甘利氏不起訴 灰色の口利き利得を説明せよ

朝日新聞 2016年06月02日

甘利氏不起訴 政治不信深めたザル法

あんなにおかしなことをしても罪にならないのか――。多くの人が釈然としない思いを抱いたのではないか。

甘利明・前経済再生相をめぐる金銭疑惑を調べていた東京地検は、同氏と元秘書2人を不起訴処分にしたと発表した。

甘利氏らは都市再生機構(UR)と土地の補償交渉をしていた業者から計600万円を受けとるなどした。その前後に元秘書は業者側にたってURに働きかけをしており、あっせん利得処罰法違反の疑いがもたれた。だが、起訴できるだけの証拠がそろわなかったという。

16年前にこの法律が議員立法でつくられたときから、ザル法との批判がついてまわった。

とりわけ問題とされたのは、国会議員らが口利きの見返りに金を手にしても、「権限に基づく影響力」を行使しなければ摘発されないことだった。

当時の野党はこの要件に反対した。国会に参考人として招かれた学者らも「法律上の権限はないが顔のきく大物議員が働きかけたときには適用できない」「抜け道が多い」と繰り返し指摘した。だが自民、公明などは「処罰範囲が広くなると自由な政治活動が萎縮する」との理由から削除に応じなかった。

そして今回、当時の懸念が現実のものとなった。

政治家やその秘書が人々の要望を聞き、役所などに伝えるのがいけないと言うのではない。口を利いて金をもらうことはしない。違反した者は罰する。必要なのは、当時も今も、この単純で当たり前の考えにたち、それを実効たらしめる法律だ。

あっせん利得処罰法は、政治家らの清廉さをたもち、国民の信頼を得ることを目的としている。だが甘利氏らの一連の行いと不起訴という結末によって、政治不信はむしろ深まった。

批判の目は甘利氏にとどまらず、お手盛りで法律をさだめ、そのままにしてきた国会にも向けられている。与野党とも問題がどこにあるかを検証し、見直しにむけて動くべきだ。

起訴はまぬがれたが、甘利氏の刑事責任と道義的・政治的責任は別である。大臣を辞任したことし1月末以降、体調不良を理由に国会を休みつづけ、秘書の行動について「調査を進め、公表する」との約束は、いまだ果たされていない。

甘利氏は、捜査への配慮から中断していた独自の調査を再開するとの談話を出す一方で、検察審査会の動きに触れ、発表が遅れる可能性も示唆した。

何をかいわんや。先延ばしは、もう許されない。

読売新聞 2016年06月01日

甘利氏不起訴 灰色の口利き利得を説明せよ

あくまで、刑事責任は問えないということだ。疑惑が晴れたわけでは決してない。

甘利明・前経済再生相を巡る現金授受問題で、東京地検特捜部は、あっせん利得処罰法違反容疑で告発されていた甘利氏と元秘書2人を、いずれも不起訴とした。

不起訴理由は「嫌疑不十分」であり、灰色の部分は残っている。甘利氏は、不透明な現金授受について、きちんと説明する責任があることを忘れてはならない。

甘利氏と元秘書が、千葉県の建設会社側からの依頼で都市再生機構(UR)との補償交渉に口利きをし、謝礼として現金計600万円を受け取ったという疑惑だ。

あっせん利得処罰法違反に問うには、政治家や秘書が権限に基づく影響力を行使して口利きをした見返りに、報酬を得ていたことを立証する必要がある。

特捜部は、甘利氏本人や元秘書、URの担当者らから事情聴取し、関連書類を押収したが、影響力の行使に関する具体的な証拠を得られなかった。不起訴しか選択肢はなかったということだろう。

ただし、元秘書らが建設会社側の求めに応じ、UR側と面談を重ねたのは事実だ。建設会社側から再三、接待も受けていた。こうした癒着ぶりを踏まえれば、甘利氏側への現金提供には、やはり不透明さが拭えまい。

不起訴を受け、甘利氏は「あっせんに該当するようなことは一切していない旨を説明し、受け止めてもらえたと思っている」などとするコメントを発表した。

甘利氏は1月に経済再生相を辞任した際に記者会見を開いて以降、体調不良を理由に国会にも姿を見せていない。弁護士による調査結果も公表しないままだ。

甘利氏は調査について、「捜査への配慮から中断していた」と釈明している。弁護士は「検察審査会への申し立ての有無など、状況を見ながら調査を再開したい」との意向を示しているという。

「政治とカネ」に関し、国民の不信をこれ以上増大させないためにも、甘利氏は一刻も早く公の場で、説明責任を果たすべきだ。

UR側の対応にも疑問は多い。元秘書との面談後、建設会社に2億2000万円の補償金を支払う契約を結んでいた。URの担当職員は、建設会社側から度重なる飲食接待も受けていた。

URは国と自治体が出資する独立行政法人だ。多額の支出に、不適切な点はなかったのか。徹底的な検証が必要である。

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