出生率上昇 子育て支援を着実に

朝日新聞 2016年05月25日

出生率上昇 子育て支援を着実に

1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す合計特殊出生率が昨年、1・46と2年ぶりに上昇した。

1994年の1・50以来の水準で、生まれた子どもの数も5年ぶりに前年より増えた。厚生労働省は、近年の経済状況の好転が後押ししたとみる。

ただ、出生数が増えたとはいえ死亡数はそれを上回っていて、人口の減少は28万人を超えて過去最大を更新した。これから出産する年代の女性が減っていくだけに、人口減の大きな流れは変わりそうにない。

結婚したい人、子どもがほしい夫婦、そんな人たちの希望がかなえば出生率は1・8程度になる――安倍政権の掲げる、そんな「希望出生率1・8の実現」という目標にもほど遠い。

子どもを産み、育てやすい環境を整備することは、今後も最重要の課題だ。手を緩めるわけにはいかない。

少子化の要因の一つが未婚の増加だ。結婚したカップルは昨年、戦後もっとも少ない63万5千組余りだった。結婚観の変化もあるだろうが、収入の少なさや生活への不安を理由に結婚をためらう若者が少なくない。雇用の安定は喫緊の課題だ。

「保育園落ちた」の匿名ブログで注目が集まった待機児童問題も、なお深刻だ。保育所に入れず育児休暇を延長した例など、いわゆる「隠れ待機児童」を含む総数は、昨年4月時点で8万人以上にのぼる。保育サービスの拡充は待ったなしだ。

日本は欧米諸国に比べて長時間労働の人の割合が多いと言われる。それが、女性が出産後も子育てをしながら働き続けることや、夫が育児に参加することを難しくし、仕事と子育ての両立を阻んでいるとされる。長時間労働の是正も急務だ。

政府が保育所の緊急整備や子育てと仕事の両立支援など「子育て支援総合計画」(エンゼルプラン)を打ち出してから20年以上が過ぎた。課題はとっくに出そろっているのに、少子化は遠い先のこととして本格的な対策が先延ばしされてきた。その歴史を忘れてはならない。

安倍政権は看板政策の「1億総活躍プラン」で保育サービスの拡充や保育士の待遇改善をうたうが、それ以前に、「税と社会保障の一体改革」で約束した子育て支援の充実策が、財源のめどが立たないまま置き去りになっている。

まずは消費税率を10%に上げて財源を確保し、手薄だった子育て世代への支援を強化する。一体改革での「約束」すら守れないのでは看板政策もかすむ。

産経新聞 2016年05月27日

出生率上昇 危機的状況に変わりない

暗い話題の多い人口問題にあって、久々の朗報とはいえる。

昨年の出生数が100万5656人となり、5年ぶりに増加に転じた。1人の女性が生涯に産む子供の推定数である合計特殊出生率も1・46へと若干の回復となった。

厚生労働省の見立てでは、平成25、26年ごろに経済が好転し、子供を持とうとする人が増えたためだという。

だが、楽観は禁物である。むしろ、危機的状況に変わりはないと認識すべきだろう。

出産できる年齢から団塊ジュニア世代が外れ始めており、そうした女性の数が減るためだ。昨年と同じ出生率1・46だった5年の出生数は約18万人多かった。出生率が多少上向いても、女性が少なければ出生数は大きく増えない。

昨年は初産の母親の平均年齢が30・7歳と過去最高を記録し、晩産化傾向が続いている。30代以上の出産が増え、20代は減った。婚姻件数も戦後最少である。

結婚や出産は個人の選択だが、望みながらも実現できない人が大勢いる。国民の希望がかなうよう、官民を挙げて少子化問題への取り組みを急ぐべきである。

まずは第1子対策だ。日本では結婚による出産が多く、結婚支援策の強化が有効といえよう。少子化社会対策白書によれば、20~49歳の4割が「結婚生活にかかるお金」を心配している。雇用の安定が何より重要である。

男性は年収300万円未満で未婚者が多い傾向にある。正社員を増やし、所得を高める企業経営に期待したい。政府はこれを後押しするよう環境を整備すべきだ。

白書は、若い未婚男女の4割近くが職場に独身の異性がいないという調査も紹介している。出会いのきっかけを増やすことが大切である。周囲で縁談を勧める「世話焼き」の人が、もっといてもいいのではないか。

第2子以降を諦めている人も少なくない。夫による休日の家事・育児時間が長い家庭ほど第2子以降が多いとの調査結果もある。家事参加を促すには、長時間労働の是正を進めるべきだ。政府は保育士の待遇改善に乗り出すが、使いやすい保育サービスにつながるよう工夫を重ねてもらいたい。

少子化対策に近道はない。出生数の反転を確かな流れにするためにも、個々ができるところから始めることが重要となる。

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