英国民投票 EU残留が世界的にも賢明だ

朝日新聞 2016年06月15日

英国民投票 欧州の中で歩む決断を

英国と欧州だけでなく、これからの世界の歩みに大きな影を落とすだろう。

英国で23日、欧州連合(EU)からの離脱か残留かを問う国民投票が実施される。

英国は、EUと距離を置こうとする世論が根強い国である。しかし、もし離脱となれば、英国の経済と世界の市場が大きく動揺するおそれが強い。

政治的な波紋ははかり知れない。難民問題やテロなど多くの課題を抱える欧州の結束にひびが入るのは間違いない。

EUの対外的な影響力がそがれ、国際社会で掲げてきた人権や民主主義、国際法による秩序にも影響を及ぼしかねない。

どの国であれEU離脱となれば、1950年代から続いてきた欧州の統合の流れが大きく後退することになる。

人や物の流れがますます国の垣根を越える時代に、一国に閉じこもろうとする動きが広がれば、地球規模の問題の解決はいっそう遠のくだろう。

英国は、国際協調を力強くリードすべき主要国の一つであり、結束に背を向けて単独行動に走る国であってはなるまい。EUに残留する道を選んでもらいたい。

英国は欧州各国とたもとを分かつのでなく、欧州の一員として歩み、協力を進めつつ、自国の繁栄の道を探ってほしい。

これまでの世論調査では、残留を望む声がおおむね優位だった。しかし、ここ何週間か離脱派が追い上げている。

その背景にある大きな理由の一つは移民の問題だという。EUの政策に縛られず、独自に移民の流入を絞る道を探るべきだという声が強まっている。

米国のトランプ現象や欧州各国での右翼の伸長など、国を閉ざそうという内向きの意識は、世界に広がっている。英国の世論も、そんな風潮に流されているようだ。

しかし、立ち止まって考えてほしい。英国が大戦後の長い国勢の衰退から脱し、いまの繁栄を築いたのは、国を開き、グローバル経済の恩恵を受けてこそだった。そんな現実をいまさら転換しようがないだろう。

懸念されるのは、英国内での議論が経済や移民など一部に集中し、大局的な論議があまり大きく聞こえてこないことだ。

欧州大陸とどんな関係を維持すべきか。その問いは、文明史的な視野の中で長い時間をかけて議論を重ね、国民のコンセンサスを築く性格のものである。

英国と世界の未来のために、冷静な判断にもとづく決定を、英国民に期待したい。

読売新聞 2016年06月12日

英国民投票 EU残留が世界的にも賢明だ

欧州連合(EU)に残留するか、離脱するか。英国の国民投票が23日に行われる。

英国と欧州の針路を左右する重大な選択だ。世論調査では、残留派と離脱派が拮抗きっこうしている。英国民が残留を勝ち取ることを期待したい。

離脱が決まれば、世界的な金融市場の動揺など経済の波乱要因となる。アジア欧州会議(ASEM)財務相会合で、「世界経済の状況を複雑化させている」といった懸念が示されたのは当然だろう。

英国民投票の主要な争点は「経済」と「移民」である。

英国政府は、離脱決定なら、「景気が後退して失業が増える」とする予測を公表した。残留派を率いるキャメロン首相は「経済的な自傷行為だ」と警告する。

EUとの間で、貿易や投資のルールに関して新たに協議を行う必要が生じ、英国経済の前途が不透明になるのは避けられまい。

激しい論戦が続く中、キャメロン氏は、英国中部にある日立製作所の鉄道車両工場を訪れた。EUに残留すれば、外国から更なる投資を呼び込めると語った。

日本など外国企業が英国に投資する理由は、5億人を抱えるEU市場進出の拠点を築くためだ。製造業、金融を問わず、英国でEUのルールが通用していることが事業展開の前提にほかならない。

安倍首相は5月の訪英時に、こうした事情を踏まえ、EU残留が望ましいと伝えている。

一方、離脱派は、EU脱退で「移民流入を制限できるようになる」と主張する。EUにとどまる限り、他の加盟国からの移民を拒めないからだ。外国人労働者の増加により、雇用や福祉を脅かされると訴える作戦に出ている。

英国が離脱すれば、EUも計り知れない打撃を受けよう。

欧州は、難民の大量流入に直面し、反難民・移民を唱えるEU懐疑派政党が各地で伸長している。英国が離脱を決めれば、その勢いに拍車がかかり、EUの求心力低下につながりかねない。

イラン核問題への対処やウクライナ問題での対ロシア制裁は、米欧の連携が主軸となった。歴史的に米国と絆が強い英国を失えば、EUは、外交・安全保障面でも影響力が弱まるのではないか。

オバマ米大統領も「英国は強い欧州を先導してこそ本領を発揮する」と強調し、残留を求めた。

EUは、民主主義や自由などの価値観と市場経済に基づく国際秩序の担い手である。その安定が揺らぐ事態は避けねばならない。

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