アベノミクス 成長力高める道筋を明示せよ

読売新聞 2016年06月18日

アベノミクス 成長力高める道筋を明示せよ

◆財政健全化の論議も深めたい◆

デフレを脱却し、安定的な成長軌道に乗ることができるか。日本経済は正念場を迎えている。

22日に公示される参院選で、各政党は、経済再生に向けて、実効性のある処方箋を有権者に示し、深みのある論戦を展開してもらいたい。

最大の争点は、安倍政権が3年半続けてきた経済政策「アベノミクス」の是非である。

◆好循環をどう実現する

安倍首相は街頭演説で「雇用は110万人増え、有効求人倍率は24年ぶりの高水準だ」と述べ、アベノミクスの成果を強調する。

民進党の岡田代表は「アベノミクスは限界に突き当たっている。国民の大半は景気回復を実感していない」と反論している。

アベノミクスは、日本銀行による大胆な金融緩和、機動的な財政出動によって時間を稼ぎ、その間に成長戦略を実行し、潜在成長率を高めようという経済政策だ。

金融緩和と財政出動によって円安と株高が実現して、企業業績が大幅に回復したことは間違いない。

反面、設備投資や個人消費の活性化にはつながらず、首相の目指す「経済の好循環」はいまだ着火していない。肝心の成長戦略も道半ばにある。

自民党は公約に、「アベノミクスのエンジンを最大限にふかす」と明記した。人工知能(AI)を活用した生産性向上や、訪日外国人を2020年に4000万人へ倍増させる施策などを並べた。

国内総生産(GDP)を戦後最大の600兆円に増やし、経済のパイを拡大するという。

しかし、企業の内部留保や家計の貯蓄をどう活用し、経済の好循環を回すのか。その方策にはほとんど言及がない。

民間の力を引き出す規制緩和についても、「終わりなき規制改革を断行する」と記述するだけで、具体策は示されていない。政権党の公約として物足りない。

◆「分配」の偏重は危うい

農業、医療といった成長分野への企業参入を阻む規制の緩和、脱時間給制度の導入など、取り組むべき課題は多い。

自民党は、参院選の論戦を通じて、こうしたアベノミクスの補強策を提示すべきだ。

与党の公明党は、消費マインドを喚起するためとして、プレミアム付き商品券と旅行券の発行を公約に掲げている。

一時的な景気のカンフル剤にはなっても、持続的に個人消費を押し上げることは難しい。費用対効果を吟味し、より有効な財政政策を追求する必要がある。

民進党は公約で「分配と成長の両立」を目指す方針を掲げた。

「人への投資」として、保育士の月給5万円引き上げ、低年金者の年金の最大年6万円増額なども盛り込んだ。一方で、富裕層に対する所得増税を打ち出した。

分配政策を強化し、所得格差を是正することを通じて、個人消費の底上げを図れば、成長できるという考え方である。

だが、過度に分配を重視すれば、バラマキに陥る。本来、まず成長を実現してこそ、分配の原資を確保できるのではないか。

安易な所得課税の強化は、勤労者の努力や創意工夫の意欲を減退させ、経済の活性化に逆効果となる懸念が拭えない。

民進党と本格的な選挙協力を行う共産党は、消費増税について、政府に「先送り」でなく「断念」を求めた。高齢化に伴い膨張し続ける社会保障費の削減を中止し、拡充に転換するとも主張する。

そのため、研究開発減税や連結納税制度などを大企業への「優遇税制」と批判し、抜本的に見直すという。日本企業の国際競争力を低下させ、結果的に経済成長を阻害することが強く懸念される。

◆将来不安の解消を図れ

消費増税の延期自体は、現在の国内外の厳しい経済情勢を勘案すれば、やむを得まい。

個人消費が低迷し、貯蓄が増えているのは、社会保障制度の持続可能性を含め、日本の将来への不安に起因する面がある。

こうした心配を払拭するには、国と地方の借金が1000兆円を超し、先進国で最悪の状況にある財政の健全化が欠かせない。

自民、民進両党は、ともに20年度に基礎的財政収支を黒字化する目標を堅持するとしている。

消費増税を延期しながら、財政再建目標を達成するのは本来、極めて難しいはずだ。代替財源をどう確保し、歳出削減をいかに図るのか。各党は、その具体策をきちんと提示すべきだ。

産経新聞 2016年06月20日

アベノミクス 現実直視し再生の道筋を 野党は効果的な代替案を示せ

安倍晋三首相が消費税増税の再延期に伴って「国民の信を問いたい」と語った参院選は、政権の経済政策のあり方を根本から論じ合う大きな機会である。

いまだ経済に力強さがみられぬ中で、政権与党はいかに政策を強化するのか。アベノミクスが失敗だという野党は効果的な代替案を持つのか。その具体策で議論が深まらなければ、デフレからの脱却は見通せない。

問われるべきは、社会保障の負担増や痛みの伴う改革から目をそむけず、経済再生への道筋を明確にできるかどうかである。

≪痛み伴う改革も論じよ≫

首相はテレビ討論で、脱デフレへの「前進か後退かを選択する選挙」とし、「政策のギアを2段も3段も引き上げたい」と訴えた。民進党の岡田克也代表は「アベノミクスは完全に壁にぶち当たっている」と対決姿勢を示した。

アベノミクスは、金融緩和と財政出動で景気を刺激している間に成長戦略で経済を底上げし、「失われた20年」といわれる長期停滞から抜け出す政策である。

これにより行き過ぎた円高が修正され、企業収益は過去最高となった。高水準の有効求人倍率などを含め、民主党政権を含む歴代政権が果たせなかった実績を挙げたのは間違いない。

ただ、個人消費は伸び悩み、企業の投資活動は物足りない。2%の物価上昇率目標の達成も先送りが続き、脱デフレは道半ばだ。経済の実力を示す潜在成長率も0%台にとどまったままである。

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