消費増税延期へ 「脱デフレ」優先の説明尽くせ

朝日新聞 2016年06月01日

増税再延期 議論なき決定の異様さ

消費増税をどうするかは、将来世代を含む国民の暮らしを左右する重要テーマだ。政府与党内の事前の検討も、国会の議論もないまま、首相の一存で押し切っていいものではない。

来年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げを2年半、再延期する。

安倍首相のこの方針は、国会会期末間際になって、いきなり持ち出された。それまで150日間の国会審議を通して、首相は「リーマン・ショックあるいは大震災級の影響のある出来事が起こらない限り、引き上げを行っていく」と語っていたはずである。

持ち出し方も異様だった。自民党内でも、政府内でも、ましてや国会でも、首相方針をめぐる議論をまったく経ないまま、有力閣僚や与党幹部を個別に呼び、同調を求めていった。

「前回延期を決めた時、17年4月に引き上げると約束した」と明確に反対したのは麻生財務相くらい。その麻生氏にしても最後は「総理がそういうなら」とあっさり折れた。

あまりにも強い首相の力と、その方針を議論なく追認するしかない与党の姿――。安倍政権のいびつな権力行使のあり方が象徴的に表れたと言える。

野党4党がきのう提出した内閣不信任案は否決され、国会はきょう閉会する。

だが本来なら、国会を延長して与野党で十分に議論すべき大問題である。論点は数多い。

伊勢志摩サミットで首相が唐突に言及した「世界経済が危機に陥るリスクに直面している」という主張に妥当性はあるか。

増税延期で社会保障や財政再建にどんな影響があり、どんな手立てを打つべきなのか。その財源はどう捻出するのか。

近づく参院選をにらんだ選挙対策ではないのか。

民進党にも問いたい。

5月半ばの党首討論で、岡田代表が「消費が力強さを欠くなか、先送りせざるをえない状況だ」と述べ、増税延期論の先鞭(せんべん)をつけたのは民進党だった。

4年前、当時の野田民主党政権が主導して自民、公明両党と合意した「税と社会保障の一体改革」を思い起こすべきだ。

消費税を引き上げて、膨らむ社会保障の財源に充てる。今を生きる世代に痛みはあっても、将来世代へのつけ回しは極力避ける。そんな一体改革の精神を忘れてはいないか。

首相はきょう国会閉幕の記者会見で増税再延期について説明する。民進党の岡田代表もあわせ、参院選の論戦を通じて国民への十分な説明を求める。

読売新聞 2016年06月02日

消費増税延期 アベノミクスをどう補強する

消費増税の2年半先送りを決断した以上、その間に、デフレ脱却と成長力強化を着実に実現しなければならない。

安倍首相には、増税延期による施策への影響や代替財源の確保策を示す責務もある。

首相が記者会見で、2017年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げを19年10月に延期すると、正式表明した。理由について、世界経済に下方リスクがある中、増税が「内需を腰折れさせかねない」と説明した。

14年11月に1回目の延期を表明した際、再延期を明確に否定した点については、「公約違反との批判を真摯しんしに受け止めている」と語った。アベノミクスの加速か、後戻りかを参院選の最大の争点に掲げ、民意を問う考えも示した。

アベノミクスは雇用改善などに効果を上げたが、消費のもたつきなどの課題も残る。脱デフレを確実に果たすため、消費増税の先送りはやむを得ない選択だ。

首相は、今秋に「総合的で大胆な経済対策」を策定する方針を示し、「アベノミクスのエンジンを最大限にふかす」と強調した。

肝心なのは、従来のアベノミクスに何が不足し、どう補強すべきなのか、十分点検することだ。

企業利益の増加が賃上げで家計を潤し、消費を押し上げる。そんな「経済の好循環」の歯車が回らない。個人も企業も守りの姿勢で貯蓄を増やしているためだ。

従来型の公共事業などで一時的にエンジンをふかすのではなく、民間の消費や投資を喚起する処方箋こそが求められる。

消費税率10%で見込まれる4・4兆円の税収増のうち、約1・3兆円は社会保障の充実策に使われる予定だった。低所得者の介護保険料軽減や50万人分の保育受け皿確保などの重要施策が多い。

政策にどう優先順位をつけるか。実施に必要な安定財源をいかに確保するか。その具体策を、参院選の公約で明示すべきだ。

日本の長期債務は、国内総生産(GDP)の2倍を超える、先進国で最悪の水準にある。

首相は、20年度に基礎的財政収支を黒字化する目標を守ると明言した。だが、増税を見込んでも6・5兆円の赤字が残る。延期で実現は一段と不透明になった。

消費税を財源に社会保障を支える「税と社会保障の一体改革」は堅持しなければならない。

景気への影響を緩和しつつ消費税率を上げていくためにも、10%時の軽減税率導入が不可欠だ。その準備をしっかりと進めたい。

産経新聞 2016年06月02日

消費増税の再延期 今度こそデフレ脱却を 社会保障への影響食い止めよ

安倍晋三首相が消費税10%への増税を再延期すると表明した。

日本経済にとり、また安倍政権の最大課題であるデフレ脱却を実現するうえで、景気回復が遅れる中での増税実施は困難だと考えたためだ。その判断自体は現実的かつ妥当なものといえよう。

社会保障財源に充てる消費税の増税延期はこれで2度目である。最初の延期に際し、首相は再延期はないと断言していた。重大な政策変更について、国民に丁寧な説明を尽くすことが欠かせない。

≪個人消費の活性化急げ≫

増税をいつまでも先送りできるわけではない。今度こそ、増税を確実に実施できるような強い経済をつくり上げなければならない。アベノミクスを厳しく点検し、成長基盤の底上げに資する戦略を早急に描き直す必要がある。

増税再延期に伴い、予定していた社会保障の充実や財政健全化への影響も避けられないだろう。どのように対応するのかの道筋を示すことも重要である。

当面は増税をしないのだから、国政選挙でその是非を問うても国民から大きな反発は受けまい。そうした安易な見方があるとしたら大きな間違いである。首相は、リーマン・ショックに匹敵するような危機がなければ再延期はないと直前まで語っていたのだ。

朝日新聞 2016年05月31日

消費増税の再延期 首相はまたも逃げるのか

来年4月の予定だった10%への消費増税を2年半先送りし、実施は19年10月とする。

安倍首相が、政府・与党幹部に増税延期の方針を伝えた。もともと15年10月と決まっていたのを17年4月に延ばしたのに続き、2度目の先送りである。

なぜ19年10月なのか。

首相の自民党総裁としての任期は18年秋まで。首相在任中は増税を避けたい。そして19年春~夏に統一地方選と参院選がある。国民に負担増を求める政策は選挙で不利になりかねない。だから選挙後にしよう――。

そんな見方が、与党内でもささやかれている。

■「一体改革」はどこへ

私たち今を生きる世代は、社会保障財源の相当部分を国債発行という将来世代へのつけ回しに頼っている。その構造が、1千兆円を超えて国の借金が増え続ける財政難を招いている。だから、税収が景気に左右されにくい消費税を増税し、借金返済に充てる分も含めすべて社会保障に回す。これが自民、公明、民主(当時)3党による「税と社会保障の一体改革」だ。

国民に負担を求める増税を、選挙や政局から切り離しつつ、3党が責任をもって実施する。それが一体改革の意味だった。選挙に絡めて増税を2度も延期しようとする首相の判断は、一体改革の精神をないがしろにすると言われても仕方がない。

首相は1度目の増税延期を表明した14年11月の記者会見で、次のように語っていた。

「財政再建の旗を降ろすことは決してない。国際社会で我が国への信頼を確保し、社会保障を次世代に引き渡していく安倍内閣の立場は一切揺らがない」

「(増税を)再び延期することはないと断言する」

この国民との約束はどこへ行ったのか。

■「リーマン」とは異なる

首相が繰り返す通り、リーマン・ショック級や東日本大震災並みの経済混乱に見舞われた時は、増税の延期は当然だ。

足元の景気は確かにさえない。四半期ごとの実質経済成長率は、年率換算でプラスマイナス1%台の一進一退が続く。一方、リーマン直後の成長率はマイナス15%に達した。大震災時の7%を超えるマイナス成長と比べても明らかに異なる。

それでも消費増税を延期したい首相が、伊勢志摩サミットで持ち出したのが「世界経済が通常の景気循環を超えて危機に陥る大きなリスクに直面している」というストーリーだ。

アベノミクスは順調だ、だが新興国を中心に海外経済が不安だから増税できない、そう言いたいのだろう。これに対し、独英両国などから異論が出たのは、客観的な経済データを見れば当然のことだ。

一方、野党は増税延期について「アベノミクスが失敗した証拠だ」と首相に退陣を求める。だがアベノミクスの成否を論じる前に、それが日本経済への処方箋(せん)として誤っていないか、改めて考える必要がある。

一国の経済の実力を示す指標に「潜在成長率」がある。日本経済のそれはゼロパーセント台にすぎないと政府も認める。

潜在成長率を高めるには、どんな施策に力を注ぐべきか。

まず保育や介護など社会保障分野だ。税制と予算による再分配を通じて、支えが必要な人が給付を受けられるようにする。保育士や介護職員の待遇を改善し、サービス提供力を高めていく。負担と給付を通じた充実が、おカネを循環させて雇用を生むことにつながる。

温暖化対策や省エネ、人工知能開発など、有望な分野への投資を促す規制改革も大切だ。

■アベノミクス修正を

これらの施策は短期間では成果が出にくいから、金融緩和や財政で下支えする。その際に副作用への目配りを怠らない。それが経済運営の王道だろう。

だがアベノミクスは「第1の矢」の異次元金融緩和で物価上昇への「期待」を高め、それをてこに消費や投資を促そうとしてきた。金融緩和を後押しする「第2の矢」である財政では、大型補正予算の編成など「機動的な運営」を強調する。

首相はサミットを締めくくる記者会見で「アベノミクスのエンジンをもう一度、最大限ふかしていく」と強調した。

しかし金融緩和の手段として日本銀行が多額の国債を買い続ける現状は、政府の財政規律をゆるめる危うさがつきまとう。補正予算も公共事業積み増しや消費喚起策が中心では、一時的に景気を支えても財政悪化を招き、将来への不安につながる。

首相がいまなすべきは金融緩和や財政出動を再び「ふかす」ことではない。アベノミクスの限界と弊害を直視し、軌道修正すること。そして、一体改革という公約を守り、国民の将来不安を減らしていくことだ。

選挙を前に、国民に痛みを求める政策から逃げることは、一国を率いる政治家としての責任から逃げることに等しい。

読売新聞 2016年05月31日

消費増税延期へ 「脱デフレ」優先の説明尽くせ

◆同日選見送りは妥当な判断だ◆

重大な政策変更だ。消費増税延期の理由や、修正を迫られる財政健全化の道筋などを国民に丁寧に説明し、理解を得ることが欠かせない。

安倍首相が、消費増税を2年半延期し、衆参同日選を見送る考えを与党幹部に伝えた。

麻生副総理兼財務相や自民党の谷垣幹事長らとの協議を経て、公明党の山口代表とも会談した。

2017年4月の消費税率10%への引き上げは、19年10月まで先送りする。与党は、一連の首相の判断を受け入れる方向だ。

◆「リーマン級」に違和感

景気の回復は足踏みを続けており、デフレ脱却は道半ばである。特に内需の柱の個人消費は、14年4月に実施した前回の消費増税で落ち込んだままだ。

ここで増税を強行すれば、消費マインドがさらに冷え込む恐れがある。脱デフレによる日本経済再生を掲げる首相が、増税延期を政治決断したのは理解できる。

気がかりなのは、首相が、世界経済の現状を08年のリーマン・ショック時の状況と比較して、増税先送りの必要性を論じていることだ。

確かに、世界経済は、中国をはじめとした新興国経済の減速などの下方リスクを抱えている。先進各国が財政出動を含む政策総動員で牽引けんいんする必要がある。先週の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)でも、安倍首相の主導で確認された。

だが、世界同時不況が心配されるような状況にあるとの見方は少ない。一時急落した原油価格は回復傾向にある。米国も、景気が上向いたとして、追加利上げのタイミングを計り始めている。

◆アベノミクスの強化を

リーマン・ショックを引き合いに出すことには違和感がある。

首相がこうした見解にこだわるのは、「リーマンや東日本大震災級の出来事がない限り、予定通り増税する」と繰り返してきたためだ。アベノミクスが失敗したとの批判に反論する狙いもあろう。

アベノミクスが、日銀による金融緩和などで円高・株安を修正し、長く低迷を続けた日本経済を浮揚させたのは事実だ。

アベノミクスを一層強化し、成長基盤を底上げしようとする政策の方向性は間違っていない。

安倍政権が目指す「経済の好循環」の実現が遅れている状況や、世界経済の下振れが国内経済に与える影響などについて、率直に語ることが大切だ。

増税の先送りで生じる時間を有効活用して、今度こそ、消費増税を行える「強い経済」を確かなものにしたい。

首相は、増税を先送りした場合も、20年度に基礎的財政収支を黒字化する財政健全化目標は堅持する方向だという。高い成長を前提とした現行の計画でも、6・5兆円の赤字が残る。

10%への引き上げによる増収分で予定されていた社会保障の充実策の財源に、穴が開いてしまうという問題もある。

◆なぜ2年半の先送りか

これらの課題にどう対応するのか。具体策が求められる。

増税時には、家計の痛税感を和らげるため、食品などへの軽減税率導入が不可欠だ。円滑な導入への準備は怠れない。

安倍首相は、増税延期の期間を2年半とすることについても、きちんと説明せねばなるまい。

19年秋には翌年の東京五輪の特需が始まるが、その前の増税には懸念があるのだろう。

18年9月末には、首相の自民党総裁任期が切れる。さらに、19年春に統一地方選、夏には参院選が予定される。増税時期を19年10月にすることには、これら重要選挙への影響を小さくすることが目的だとの見方がある。

首相は14年11月、消費増税を17年4月へ延期する是非を問うとして、衆院解散を断行した。

このため、与党内には、増税を先送りする場合は、衆参同日選に踏み切るべきだとの声もある。

国政選の機会がなかった前回と異なり、今回は7月に参院選が控える。自公両党は、改選議席の過半数の確保を目指すことで、民意を問うことができよう。

衆院選には、与党で3分の2の議席を割り込むリスクもある。

首相が同日選の見送りを決めたのは、妥当な判断と言える。

民進、共産など野党4党は党首会談で、31日に内閣不信任決議案を提出することを決めた。安全保障法制の制定や「経済失政」を批判し、首相退陣を求めている。

民進党も増税の2年先送りを主張している。与党は、淡々と不信任決議案を否決すればよい。

産経新聞 2016年05月31日

消費増税の再延期 首相は国民に説明つくせ

安倍晋三首相が政府与党の幹部と相次いで会談し、来年4月の消費税増税を2年半再延期する方針を示した。

国内景気は力強さを欠いている。このまま予定通りに増税すれば、デフレ脱却が危うくなる。そう判断したのであれば、ひとつの選択肢だ。

ただ、その前提は、増税できる経済環境を作るという約束を果たせなかったことを首相が認め、その原因を明確に説明することだ。同時に、アベノミクスの足らざる部分を具体的にどう補強するかを示さねばならない。

成長戦略や持続的な社会保障制度の構築は万全だったのか。

これらに向き合わず、再延期の理由を海外経済のリスクに求めるばかりでは、国民の理解は得られまい。それだけではなく、経済再生の処方箋も誤りかねない。首相には丁寧に説明を尽くしてもらいたい。

首相は伊勢志摩サミットで、世界経済はリーマン・ショック前に似た状況だと語った。新たな危機を回避するため、増税を見送るという理屈立てだろう。

だが、首相の認識は各国首脳の共通理解とはならなかった。国内にも異論は多い。足元がリーマン級の事態だということと、そのリスクが深まっていることは別のものだ。取るべき対応も異なる。もっと整理して説明すべきだ。

増税を見送れば、政府の財政再建目標や社会保障財源の確保などにも多くの課題が残る。確かな道筋を示さねばならない。

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