英国民投票 緊張を抑え熟慮のとき

朝日新聞 2016年06月18日

英国民投票 緊張を抑え熟慮のとき

英国はこれからも欧州の地域統合の流れの中を歩むのか、それとも離脱するのか。

その選択を下す国民投票が23日に迫るにつれ、英国の社会が不穏な空気に包まれてきた。両主張の間で、政治家だけでなく市民の対立も強まっている。

その状況下で痛ましい事件が起きた。下院議員がおととい、路上で銃撃され死亡した。

逮捕された男の動機などはまだ不明だ。国民投票との関連も捜査の結果を待つほかない。ただ背景が何であれ、国会議員の殺害という異常な事件が社会の緊張をいっそう高めている。

英政府は徹底した捜査による真相解明を急いでほしい。同時に、投票に向けた国民の冷静な行動と判断を促す環境づくりに全力を尽くしてもらいたい。

事件を受けて離脱派と残留派の双方はいったん、運動を自粛した。暴力を憎み、犠牲者を悼む思いは党派を問わず同じだろう。同時に、このまま対立が激化すれば過激な意見や行動が続発しかねない、との危惧を共有したともみられる。

英社会全体が落ち着きを取り戻すときだ。英国の将来のために、いま何が必要か、熟慮を深めてほしい。

英国は「現代の議会制民主主義発祥の地」と呼ばれ、多くの国に影響を与えてきた。議員は民主政治に直接かかわる存在であり、どんな事情であれ危害を加える行為は許されない。

今回の議員は労働党の所属で人権派として知られ、難民の権利を守る活動にも熱心だった。国民投票に向けては、EUにとどまるよう訴えていた。

残留派は、離脱にともなう経済見通しの不透明さを強調し、英国の権威も落ちると唱える。離脱派は、移民問題を主に取りあげ、英独自の政策で「主権を取り戻す」と主張している。

多くの先進国で経済格差が広がり、グローバル経済や難民・移民問題に怒る声は強まっている。他の欧州諸国や米国でも、国の対外的な門戸を絞ろうとする主張が勢いづいている。

だが、それは解決策にはなりえない。とりわけ統合の実績を積んできた欧州で、今から政治の思惑だけで歯車を逆に回そうとしても経済は元に戻らない。

すでに様々な市場は国民投票を心配し、動揺し始めている。英国とEUとは否応(いやおう)なく同舟の仲間であり、いずれかの混乱は双方の危機を意味する。

世界にとっても重大な投票である。あまりに対立感情が深まる中での判断は誰のためにもならない。今回の悲劇を機に、改めて英国民の熟考を求めたい。

産経新聞 2016年06月19日

英国民投票 離脱の損失は大き過ぎる

欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票を23日に控えた英国で、残留を訴える女性国会議員が射殺された。

容疑者の男は離脱支持派とみられ、犯行時に「ブリテン・ファースト(英国を優先しろ)」と叫んだという。

動機は依然、明確ではないが、いかなる理由であっても許されない凶行だ。

残留、離脱両派がともに支持呼びかけキャンペーンを一時、見合わせたことは、事件の衝撃の大きさを物語る。英国民には、改めて的確な判断を望みたい。

英国は伝統的に、EUと一定の距離を置こうとする世論の強い国だ。離脱派は、雇用を奪う外国人労働者流入を制限できると主張している。

しかし、EU離脱は、英国と欧州だけでなく、国際社会全体にも政治、経済両面で混乱を招くものである。

何より懸念されるのは、米国や日本とともに民主主義や自由、市場経済の価値観を共有し、国際秩序の担い手となってきたEUの弱体化である。

イラン核問題への対応やウクライナ問題での対露制裁では、米国とEUの連携がカギを握った。中東の内戦や過激主義のテロ拡散、難民問題への対処には、欧州の結束が必要とされている。

EUが米国と強い絆で結ばれた英国を失えば、外交・安全保障面での影響力は低下する。米英関係そのものにも大きな影を落とすだろう。

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