慰安婦問題 合意の意義かみしめて

朝日新聞 2016年06月05日

慰安婦問題 合意の意義かみしめて

日韓両政府による慰安婦問題での合意を受け、韓国政府は、元慰安婦らへの支援にあたる財団の準備委員会を立ち上げた。月内の正式発足をめざす。

財団の設立は、合意の一つの核心だ。岸田外相は合意後、財団について「両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行う」と述べた。両政府は共に、この目的を忘れることなく進めてほしい。

昨年12月の合意から時間が経つにつれ、日韓双方の一部で、勝手な解釈や言説が飛び交っていることは残念だ。

財団には日本政府が10億円を出す。その支出は、ソウルの日本大使館前に立つ少女像の移転が前提条件だ、との指摘が自民党などから出ている。

合意では、韓国政府が関連団体と協議し、移転されるよう努力することになっているが、財団への支出とは別問題だ。日本側から二つの問題を結びつける声が強まるほど韓国の世論は硬化し、移転は難しくなる。

一方、韓国では、10億円は日本政府が責任を認めた「賠償」かどうかをめぐる議論が出ている。その論点に固執することは合意の進展に役立たない。

これまで責任問題については、日韓請求権協定で「法的に解決済み」とする日本側と、慰安婦問題など人権問題は協定の対象外とする韓国側が対立してきた。だが、違いをことさら際立たせるのではなく、被害者の救済に光をあてたのが今回の合意である。

日本政府は軍の関与を認め、安倍首相が謝罪と反省の気持ちを表明し、国家予算からお金を出す。法的責任や賠償という言葉はないが、中身で誠意を示すという知恵をこらしたのだ。

そんな中、日中韓の民間団体などが、慰安婦に関する資料をユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界記憶遺産に登録するよう申請した。

合意の精神に沿って、韓国政府はこうした活動への関与は、当然控えるべきである。

一方、日本政府は登録阻止に動いている。歴史を政治利用する動きであれば目を光らせるべきだが、慰安婦が存在したことは事実だ。国際社会から史実の否定ととられるようでは、日本にとってマイナスとなろう。

合意に基づく日韓の共同作業が被害者の救済に結実すれば、負の歴史を乗り越える有効な和解の営みとして、民間団体や国際社会も理解を深めるはずだ。

日韓両政府は合意の意義をいま一度かみしめ、履行の努力を強めるべきである。

読売新聞 2016年06月07日

韓国慰安婦財団 合意履行へ国民の理解求めよ

慰安婦問題を巡る昨年末の日韓合意の履行に向けて、一歩前進したと言えよう。朴槿恵政権の取り組みを見守りたい。

元慰安婦を合意に基づいて支援する財団の設立準備委員会が韓国で発足した。

韓国政府が設立する財団に、日本政府が10億円を拠出する。「元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やし」が事業目的とされる。その合意の趣旨を体現した財団となることが求められる。

準備委は、女性問題専門家の金兌玄・誠信女子大名誉教授が委員長を務め、柳明桓元外相、日本研究者ら計11人で構成される。元慰安婦支援の計画をまとめ、今月中にも財団が設立される運びだ。

金委員長は記者会見で、「被害者(元慰安婦)の痛みに心から共感し、応えたい」と述べた。元慰安婦の意向を尊重して活動を進める方針を強調している。

準備委発足までに5か月以上かかった。4月の総選挙で慰安婦問題が争点となり、野党から攻撃されるのを避けたいとの判断が、朴政権にあったためだろう。

総選挙で与党が大敗したことから、朴大統領の政権運営への圧力が高まっている。

第1党となった左派野党「共に民主党」は日韓合意について、日本の法的責任の認定がない点などを批判し、再交渉を主張する。元慰安婦の支援団体も、準備委発足に強く反発している。

気がかりなのは、国民の理解が十分に得られていない状況だ。読売新聞と韓国日報の共同世論調査では、合意を「評価しない」とする人が韓国で73%に上った。

合意は日韓双方が歩み寄った成果であり、停滞していた日韓関係を改善する契機となったのは間違いない。朴政権が元慰安婦との面談を進める中で、合意に肯定的な反応が増えているという。

存命している元慰安婦は合意時に46人だったが、その後、4人が亡くなった。支援事業のこれ以上の遅滞は許されまい。

朴政権は合意の意義について、粘り強く国民に理解を求め、財団が円滑に活動できるよう努めることが欠かせない。

日本側が撤去を求めるソウルの日本大使館前の少女像について、韓国側は「適切に解決されるよう努力する」と約束している。

大使館の安寧や威厳の維持に関わる重大な問題であるのを忘れてはならない。少女像を設置した団体などは撤去に反対するが、朴政権は合意履行の進展に伴い、撤去へ誘導していくことも大切だ。

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