ニホニウム 新元素にふさわしい命名だ

読売新聞 2016年06月10日

ニホニウム 新元素にふさわしい命名だ

国内で作り出した元素にふさわしい名称だ。日本の科学界の悲願達成を喜びたい。

理化学研究所が合成に成功した原子番号113の新元素について、化学者の国際組織「国際純正・応用化学連合(IUPAC)」が、「ニホニウム」とする名称案を発表した。

命名権を与えられた理研が提案していた。5か月の意見募集期間を経て、正式決定される。

新元素の確認は、欧米以外では初の快挙である。研究チームを率いた森田浩介・九州大教授は「基礎科学が、日本の国民の皆さんに支えられていることを示したかった」と命名の理由を語った。

元素は、あらゆる物の基になっている。その多くは、宇宙の誕生や星の爆発などの際に生まれた。身の回りにある物質は、酸素や水素、炭素、鉄といった元素が結び付いて形作られている。

自然界に存在する約90の元素は発見済みだ。新元素を作り出すには、高性能の加速器などを使って既存の元素同士を衝突させ、合体させる必要がある。

各国の科学者は、威信をかけて実験にしのぎを削る。ニホニウムの生成は、日本の総合的な基礎科学力が世界水準にあることを改めて証明したと言えよう。

森田教授らは、2003年に合成実験を開始した。陽子数30個の亜鉛と83個のビスマスを高速でぶつけ、翌年、113個の陽子を持つ原子の合成に成功した。

衝突させた回数は、400兆回にも及ぶ。チームの粘り強いチャレンジ精神は見事だ。

ニホニウムの寿命は、1000分の2秒に過ぎない。米露チームも別の元素の合成過程で見つけたと主張したが、理研は12年までに計3回、合成に成功した。元素が壊れる過程も詳細に観測し、命名権をものにした。

森田教授は、原子核を扱う分野で成果を上げることで、科学の信頼回復の一助になりたい、と強調する。東京電力福島第一原発事故で、科学技術への不信感が広がったことが背景にある。

培ってきた関連技術は、核廃棄物中の放射性物質を、より有害性の低い元素に変換する研究などに応用できるだろう。

理研は今後、119番や120番元素の合成にも挑戦する。今回の成果を弾みとしたい。

ニホニウムは、理科の教科書などの周期表に掲載される。新元素を誇りに思い、理科に興味を持つ子供たちが増える。それが日本の科学界の発展につながる。

産経新聞 2016年06月11日

ニホニウム 基礎科学の挑戦支えたい

世界地図を広げたとき、まず最初に自分の国を確かめるように、元素の周期表を目にした日本の子供たちは113番元素を確認するだろう。

理化学研究所のチームが合成に成功し、命名権を得た新元素の名称を「ニホニウム」とする案が公表された。

周期表は、物質の性質や反応を探究する化学における世界地図に相当する。その中に、日本発の名前があることは、子供たちに誇らしい気持ちを抱かせ、自然科学に関心を寄せるきっかけにもなるだろう。

国民が広く親しみ、誇りを持てる名称を提案した理研チームに敬意を表したい。

チームを牽引(けんいん)した森田浩介さん(九州大教授)は「研究が国民の皆さまに支えられていることへの感謝の気持ち」を、名称案に込めたという。

ニホニウムは1000分の2秒で別の物質に変わるので、実生活に役立つ見込みはない。だが、日本の存在感を高め、科学技術立国の将来を担う人材育成にも寄与することの意義は計り知れない。

基礎科学の研究は、多くの場合が長い年月を要し、巨額の費用がかかる分野もある。ニホニウムの合成も、9年間に400兆回も元素を衝突させて成功は3回。その間、7年も成果を出せない時期があった。

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