日本企業を相手取った新たな訴訟や賠償請求の動きが中国で広がらないか、懸念される。
戦時中に中国から強制連行され、労働を強いられたとする中国人の元労働者らが三菱マテリアル(旧三菱鉱業)に謝罪と損害賠償を求めていた問題で、双方が和解した。
三菱マテリアルは「歴史的責任」を認めて謝罪を表明した。1人当たり10万元(約170万円)を支払う。働いていたのは3765人で、強制連行を巡る日本企業の和解としては過去最大規模だ。
訴訟の長期化や多額の賠償金のリスクを避けるとともに、中国ビジネスの展開を優先するために、和解を選んだのだろう。
中国側には、日本人弁護士も関与した。強制連行された中国人労働者は約3万9000人で、関係した企業は35社に上るという。
今回の和解を機に巨額の費用負担を迫られるケースが続けば、対中投資に二の足を踏む企業が一段と増えかねない。
中国政府は、1972年の国交正常化時の日中共同声明で、日本に対する戦争被害の賠償請求を放棄すると宣言した。日本政府は一貫して、「日中間の請求権問題は存在していない」との立場だ。
だが、中国政府は、個人の賠償請求権は共同声明では決着していないと一方的に解釈している。
日本の最高裁は2007年、「日中共同声明により、中国人個人は戦争被害について、裁判上の賠償請求はできなくなった」として、中国人の訴えを棄却した。
一方で、関係企業などに「被害者の救済に向けた努力が期待される」とも付言した。不用意だったのではないか。三菱マテリアルの判断にも影響しただろう。
共産党政権の指導下にある中国の裁判所は当初、中国人の訴えを受理しなかった。円借款などで経済発展を支えた日本との関係を重視していたためとみられる。
問題なのは、14年3月、三菱マテリアルの強制連行に関し、北京の裁判所が一部の元労働者らによる訴訟を受理したことである。
習近平政権は、安倍首相の靖国神社参拝などを受け、対日圧力を強める方針に転換したのだろう。今回も和解を黙認することで、歴史問題で日本を牽制できるとの思惑があるのではないか。
韓国では、戦時中に動員された元徴用工が損害賠償を求めた裁判が続いている。法的に解決済みの問題を中韓両国が改めて蒸し返すことのないよう、日本政府は、警戒せねばならない。
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