままでも原子力への依存度が相対的に高まる。原発を増やすのではなく、廃炉する老朽化原発を置き換える程度に抑えるべきだ。そうすれば、より安全確保に集中でき、廃棄物の増加に歯止めをかけられる。
また、1カ所で大量の発電をする原発に寄りかかりすぎると、分散型電源である太陽光や風力などによる発電を拡大する動きが鈍る。自然エネルギー関連産業の国際競争は日に日に激化しており、原発推進が日本の競争力を弱めるようでは、環境と経済の両立はおぼつかなくなる。
いまの日本に必要なのは、無理のない、安心できる原子力利用の長期的な戦略である。
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