南シナ海と中国 孤立への道から引き返せ

朝日新聞 2016年06月07日

南シナ海問題 中国は国際法の順守を

南シナ海の緊張はいつか重大な危機に陥りかねない。日米中などの防衛当局幹部がシンガポールに集ったアジア安全保障会議は、そんな印象を強めた。

米中高官の演説などの発言は互いへの非難に終始し、深刻な対立ぶりを浮き彫りにした。

中国による海域での拠点作りについてカーター米国防長官は「かつてない拡張的な行動」と批判。中国軍の孫建国・連合参謀部副参謀長は「少数の国が混乱を起こすのを座視しない」と米の介入への反論を掲げた。

明白なのは、いまの南シナ海問題の原因は中国にあるということだ。いくら既成事実を積み重ねても、一方的な現状変更の正当化はできない。国際社会のその認識を、中国の習近平(シーチンピン)政権は軽視するべきではない。

中国がいう南シナ海での「歴史的権利」は、海域全体を自国の内海と言っているに等しい。岩礁を埋め立てて滑走路を建設するような行動は、中国が唱える平和的な解決に反している。

最近は、フィリピン・ルソン島西方のスカボロー礁(黄岩島)でも、中国による拠点化の兆しがある。4年前に中国とフィリピンがにらみ合った末、中国が実効支配した環礁だ。

パラセル(西沙)、スプラトリー(南沙)諸島とあわせ、中国軍が南シナ海の要衝を制することになりかねない。カーター長官が対中非難のトーンを上げたのは、このためだ。

スカボロー礁問題を機にフィリピン政府は、オランダにある常設仲裁裁判所に仲裁手続きを求めた。その結論が近く出るが、孫副参謀長はどんな判断も受け入れない旨を明言した。

この仲裁は、中国も締約国に含む国連海洋法条約に基づく手続きだ。紛争を平和的に解決するための国際ルールを拒絶すれば、中国は「法の支配」の原則に背を向けることになる。

国際秩序に挑む中国の利己的な動きが強まれば、カーター長官が指摘したとおり、中国自らが孤立の道をたどる。それは軍事的にも経済的にも、世界がいっそう不安定化の難局に陥ることを意味する。

先月は中国の戦闘機が米偵察機に15メートルまで異常接近したと伝えられる。いつでも不慮の衝突がおきる恐れがぬぐえない。

米中両政府はきょうまで、戦略・経済対話で広く懸案を話しあう。中国を説得し、南シナ海の安定化を探る作業は、米国だけでなく関係国すべての工夫と努力が試される難題だ。

日本も地域の信頼醸成を後押しする創意の外交をもっと発揮できないものだろうか。

読売新聞 2016年06月08日

米中戦略対話 南シナ海安定に責任を果たせ

南シナ海の軍事拠点化を加速させ、人権問題や貿易でも独善的な言動を繰り広げる。

アジアの平和と世界経済の安定を保つには、そんな中国に、国際ルールを順守し、大国の責任を果たすよう米国が促し続けることが欠かせない。

第8回米中戦略・経済対話が北京で行われ、閣僚級が2日間、幅広い課題を巡って協議した。

南シナ海問題について、ケリー米国務長官は「一方的な行動ではなく、法の支配や外交を通じて解決すべきだ」と述べ、国際法に基づく海洋秩序の維持を訴えた。

中国の楊潔●国務委員は、「国家の主権と領土を断固守る」と語った。習近平国家主席も「すぐに解決できない対立もある」と強調し、議論は平行線をたどった。(●は竹かんむりの下にがんだれと虎)

習政権は、既に造成した人工島に加え、フィリピンに近いスカボロー礁でも埋め立てを検討しているとみられる。滑走路やレーダー網を整備し、防空識別圏の設定につなげる思惑があるのだろう。

フィリピンが中国の領有権主張を国際法違反と提訴したオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は、月内にも判断を下す見通しだ。

楊氏は、仲裁裁の結果を受け入れない考えを改めて示した。国際社会で孤立することも辞さないと言うのか。「法の支配」に背を向ける姿は、「中国異質論」に拍車をかけるだけである。

ケリー氏は中国の人権状況を問題視する意向を伝えた。習政権は4月に、国内で活動する外国の非政府組織(NGO)を公安当局の管理下に置く法律を制定している。中国が「国情」を盾に人権を抑圧する事態は看過できない。

経済分野で懸念されるのは、鉄鋼などの過剰生産に象徴される中国の構造改革の遅れだ。ルー米財務長官は「世界市場をゆがめ、悪影響を及ぼす」と語り、鉄鋼やアルミニウムの減産を要請した。

不当廉売を招く鉄鋼の過剰生産は、先の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)でも、世界経済の不安材料とされた。習政権には、国有企業の整理などを着実に進め、混乱の芽を摘む責務がある。

今回はオバマ政権下で最後の戦略対話となった。米側は、一連の対話を通じ、気候変動対策やイランの核問題などで協力が深まり、成果が出たと説明する。軍当局間の交流により、不測の衝突を防ぐ一定の効果はあっただろう。

中国は「核心的利益」と位置づける問題で一切譲歩しなかった。対立の解消より、協調を演出する側面が目立ったのではないか。

産経新聞 2016年06月08日

南シナ海問題 軍事拠点化へ時間稼ぎ 常設仲裁裁判所の判断に中国の理屈は通らない

米中戦略・経済対話で、南シナ海問題をめぐる応酬があり、ケリー米国務長官は「国際法と国際ルールに従うよう求める」と述べた。

単純明快で当然の要求である。

係争海域の岩礁を埋め立てて人工島を造成し、軍事施設を建設する行為は力による現状変更であり、露骨な国際ルールの無視だ。だが、中国側は耳を貸さない。

来年初めに政権交代を迎えるオバマ米政権にとって、中国との本格的な対話の、残された数少ない機会でもあった。

政権が交代しても対話の枠組みを維持し、中国に対し、国際社会の当たり前の要求を突き付けていくしかあるまい。

米中対話の冒頭、習近平国家主席は「しばらく解決できない争いもある」とし、それにより「両国関係が障害を受けることを避けねばならない」と述べた。

国際社会の批判と懸念の声をかわし、軍事拠点化への時間を稼ぐ思惑なのだろう。国際ルールを守るより、投資協定の協議を急ごうとするなど、自らの利益だけを追求する姿勢が目立った。

注目したいのは、近く予定される常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の南シナ海問題をめぐる判断である。フィリピンが国連海洋法条約に基づき、中国の領有権主張に根拠はないなどと訴えを起こした。

中国は審理を欠席したが、国際社会の関心が集まり、対応に苦慮している。判断の内容はもとより、問われるのは、中国が判断に真摯(しんし)に耳を傾けるかどうかだ。

産経新聞 2016年06月06日

南シナ海と中国 孤立への道から引き返せ

シンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)は、今年も南シナ海への強引な進出を続ける中国の異質性が際立った。

日本や米国が中国による人工島の軍事拠点化を非難し、「国際法の順守と自制的な振る舞い」(中谷元(げん)防衛相)を求めたのは当然である。

国際法に基づく秩序こそが繁栄の基盤となる。それに反する南シナ海の軍事拠点化は、直ちにやめるべきだ。孤立への道から引き返す勇気を持てるかどうかが、中国に問われている。

カーター米国防長官は会議での講演で、中国がこれらの行動を改めなければ「自らを孤立させる万里の長城を築くことになる」と指摘した。

とくに注目したいのは、南シナ海のスカボロー礁の埋め立てに中国が着手すれば「米国と周辺国は行動を起こすことになる」とカーター氏が警告したことである。

フィリピン・ルソン島の西方わずか約200キロの同礁を中国が軍事利用すれば、脅威となる。南シナ海での防空識別圏(ADIZ)の設定、運用が容易になってしまうからだ。

南シナ海の緊張を高める軍事拠点化をやめ、南シナ海の領有権問題をめぐる常設仲裁裁判所の裁定が下れば従う。それこそが「法の支配」を尊重する側に中国が復帰するチャンスである。

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