高浜20年延長 再稼働へのハードルを越えよ

朝日新聞 2016年06月21日

原発40年規制 運転延長に反対する

運転開始から40年を超えた関西電力高浜原発1、2号機(福井県)について、原子力規制委員会が運転延長を認可した。関電は安全対策工事をしたうえで、2019年秋以降の再稼働をめざす方針だ。

東京電力福島第一原発の事故を経て、朝日新聞は社説で20~30年後の「原発ゼロ社会」を主張してきた。当面どうしても必要な原発の稼働は認めつつ、危険度の高い原発や古い原発から閉じていくという意見である。

このままでは、利益をあげられると電力会社が判断した原発について、次々と運転延長が認められかねない。今回の認可に反対する。

まずは規制委である。

難題とされた電気ケーブルの火災対策で、燃えにくいケーブルへの交換が難しい部分は防火シートで覆う関電の方針を受け入れた。運転延長後の耐震性を推定するために格納容器内の重要機器を実際に揺らす試験も、対策工事後に回して認可した。

「1回だけ、最長20年」という運転延長規定は、電力不足などに備えるために設けられた。規制委も「極めて例外的」「(認可は)相当困難」と説明していたのではなかったか。

より大きな問題は、安倍政権の原発への姿勢である。

法律を改正し「原発の運転期間は40年」と明記したのは民主党政権のときだった。福島の事故を受け、国民の多くが「原発への依存度を下げていく」という方向で一致していたからだ。

安倍政権も、発足当時は「原発依存度を可能な限り低減する」と繰り返していた。しかし、なし崩し的に原発温存へとかじを切り、基幹エネルギーの一つに位置づけた。

「規制委が安全と判断した原発は再稼働していく」。これが最近の政権の決まり文句だ。

その規制委は個別原発の安全審査が役割だと強調する。避難計画が十分かどうかは審査の対象外だし、高浜原発がある福井県のような集中立地の是非も正面から議論はしていない。

高浜原発を巡っては今年3月、再稼働したばかりの3、4号機について、大津地裁が運転差し止めの仮処分決定を出した。決定の根底には、原子力行政を専門家任せにしてきたことが福島の事故につながったとの反省がある。

「原発40年」の法改正は民自公の3党合意に基づく。規制委によりかかりながら、原発依存度低減という国民への約束をなかったことにするのは許されない。政権は40年ルールへの考え方をきちんと説明するべきだ。

読売新聞 2016年06月21日

高浜20年延長 再稼働へのハードルを越えよ

原子力発電を日本の主要エネルギー源として活用していくために、重要な一歩と言えよう。

営業運転の開始から40年を超えた関西電力高浜原子力発電所1、2号機について、原子力規制委員会が20年間の運転延長を認可した。

福島第一原発事故後に厳格化された新規制制度は、原発の運転期間を40年に制限し、例外的に最長20年間の延長を認めている。今回、それが初めて適用された。

40年超の原発でも、安全を確認して稼働させれば、電力の安定供給上、大いに有益である。

ただし、老朽原発の再稼働は容易ではない。関電は着実にハードルを越える必要がある。

最大の関門は、設備やシステムの改修だ。全長約1300キロ・メートルのケーブルの6割を難燃性に取り換える。残る部分も防火シートで巻くといった措置を施す。

重大事故に備え、格納容器上部に、コンクリート製の強固な覆いを建設する工事も待ち受ける。中央制御室では、安全確保の要となる制御盤を最新のタイプに更新する。複雑な制御システムを確実に機能させねばならない。

関電は、2019年秋に工事を終え、再稼働を目指す。規制委は工事の進展に合わせて、厳格な検査を実施する。格納容器内の主要設備の一部は、実際に揺さぶり、耐震性能を確認するという。

地元の理解を得ることも、再稼働に欠かせない条件である。関電は、工事内容や再稼働の必要性を丁寧に説明せねばならない。

工事には、2000億円を超える巨費を要するが、再稼働にこぎ着けられれば、1か月で90億円の収益改善につながる見通しだ。

関電は、一連の手続きを円滑に進め、今後も続く原発の長期運転のモデルとしてもらいたい。

規制委にも、審査の効率化が求められる。制度の仕組み自体を見直すことも大切だ。

電力会社が時間的余裕を持って運転延長を申請しようにも、現行では申請時期が限られている。さらに、運転開始後40年の日までに審査が未了だと、廃炉になる。

当然ながら、審査スケジュールは綱渡りになる。他の審査にもしわ寄せが出る。今回も、他の原発の再稼働審査が滞っている。

40年で運転を制限することが科学的に妥当かどうか、という根本的な問題も残っている。

政府は、30年度の原発比率として20~22%の目標を掲げる。その達成には、運転延長だけでなく、原発の新増設も検討すべきだ。

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